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ホンダ社長交代で見つめる『原点』 本田宗一郎は何が凄かったのか? 逸話と『三つの喜び』

掲載 更新 48
ホンダ社長交代で見つめる『原点』 本田宗一郎は何が凄かったのか? 逸話と『三つの喜び』

 2021年4月1日、ホンダのトップが代わる。新しく就任するのは三部敏宏氏で、創業から数えて第9代目の社長となる。

 さて、社長が代わってホンダとそのクルマはどう変わるのか? と多くのファンが注目しているところだろう。

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 そこで本稿では、『ホンダ・トップトークス』の著者でもある筆者が、初代社長でもある本田宗一郎氏は何が凄かったのかを分析。いま一度ホンダの「原点」を考える。

文/御堀直嗣 写真/HONDA

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「人の真似はするな」ホンダの原点が生まれた必然

スーパーカブに乗る創業者、本田宗一郎(1971年-鈴鹿製作所二輪車生産累計1000万台達成に際して)

 ホンダの創業者である本田宗一郎が社長を務めていた時代、社内報に「トップトークス」として宗一郎の考えはもちろん、副社長であった藤沢武夫、また宗一郎を引き継いで2代目社長となった川島喜好などが、寄稿している。

 基本的にそれらは社内情報だが、2000年ごろに公にすることが許され、読む機会を得た。そして拙著『ホンダ・トップトークス』を記した。

 宗一郎についてはさまざまに語り継がれた伝説があり、独創の経営が語られてきている。そのうえで、根底に流れる宗一郎の思いは、社員一人ひとりに対し「自己実現に挑め」ということであったと思う。

 宗一郎自ら、「会社のために働くなどと考えるな」と言っている。宗一郎はクルマや飛行機など、乗り物が好きで、エンジンに関心を持ち、それを礎に、自己実現のため創業した。

 社員にも自己実現を促す背景には、一人ひとりが創業者のような目配りでものづくりする姿勢を求めたのだろう。その力が結集すれば、会社も成長できる。そこから様々なホンダらしさも生まれたはずだ。

 製造業として後発のホンダが成功するためには、ただ先達のあとを追っていたのでは達成できない。そこから「人の真似はするな」という自主独立の考えが生まれてくる。

 しかし、そのためには、目指すべき目標や、本質的な価値が何であるのかという根本を見つめなければ、発想は出てこない。

空冷エンジンやCVCCはホンダの原点を見つめた末の回答

画期的な空冷エンジンが搭載されたホンダ1300(販売時期:1969年~1972年)

 宗一郎が、空冷エンジンにこだわったこと、排出ガス対策では後処理でなくエンジンそのものの改良を目指したこと、あるいはマン島TTレースやF1に挑戦したこと、そして海外進出に際しては、当時世界最大の米国市場をまず目指したこと、それらすべてが、原点を見つめた末に出てきた回答だろう。

 空冷エンジンにこだわったのも、エンジンを直接空気で冷やすという簡素でわかりやすい論理が背景にある。その後、水冷エンジンに転換していくが、それは燃焼効率を高めたり、排出ガス浄化をしたりしようとすれば、制御が必要になるからだ。

 エンジンの緻密な制御の必要性を理解した宗一郎は、水冷エンジンを認めることになる。フォルクスワーゲンにしてもポルシェにしても、当初は空冷エンジンからはじまっている。ポルシェ911が水冷エンジンとなるのは1990年代後半になってからのことだ。

ホンダは、CVCC(複合渦流調整燃焼方式)エンジンの開発により、他のメーカーより先に規制を突破した(写真:CVCCを初めて搭載した初代シビック)

 排出ガス浄化では、後発のホンダにとって、世界の自動車メーカーと同じスタートラインに立てると勇躍した。ここでも根本からの課題解決を宗一郎は指示した。

 同時に後処理の研究も行っている。だが、エンジン本体をよくすることを優先したホンダが、世界のゼネラル・モーターズ(GM)やトヨタより先に、CVCC(複合渦流調整燃焼方式)で規制を突破した。

 そして、他の多くの自動車メーカーが、CVCCの技術供与をホンダに求めたのであった。まさに宗一郎のものづくり思想の面目躍如たる逸話だ。

 モータースポーツへの挑戦では、「走る実験室」などと形容されたが、単に試行錯誤する場というだけでなく、世界の最先端に触れ、自らに何が足りないかを目の当たりにすることに主眼があったはずだ。

 もちろん競技の世界では、技術内容を競合に見せることはない。したがって、自ら考え、自ら試し、そしてレース結果という歴然とした実力差を体感する。「人の真似」をしようにも、真似できないのが競技の世界だ。

 そして世界との差を自らの挑戦によって埋めていくことにより、本質を知ることになる。本質がわかれば、それを発展させていける。そして世界一に手が届くのである。

 海外進出に際し、米国市場を目指すべきと宗一郎に進言したのは、副社長の藤沢だった。米国市場で成功することが、世界一への道につながると宗一郎を説いた。最初は、スーパーカブで進出した。

 一方、米国の2輪市場は、ほとんどがハーレーなど大型中心であった。そこにスーパーカブという、全く異なる価値で挑んだことにより、女性など新たな顧客層をホンダは掴んだ。人を真似ず、後追いせず、独自に価値を生み出した好例だ。

 「素晴らしい人々、ホンダに乗る」という宣伝も、力を誇示する大型2輪と対照的な消費者に訴えかける言葉となった。

本田宗一郎の凄さを物語る「逸話」と「三つの喜び」

 本田宗一郎の凄さを知る一つの逸話がある。開発過程でやり直しの宿題を担当者に出し、翌朝までに答えを用意するよう命じた。同じことを何人もの研究者や技術者に命じた宗一郎は、そのすべての回答を自ら翌朝用意して出社したという。

 ある研究者は「自分の課題一つを解決するだけでも大変な苦労であったのに、オヤジさん(宗一郎のことをかつての社員はそう呼んだ)は全員の答えを一人で考え、翌朝それぞれに示した」と語った。

 単に問題点を指摘するだけでなく、自らも考え、答えを導き出し、何人もの課題に対処したところに、宗一郎の凄さがある。

 宗一郎が去ったあと、同じことはできないとして、複数の役員からなる評価会が設置され、そこで開発中の技術について審査が行われ、承認を得てから次へ進む段取りが研究所に設けられた。

 経営では、宗一郎と藤沢が退任した後を引き継いだ河島は、役員総出で経営にあたる体制を新たに築いた。

 ホンダ本社の役員室は、社長といえども個室はなく、役員室という広い部屋のなかで各自は空いた机で執務し、中央のテーブルに集まっては合議する。私が本社を見学した際は、そういう役員広間となっていた。

 評価会や、個室のない役員室を設けることで、宗一郎と藤沢の抜けたあとのホンダは創業の独自性を活かしながら成長してきたのである。

 本田宗一郎はまた、社内報のトップトークスのなかで、誰にでもわかる平易な言葉で社員に語り掛けた。

 その一つが、「三つの喜び」である。「買って喜び、売って喜び、作って喜び」だ。当初、この言葉は順序が違っていた。「作って喜び、売って喜び、買って喜び」だった。

 しかし、それは間違いであると、藤沢が気付いた。まずお客様に喜んでもらうことが何より大切だと気付いたのである。また、ホンダが製造した2輪や4輪、あるいは汎用製品を、売ったことで顧客が喜び、それを通じて販売店の人々も喜べる商品でなければならない。

多面的なものづくりをするため、本田技術研究所は存在した。ホンダが100%支援してきたことで、他社とは違う魅力をもつ製品を製作し、多くのホンダファンが生まれた

 もちろん、作るうえでも、真理を追究した独創の技術を製品として実現することにより、作る喜びも生まれる。

 そうした多面的なものづくりをするため、本田技術研究所は存在した。人の真似をしないといった表面的なことではなく、自ら本質とは何かを考え、理想を追求し、それを実現するために、何を知り、何を開発しなければならないか、そこを探求するのが研究所の役目だった。

 したがって失敗することが許され、失敗を素早く挽回しながら技術を構築し、製品化していくまでが研究所の仕事であった。採算が合わないのは当然だ。

 そこを、ホンダ(本田技研工業=本社)が100%支援してきたことで、ホンダの製品はどこか他社と違う魅力を発揮し、ホンダファンが生まれ、世界へ広がった。結果、2輪・4輪・汎用のすべてをホンダ一色にすることで幸せを感じる人々がいる。

 宗一郎は、研究所を本社より上の位置づけとして価値を与えてきた。研究所で働くことが誇りとなることを願ったのである。

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みんなのコメント

48件
  • 〉その一つが、「三つの喜び」である。「買って喜び、売って喜び、作って喜び」だ。当初、この言葉は順序が違っていた。「作って喜び、売って喜び、買って喜び」だった。

    今また元に戻って自分本位で商売してますね
    ホンダを応援したくても買いたい車が少なすぎる
  • みんな過去が大好きなんだね。
    今のホンダは、pdca作りで、疲弊して若手は転職活動。
    上に胡麻すりでっせ
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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