「ベンツ」ブランドの厳つい最新軍用トラック
ドイツのダイムラー・トラック社は、2024年6月にパリで開催された「ユーロサトリ2024」にて、オフロード・トラック「ゼトロス」を展示しました。
「ゼトロス」はダイムラー・トラック社がメルセデス・ベンツのブランドで製造・販売しているオフロード・トラックです。この種のトラックとしては同社製の「ウニモグ」が有名ですが、こちらはプロトタイプが設計されたのは1945年と古く、一方の「ゼトロス」はそれよりも新しく、一般に初公開されたのは2008年となっています。
特徴はウニモグと同じ全軸駆動によるオフロードでの高い走破性と、4×4(2軸4輪)、6×6(3軸6輪)、8×8(4軸8輪)という複数のシャシー・バリエーションによって、さまざまな車両規模と積載量に対応したモデルが用意されていることです。また、近年のヨーロッパ製トラックでは珍しく、エンジンが運転席の前にある、いわゆるボンネットタイプなのもモデル全体の共通点となっています。
主な顧客は世界各国の軍隊や消防などの行政組織であり、アルジェリア、チリ、フィンランド、ドイツ、ヨルダンなどの陸軍や法執行機関、消防などで導入されています。
2024年6月現在、最も新しいユーザーはカナダ軍で、同年1月にLVM(ロジスティック車両近代化)計画で1500台以上の大量採用を決めています。会場にはカナダが導入した最新型の8WDの装甲キャビンモデル「ゼトロス 8×8」も展示されており、筆者(布留川 司:ルポライター・カメラマン)はそれを見ながら、担当者から詳しい説明を受けることができました。
なぜ、ボンネットタイプで8WDなの?
まず聞いたのは、なぜ「ゼトロス」では、ボンネットタイプにしたのかという点。その理由は、車高を下げることで輸送機や鉄道での輸送を可能にするためと答えてくれました。
民間トラックに多いキャブオーバータイプの場合、輸送機の荷室に入らず、鉄道輸送時には通過するトンネルの天井と接触する危険性があるとのこと。軍用トラックでいまだにボンネットタイプの車両が多いのも、これが一番の理由のようです。
ボンネットタイプのもうひとつの利点が運用の効率化です。エンジンが前方にあるため、点検や修理時に整備員がアクセスしやすく、設備のない野外での作業もしやすくなるということでした。
新しい8輪モデルを開発した理由については、トラックとしての積載量を増やすことが目的だといいます。2軸4輪の「ゼトロス 4×4」での車体総重量は16.5tなのに対して、「ゼトロス 8×8」の車体総重量は倍以上の38tにまで増えており、そのぶん貨物の積載量も約25tあります(コンテナなどの架装の重量によって数値は変化するとのこと)。
また、運転席の右前方にはエンジンの吸気用のシュノーケル型インテークが取り付けられていますが、これにより最大で深さ1.15mまでの水中渡渉も可能です。また、シュノーケルは砂漠や荒れ地を走行するさいに、舞い上がった砂を吸込まないという利点もあるとのことで、先端部分にはそのためのフィルターも設置されるそうです。
会場に展示された「ゼトロス 8×8」はカナダ軍のテストで実際に使われた車両で、運転席は装甲化されており、一定の防弾性能(詳細は非公開)があるそうです。ただ、装甲化は車体重量が増えるデメリットも含有するため、燃費や最高速度などといった機動性に悪影響が出る恐れも。そのため、この装甲仕様はカナダが導入する約1500台の内の一部に留まるとのことでした。
え、ゼトロスが日本にあるって!?
「ゼトロス」はドイツ製らしい質実剛健なトラックだといえますが、これを軍隊以外の民間などで購入するのは難しいようです。その理由は軍事機密や価格の問題ではなく、エンジンの排ガス規制です。
この車両は欧州の排ガス規制の中で、2009年から導入された「ユーロ5」までしか対応しておらず、現行の「ユーロ6」にすら対応していないため、将来より厳しい「ユーロ7」が施行されることがほぼ間違いないなか、民間車として新規導入することは事実上、無理だと言えるでしょう。
このように事実上、日本で所有することが難しい「ゼトロス」ですが、実は過去、国内で走っていたことがあります。それは、2011年の東日本大震災の発災時。このとき、ダイムラー社が復興支援のために「ゼトロス」8台を、「ウニモグ」4台と共に無償提供したのです。本来なら、公道走行するためには陸運局で申請登録の手続きが必要でしたが、2年間の期間限定で仮ナンバーを迅速に交付。寄贈された日本財団によって被災地での物資輸送や瓦礫処理に使われました。
こうして被災地の復興支援に活躍した「ゼトロス」と「ウニモグ」は、それぞれ1台ずつが石川県小松市にある日本自動車博物館に寄贈され、現在もここで展示されています。期間限定ながら、日本国内を走り抜けたメルセデス・ベンツ製の激レア大型トラック、見に行けば何かしらの発見があるのではないでしょうか。
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