スタイリッシュセダンの元祖「カリーナED」の対抗馬として登場
「絶世のセダンです」と自ら美しさを誇張するCMとともに、1990年6月に登場した日産「プレセア」。このクルマをひと言で表すと、スタイリッシュなパーソナルセダン(今でいう4ドアクーペ)という新ジャンルを確立したトヨタ「カリーナED」の日産版となる。
大衆車にも存在? 日伊の名デザイナーが手掛けた意外な日産車たち
その前身は日本初の小さな高級車であるローレルスピリット
初代カリーナEDのスマッシュヒットにより、プレセアだけでなく、マツダ「ペルソナ」(ユーノス300)、三菱「エメロード」、ホンダ「インスパイア」など各メーカーが相次いでこのジャンルに新車を投入。さらに同門トヨタからも「コロナ エクシブ」、「カローラ セレス」、「スプリンター マリノ」が用意され、カッコよくてちょっといいセダンは一大ブームとなった。
ただ、流行の移り変わりは早いもので、バブル崩壊以降、ユーザーのクルマに対するニーズがワゴンやSUV、ミニバンといったRVへと移り変わると、居住性の悪さがマイナスイメージに……。21世紀を前にプレセアを含めたほぼすべての車種が生産を終えている。
さて、本題のプレセアだが、まずそのバックボーンから話を進めよう。その系譜をたどると、日産の高級車を扱うモーター店で販売されていた「ローレルスピリット」にたどり着く。
王道VIPセダン像から新時代のプレミアムセダンベースへと路線変更
1980年代に5つあった日産の販売チャンネルには、それぞれの車種展開に合わせたエントリーモデルが用意されていた。プリンス店には「ラングレー」(ミニ・スカイライン)、日産店には「リベルタビラ」(ミニ・ブルーバード)、サニー店には「サニー」、チェリー店には「パルサー」、そして、モーター店は「ローレルスピリット」(ミニ・ローレル)というわけだ。
ベースとなったのはサニーで、エンジン、サスペンションなどのメカニズムは共通であった。威風堂々とした格子グリル、各部に多用されたメッキの装飾、上級車のローレルと同じ上質な2トーンカラー、モケット張りの上質な内装・ドアトリムなどを採用。小さいながらもプレミアムな香りを醸し出していたのが特徴だった。
ただ、小さな高級車というコンセプトは日本に馴染みがなかったこともあり、販売面では苦戦。そのイメージを一新すべく、従来のセダンに求められた威厳のある豪華絢爛路線ではなく、バブル期に日産が目指していた新しいプレミアムセダン像を色濃く受け継いだエントリーモデルとして登場したのがプレセアだった(販売はモーター店とサニー店)。
日本人が持つ繊細さを表現した柔らかなフォルムが特徴
スタイリングはローレルスピリットのエッジが効いた四角四面のボックスタイプから、柔らかな面と線を生かしたスマートですっきりとしたフォルムにチェンジ。横長のヘッドライト(エンジン側に丸く削られた個性的な凹型デザイン)と、グリルを廃した端正なフロントフェイスは、スポーティ&エレガンスを兼ね備えた新世代の高級セダンである「インフィニティQ45」を彷彿とさせ、ミニ・ローレルからイメージを大きく変えたわけだ。また、宝石の重さの単位を表すカラット(Ct)をグレードネーミングとするなど、センスにあふれていた。
サイドビューは、スタイリッシュセダンの定番であるキャビンの小さなハードトップであったが、センターピラーは剛性を確保できるピラードタイプを採用。当時の日産で推進していた「1990年代までに運動性能で世界一を目指す」901活動(正式にはP901)の影響もあり、走りの性能を引き上げることを重視していたため、妥協しなかったのだろう。
インテリアは素材もデザインも徹底吟味し7種類から選べた
パワートレインやサスペンションがサニーと共通なのはローレルスピリットと変わらないが、ホイールベースは70mm延長され、エンジンもサニーにない2Lを設定(そのほか、1.5Lと1.8Lを用意)。サニーの上級車という立ち位置は変わっていない。
個性的な外観に負けず劣らず入念に仕上げられたのがインテリアだ。曲面を多用した優美なダッシュボード、世界初のブルーに光るマリーンブルーメーターもさることながら、素材やデザインはデザイナーが徹底的に吟味している。
上級のCt.IIでは素材、形状はツイード、モケット、本革&専用クロス(オプション)、スポーツ(オプション)の4種類のシート、さらにスポーツを除き、それぞれ2つのカラーから選択可能と計7種類から選べるなど、「新たな時代の小さな高級車に相応しい贅沢なものを作ろう」というこだわりが細部まで行き届いていた。バブル期は自動車エンジンニア、デザイナーらにとってつくづく幸せな時代だったと思う。
さらなる上級化は果したが独自性が薄れた2代目
1995年に2代目へとモデルチェンジするが、バブル崩壊と日産の経営不振の影響を受け、ベースとなるサニーとの部品共用化を含めたコストダウンが進んだ。そして、営業サイドからの要望(ネガ潰し)でフロントフェイスは一般的なグリル付きとなり、リアコンビネーションランプの大型化など王道セダン路線にやや回帰。不満が多かった居住性を改善するため、ホイールベースも80mm延長されている。
さらにエアバッグ、ABS、ブレーキアシストなどの安全装備の標準化を積極的に図るなど、高級パーソナルセダンらしい装備も盛り込んだ。だが、初代の持っていたプレーンな美しさ、洗練された雰囲気は影を潜め、ひと目でプレセアと分かる個性は薄れた。
こうなるとプレセアを積極的に選ぶ理由は減り、上述したとおり、バブル崩壊とともにパーソナルセダンのマーケットも縮小。さらには日産リバイバルプランによる車種整理も重なり、1999年に御役御免となってしまった。
ただ、仮に2代目のデザインが飛び抜けてカッコよかったとしても、クルマに求めるニーズの多様化という時代の流れに逆らうことは難しく、終焉を迎えることを免れなかっただろう。宝石の名前のとおり、インパクトのあるデザインで輝きを放った1台だ。
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みんなのコメント
絶世のセダンというプレセアのキャッチコピーとリンクして私にとってプレセアの株は爆上がって固定された。
街中で見ないので忘れてかけていましたが、また明確に思い出した。