今日もテレビをつけると「新型◯◯◯◯、登場」というコマーシャルが流れていたりします。しかしクルマ好きとして日々新車情報に触れていると、「あれ? あのクルマいつ新しくなったんだ??」と疑問に思ったことがあるはず。
「新型車登場」って、フルモデルチェンジでもマイナーチェンジでも、小変更でも言っていいのでしょうか? それともうひとつ、発売直後から何ヶ月後までそう言っていいの? そういう「決まり」はあるの?
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よく考えると宣伝にまつわるこういう「気になる曖昧な表現」ってたくさんある。そこでさっそく本稿では、そうした「あおり文句」の基準について調べてみました。
文:ベストカー編集部
ベストカー2018年3月10日号「その表現に基準あり? それともなし?」より
■新型◯◯◯◯、登場
まずテレビや雑誌広告、チラシ等でよく見かける「新型車登場」という惹句。「フルモデルチェンジしたんだから【新型登場】でいいんじゃないの?」と思うかもしれない。が、マイナーチェンジや小変更、追加グレードの場合でもこのように、「新+車名」と表示することがあるので、ちょっと紛らわしくないかい? こんな時はJARO(日本広告審査機構)に聞くしかない。
さっそく取材してみたところ、
「自動車公正取引協議会に確認しました。結論から申し上げますと、マイナーチェンジであっても小変更であっても、クルマが新しくなっているのが事実であれば【新】になるので規制上は問題ありません」
と担当者の回答。なるほど、「新+車名」はどんな「チェンジ」であっても堂々と使ってOK! ということですね。
ちなみに、フルモデルチェンジ、マイナーチェンジにかぎらず「新発売」、「新型登場」などと表現できるのは発表後12カ月以内で、逆に「その新型車」の次期型発表前6カ月間はそれらの表現を使ってはダメという縛りがあるそう。
1年以内になんらかの変更を受けたモデルはすべて「新型登場」と言っていいとなると、年間で半分くらいの車種が「新型車登場!」と謳って販売する状況になりそうだが……。
さておき、次にいこう。
■受注台数◯◯◯◯台突破!!
最近、自動車メーカーから新型車の初期受注台数が大々的に発表されるが、たいてい景気のいい数字ばかり(景気が悪ければ公表しないのだろうが)。(特別に疑ってるってわけではないけど)この数字、ホントなんでしょうか? ホンダ広報部へ聞いてみました。
「え? ジェイドの1カ月間の初期受注台数が5000台突破って本当かって? ……ウソなわけがないでしょう(笑)。受注なので【これだけの契約数でした】ということです。販売店から上がってきた実際の数字を合計しています」
ですよね。失礼しました。でもこれはどうなの?
■予約段階で◯◯◯◯台
昨年7月27日に発表された新型シビック。ハッチバック、セダン、タイプRの合計が「予約段階で6300台」と発表されました。「受注台数」ではなく「予約段階」という部分が気になりますが……。
「そう、シビックの場合は特殊なんです。発表が(2017年)7月27日で、発売は9月29日でした。業界のルールで発売日1カ月以前は「契約」ができません。つまりシビックの場合なら、7月27日~8月29日は事前予約しかできない期間だったんです。この時の予約数も含めているので「予約段階」という表現で発表しました。
もちろん【6300台】となっていますが、あくまで予約なので、途中で「や~めた」という人もなかにはいると思います。なので、実際の販売数はそれより少ない数字になっています」
とは前述のホンダ広報部。
発表と発売が同日でないと微妙な部分があるんですね。シビック、頑張ってほしい。
さて続いて、自動車関連情報ではなくそれ以外の業界の「あおり文句」から。
■「大ヒット上映中」
この表現を使うための基準や数字(観客動員数など)の根拠は何か必要なのでしょうか? 東宝(株)に聞いてみました。
「映画業界では、例えば【観客動員数が◯万人超えないと、大ヒット上映中は使っちゃダメ】という決まりはないです。また、作品の規模、公開前の話題性や前売り券の販売数によって、公開後の動員数によるヒットの判断がまちまちなので、【こういう数字だから大ヒット上映中と書いていい】という決まりもありません」と答えてくれた。
つまり【大ヒット】の表現に基準はない、ということ。なるほど。確かに【大ヒット上映中】というので映画館へ見に行ったらガラガラだった……なんてこともよくあるわけですね。
続いては洋画でよく見る表現について。映画業界の人が答えてくれましたよ。
■「全米No.1」
何かのランキングで1位を獲った、ということなのでしょうか? だとしたらどんなランキングなんでしょう?
「これは洋画配給会社各社の考えに基づきますが、各社ほぼ同じ考えです。数字の裏づけがないとこの表現は使いません。業界内の一般的認識では公開週(金~日曜日の3日間)で興行収入もしくは観客動員数で1位になれば、【全米No.1】と謳っています。例えば【全米初登場No.1!】というのは公開したその週で1位を獲った、ということですから、より丁寧な表現ですね。
そのNo.1の数字の根拠は【興行収入】でも【観客動員数】でもOKです。どっちが1位でも謳っていい。ただし、広告には小さい文字の註釈で【◎月◎日~◎日まで観客動員数1位】などと裏づけを入れることが決まりになっています。これは外国映画輸入配給協会でも言っている決まりごとです。それで、ずっと1位なら【公開5週連続1位】などと謳える。これは邦画も同じですね」
なるほど。3日間だけ1位になれば「全米No.1」なのですね。
■「全米で大ヒット」
引き続き東宝(株)さんから伺います。
「数字の根拠がないので、基準はなし。【大ヒット】という言葉のニュアンスなので、配給会社の判断が基準。ゆえに自由に使ってOKです」
どんどんいきましょう。お次はこれです。
■「アカデミー賞最有力候補」
毎年3月頃にアカデミー賞が発表されるけど、その前の数カ月間はやたらとこの宣伝文句や表現が目につく気がします。
「これも基準はなく、配給会社による判断です。でも、さすがにまったく、箸にも棒にも掛からない作品にこの表現を付けるのは信用問題に関わるので(笑)。指標という意味では、アカデミー賞発表前のゴールデングローブ賞など多数ある賞で、いくつかノミネートや受賞があれば【これはいけそうだ】ということで、各社この表現を入れますね」
ですよね~。ちなみに今年のアカデミー賞は3月5日に発表され、作品賞には9作品がノミネート。ご存じ日本の特撮映画やアニメが大好きなギレルモ・デル・トロ監督の『シェイプ・オブ・ウォーター』が受賞しました(ゴールデングローブ賞監督賞も受賞)。
映画業界最後はこちら。
■「全米が泣いた」
感動する作品でこの表現がよくキャッチフレーズに使われますが、えー、何か基準があるんでしょうか。
「全米の人が泣いた……という統計をとっているわけじゃないので(笑)、日本の配給会社の感覚的な表現ですね。ちなみに、アメリカではこの表現は使いません」
まあそりゃそうか。日本人が考えた「コピー(表現)」が日本の映画業界内に広がっていったわけですね。
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