■かつてWRCに出場していた欧州製高性能4WD車を振り返る
現在、世界ラリー選手権(WRC)にワークス参戦している国産メーカーはトヨタのみですが、かつては日産、マツダ、三菱、スバル、ダイハツ、スズキなど、数多くのメーカーが参戦していました。
とくに印象深いのは三菱「ランサーエボリューション」とスバル「インプレッサ WRX」で、両車はガチンコのライバル同士だったことから、非常に短いスパンで改良が重ねられたことが思い出されます。
当時のWRCは、量産された市販車を改造した「グループA」にカテゴライズされるマシンによる戦いだったため、ベース車両のポテンシャルも需要で、トップカテゴリーではどのモデルもターボエンジン+フルタイム4WDであることが必須でした。
その結果、1980年代の後半から国産メーカーが次々とターボ4WD車を発売しました。しかし、高性能なターボ4WD車の開発は欧州メーカーが先に確立し、WRC参戦をターゲットとしたモデルが複数誕生しました。
そこで、往年の欧州製高性能ターボ4WD車を、3車種ピックアップして紹介します。
●ランチア「デルタ HF インテグラーレ エボルツィオーネ」
前述のランサーエボリューションとインプレッサ WRXよりも早くにデビューし、世界ラリー選手権(WRC)を席巻していたのがランチア「デルタ HF インテグラーレ」です。
デルタは1979年に誕生し、比較的オーソドックスなFFコンパクトカーとして開発されたモデルですが、フィアットグループはWRCに参戦するため、1986年にデルタをベースにアバルトの手によって開発された「デルタ HF 4WD」を発売しました。
最高出力165馬力を発揮する2リッター直列4気筒DOHCターボエンジンを搭載し、駆動方式はトルセンセンターデフを用いたフルタイム4WDを採用していました。
そして1987年シーズンからWRCに参戦を果たし、1988年には最高出力185馬力に向上した「デルタ HF インテグラーレ」が登場。外観はサイズアップしたタイヤを収めるために、前後ブリスターフェンダーのワイドボディを採用し、より戦闘的なフォルムへと変貌をとげました。
その後、1989年には16バルブエンジンで最高出力200馬力にアップした「デルタ HF インテグラーレ16V」、1992年にはさらに大きくフェンダーを拡幅し、最高出力210馬力を誇る究極の進化形モデル「デルタ HF インテグラーレ エボルツィオーネ」が登場しました。
1988年からデルタの強力なライバルのトヨタ「セリカ GT-FOUR」が参戦していましたが、ランチアが6年連続でメーカータイトルを獲得するなどデルタは最強を誇り、このWRCの活躍から日本でもデルタは人気を集めました。
●フォード「エスコート RS コスワース」
アメリカのフォードは120年近い歴史のあるメーカーで、今から50年以上前には北米以外でも総合的な開発と生産の拠点を置くなど、グローバルで製造・販売を展開していました。
なかでも欧州フォードは北米モデルとは異なる独自の車種を数多く開発し、そのなかの1台が欧州版「エスコート」です。
初代エスコートは1967年に登場し、ボディは2ドア/4ドアセダン、バン、ステーションワゴンをラインナップする大衆車としてデビュー。FR駆動のコンパクトかつ軽量な車体を生かして、ラリーなどモータースポーツでも活躍しました。
その後、代を重ねて1990年に登場した5代目では、WRCへの参戦を目的に開発された「エスコート RS コスワース」が登場。
エスコートのFF3ドアハッチバックモデルをベースに、フォードのモータースポーツ部門と名門チューナーのコスワースの手により共同開発されたエスコート RS コスワースは、最高出力227馬力を誇る2リッター直列4気筒DOHCターボエンジンをフロントに縦置きに搭載し、駆動方式はセンターデフに遊星ギアとビスカスカップリングを組み合わせたフルタイム4WDを採用しました。。
外観の特徴はテーブルのような巨大なリアスポイラーで、センターに支柱があり、リアゲート下部に中型のスポイラーを装着した2段タイプです。
ほかにもフロントに装着された大型スポイラーと前後ブリスターフェンダーによって、機能的かつ迫力ある外観を演出。
ちなみに、開発段階ではリアスポイラーは2段ではなく3段でしたが、コストや生産性の問題から実現できなかったといいます。
1992年から1996年まで生産されたエスコート RS コスワースはグループA規定のWRCで合計8勝しましたが、強力なライバルの台頭によって後塵を拝する結果となってしまいました。
●アウディ「S2 クーペ」
グループA車両のWRCは1987年からスタートしましたが、1986年まではベース車の生産台数が少なく改造範囲が広いグループB車両で戦われました。
強大なパワーを誇るグループBカーによって競技中のスピードレンジがどんどん上がり、そして凄惨な事故が起こり、1986年を最後にグループBは廃止されました。
このグループB時代の強豪だったメーカーがプジョー、ランチア、そしてアウディです。
アウディはそれまでFRで戦われていたWRCにおいて、4WD車の優位性を証明することになるアウディ「クワトロ」を開発。そして、その技術は市販車にもフィードバックされ、現在に至ります。
グループA時代にもアウディは参戦し、当初は4ドアセダンの「200 クワトロ」をベースにしたマシンでしたが、さらなる戦闘力アップのため「クーペ クアトロ」、そして1991年に「S2」が登場しました。
S2は現在のハイスペックモデルである「S」シリーズ初のモデルで、ボディは3ドアハッチバックの「クーペ」、4ドアセダン、ステーションワゴンの「アバント」をラインナップし、WRCにはクーペが投入されました。
エンジンは最高出力220馬力を発揮する2.3リッター直列5気筒DOHCターボで5速MTが組み合わされ、1993年の改良では最高出力230馬力に向上し、トランスミッションは6速MTに換装。クワトロシステムは新たにトルセン式センターデフが採用されました。
高性能4WD車の開発では一日の長があったアウディでしたが、ライバルが次々と改良を重ねるなかS1 クーペの戦闘力は大きく劣ってしまい、1993年シーズンを最後にアウディはWRCから撤退しました。
※ ※ ※
1980年代以降、国産メーカーが国内外のラリーに積極的に参戦した理由としては、市販車の性能アップにつながることと、ブランドイメージ向上による販売増が挙げられます。
とくに欧州では、昔からWRCはF1と並ぶほど注目されていたイベントで、ここで活躍することは市販車の販売台数にも大きく影響しました。
そのため、かつてWRCを席巻したランサーエボリューションやインプレッサ WRXは、現在も欧州で高い人気を誇っています。
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