クルマの運転支援システムは、運転に不慣れな人や高齢者ドライバーだけではなく、ベテランドライバーにとっても頼もしい存在。いっぽう、クルマ側にすべてを任せきりにできるという勘違いや、システムを過信したことに起因すると思われる事故も数多く発生しているという……。
文/井澤利昭、写真/スバル、トヨタ、日産、ホンダ、写真AC
一般道の使用は推奨せず!? 便利だけど運転支援システムの正体とは
普及が進む運転支援システムだが、過信は厳禁
現行プリウスでは、最新の予防安全パッケージ「トヨタセーフティセンス」を標準装備するのに加え、後方車両接近告知や周辺車両接近時サポート、セカンダリーコリジョンブレーキ(停車中後突対応)といったトヨタブランドとしては初となる先進安全システムも追加されている
快適な運転と交通事故防止の観点から、自動車メーカー各社が積極的に採用を推し進めているクルマの運転支援システム。
トヨタの「トヨタセーフティセンス」やスバルの「アイサイト」、ホンダの「Honda SENSING」、日産の「プロパイロット」、マツダの「i-ACTIVSENSE」、スズキの「スズキ セーフティ サポート」、ダイハツの「スマートアシスト」など、名称や機能はさまざまだ。
とりわけ便利なのが日常的にドライバーをサポートしてくれる運転支援システムだ。
なかでも、ドライバーの負担や疲労を軽減し、事故を防止してくれるうれしい機能が「全車速追従付きクルーズコントロール」と「車線維持支援装置」。
「全車速追従付きクルーズコントロール」は、センサーやカメラによって前を走るクルマとの距離やスピードを感知してアクセルペダルを踏み続けることなく一定の速度を維持するとともに、前走車が停止した場合は自動的にクルマを停車させる機能。
「車線維持支援装置」は、走行中に車線中央付近からクルマが外れそうになったときに警告音やハンドル操作のアシストで知らせてくれる機能だ。
これらの機能は、限定されたシチュエーションであればヒューマンエラーによるハンドルやアクセル操作の誤操作を防いでくれる。
そのいっぽう、あくまでドライバーの運転を補助するものであり、間違った使い方やシステムへの過度な依存は、大きな事故にもつながりかねない。
すべてをクルマに任せられるワケではない!? 運転支援システムの危険な使い方
豪雨で前を走るクルマを認識しづらいときや、目安となる道路の白線が積雪などで隠れていると、運転支援システムが正しく機能しないこともあるので注意したい
では、これらの運転支援システムの過信によって起こりうる危険とは、具体的にどのようなものなのだろうか?
まず理解しておかなければならないのが、「全車速追従付きクルーズコントロール」や「車線維持支援装置」といった機能は、あくまで高速道路をはじめとする自動車専用道路での使用を前提としたものであるという点だ。
まさかそんな人はいないと思いたいが、これらの機能を一般道で使用すると、急カーブなどで前走車を見失った際にクルマが反対車線にはみ出してしまったり、信号の変わり際のタイミングで通過した前走車をそのまま追従し、赤信号で交差点に進入してしまうといったトラブルにもつながりかねない。
また高速道路であっても油断は禁物。渋滞時などの急な割り込みにシステムが対応できず追突してしまうケースや、車線維持機能の目安となる道路の白線が、ゴミや障害物、天候や路面の状況によってカメラやセンサーに検出されない状況となることで、走行中の車線から大きく逸脱してしまうこともありうるからだ。
どんなに優れた機能であっても、使うシチュエーションを間違えたり、悪天候下では正しく機能しないことがある。
また、システムが突然停止することもあるうるため、これらの運転支援機能はあくまでドライバーの運転を補助するものであることを肝に銘じておこう。
自動ブレーキは場合によっては機能しないことも!?
バイクやスクーター、自転車などに対しても、カメラやセンサーなどが認識せず自動ブレーキが作動しないことがある。後方からのすり抜けや飛び出しなど、死角からの急な割り込みには十分な注意が必要だ
事故回避を目的とした運転支援システムのなかでも、その代表格といえるのが「衝突被害軽減ブレーキ」だ。
その名のとおり、カメラやレーダーがクルマの前方を監視し、前走車や歩行者、自転車などとの衝突の危険を感知すると、ドライバーへの警告を行うとともにクルマを自動で停止させる機能ではあるが、こちらも信用しすぎると痛い目にあう可能性がある。
システムの想定を大きく上回るスピードでの走行や、悪天候で視界が悪い場合、夕暮れの逆光などでカメラが前走車を認識できないときなど、シチュエーションによっては自動ブレーキが機能しないことがある。
加えて、システムが正常に機能している場合であっても、急な下り坂や、路面が雨で濡れていたり凍結しているなど、通常より制動距離が長くなるケースでクルマが止まり切れず、事故につながることもありうる。
国産の新型車には2021年から、2025年からは継続生産車にも装着が義務化され、現代のクルマではほぼ標準装備となる「衝突被害軽減ブレーキ」は衝突事故回避のためには心強い装備ではあるものの、これもまたドライバーを補助する機能にすぎない。
システムが機能していない場合でも事故を起こせばドライバーがその責任を問われることになるため、自動ブレーキが決して万能ではないということだけは理解しておきたい。
手放しやながら運転も可能に!? 究極の運転支援システムである自動運転
自動運転中であっても、ドライバーには急な異常やトラブルにすぐさま対応できるようにしておく責任があり、走行中の飲酒や居眠りはレベル4であっても禁止されている
運転支援システムの延長上にある技術として今後さらに発展が期待されるのが、クルマの自動運転だろう。
その技術は米国自動車技術者協会(SAE)や国土交通省により、まったく自動化されていないレベル0から、すべての運転をクルマ側で行うレベル5の6段階に区分されている。
ここまでで紹介した「全車速追従付きクルーズコントロール」や「車線維持支援装置」、「衝突被害軽減ブレーキ」などは、運転の主体をドライバー側が担うレベル1もしくはレベル2に相当するといわれている。
このうちレベル2を実現している一部の車種では、対応する運転支援システムでの走行中にドライバーが常に前方の状況を認識し、すぐさまハンドル操作に戻れる状態であれば、ハンドルから手を放すことができるハンズオフでの運転が可能となっている。
また、特定の条件下でクルマ側が主体となりすべての運転操作を行うものの、システムでの運行が困難な場合はドライバーの運転の介入が必要とされるレベル3の運用が2020年に国内で可能となった。
それに続き、2023年4月からは一定の条件のもとではあるがドライバーの介入を必要としないレベル4の自動運転も公道での走行が解禁された。
これによりレベル3以上のシステムを搭載した自動運転のクルマでは、ハンズオフに加えて目線を前方に向けておく必要がないアイズオフも可能となり、走行中でもスマホやナビの操作、テレビやDVDの視聴といったいわゆる「ながら運転」もOKに。
ただし、上記は「自動走行中に一定の条件を満たさなくなった場合、運転者が直ちに適切に対処することができること」という条件付きだ。
さらに、自動運転中に事故・違反があったとしても、必ずしも運転者が免責されるとは限らない。
ということで、現行法では、たとえレベル3以上のシステムを搭載した自動運転のクルマに乗っていたとしても、率先して、ながら運転をしようと思う人は皆無だろう。
ちなみに飲酒や居眠りなどは、緊急時にドライバーの介入を必要されるレベル3ではもちろんNG。レベル4であっても現行法では認められない可能性が高いといわれている。
市販化までこぎつけたレベル3の国産車はホンダ・レジェンドのみ
レベル3の自動運転システム「Honda SENSING Elite(ホンダ センシング エリート)」を世界で初めて搭載したことで話題となったホンダ・レジェンド。2021年3月に100台限定の法人リース販売として登場した。価格1100万円(税込)
とはいえレベル3を実現した市販車は、現在のところ2021年に100台限定でリリースされたホンダ・レジェンドのみ。
レベル4に至っては限られた地域でのみ運用される実証実験の車両のみで、ドライバー目線で考えれば、自動運転が身近になるにはもう少し時間がかかりそうだ。
運転支援システムや自動運転などは、現在のところ高速道路などの限られたシチュエーションでのみで働く機能であり、あくまでドライバーを助ける補助的なものと考えるのが妥当だろう。
繰り返し述べてきたとおり、過信や間違った使い方をすれば重大な事故につながる危険があるため、その機能を十分理解したうえで上手に使いこなすことが、現代のドライバーには必要とされる。
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みんなのコメント
メーカーは開発した物を単に売りたいだけで安全の本質などは大して考えていない。
スバルのほのぼのと追突しそうになって、付いててよかったみたいなアホな親ドライバーを演じているCM見てるとほんと情けない。