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世界でオンリーワンの1台──新型MX-30ロータリーEV試乗記

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世界でオンリーワンの1台──新型MX-30ロータリーEV試乗記

マツダの「MX-30」に追加されたプラグイン・ハイブリッドモデル「ロータリーEV」の走りを、今尾直樹がリポートする。

“走る歓び”を掲げるマツダらしい

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ロータリーエンジン復活! と、話題のマツダのPHEV(プラグイン・ハイブリッド)、MX-30 Rotary-EV(ロータリー イーブイ)の試乗会がさる11月下旬、神奈川県横浜市にあるマツダR&Dセンター横浜を基地にして開かれた。注目は11年ぶりの復活となる量産ロータリーエンジンである。発電機として新開発された830ccシングルローター、最高出力72ps/4500rpm、最大トルク112Nm /4500rpmの8C型はいったいどんなフィーリングをドライバーにもたらすのか? 筆者の関心はそこにあった。

試乗の持ち時間は180分とたっぷりしており、まずは首都高速K1に乗り、みなとみらい地区を左手に見ながら大黒PAを経て、K5に乗り換えてR&Dセンター付近まで戻った。マツダの推奨コースほぼそのままで、この際、これまたマツダの推奨に従い、ノーマルモードを選んで走行した。

MX-30 ロータリーEVにはいわゆるドライブモードがEV、ノーマル、チャージと3つある。EVは可能な限りEV走行を続けるモードで、エネルギーが100%の満充電だったら最長で107km、EVとして使える。すなわち、たいていの通勤やお買い物は電気で走れ、走行中、温暖化につながる排ガスを出さない。

ノーマルモードは、ま、ノーマルという名前が示すようにデファクトである。必要に応じてエンジンが始動して発電し、開発陣が意図した走りのよさを提供する。同時にエンジンはバッテリーのエネルギー残量が45%以下にならないように気を配る。てことは、45%を切ると出番となる。

チャージモードはこれまた名前の示すごとく、エンジンが発電して電池にエネルギーをチャージする。エネルギー残量は20%から100%まで10%刻みで目標とする数値を設定できる。

さて、ノーマルモードでの筆者の驚きは首都高の流れに乗って普通に走っている限り、エンジンはなりをひそめているということだ。スタート時、われわれのMX-30のエネルギー残量は94%、EV走行距離は78kmとスクリーンに表示されていた。それからK1~K5ルートで約25km走ってみたけれど、前述のごとく、エンジンは音なしの構えで、室内に聞こえてくるのは風切り音と路面によって変化するロードノイズのみだった。

最高出力170ps、最大トルク260Nmを発揮するモーターによる走行は、いきなり最大トルクを発揮するモーターの特性を強調したものではなくて、その正反対。速さよりもナチュラルでスムーズであることが第一の制御になっている。いわゆるワンペダルではない。発進時にはクリープもする。クリープのない自動車なんて……と、嘆かれる向きにも相性がよさげに思える。内燃機関のクルマから乗り換えても違和感がない。

EVであることを味わいたい向きにはステアリングにパドルがついている。左のマイナスを手前に引けば、エネルギー回生が強くなってエンジンブレーキと同様の減速をする。右のプラスのパドルを引けば、減速は弱まる。

乗り心地はダンピングがよく効いている。やや硬めで引き締まっている。スポーツカーっぽいというか、ヨーロッパ車っぽいというか、小股が切れ上がったというか、解像度が高いというか、“走る歓び”を掲げるマツダらしいというか……。215/55R18と、控えめなタイヤサイズを選んでいるのも好ましい。

完成度は賞賛に値するそれから筆者はマツダの推奨ルートであるアクアラインから館山自動車道方面に向かおうとしたのですけれど、渋滞していたため、推奨その2の横浜横須賀自動車道経由で観音崎まで往復するルートを選んだ。距離にして片道45km、往復90kmほどのドライブである。

幸いにして横須賀方面は空いており、MX-30ロータリーEVのリチウムイオンバッテリーのエネルギー残量は順調に減っていく。そうしてメーターナセルのスクリーンがバッテリーの残量45%を示した頃、風切り音とロードノイズに混じってロータリーエンジンが始動した。駆動用モーターと発電用モーター(別名ジェネレーター)と同軸上に配置される。駆動用モーターとエンジンはつながっていないけれど、ジェネレーターとロータリーエンジンの関係は不可分で、エンジンの始動時にはジェネレーターがセルモーターの役割を果たす。

ロータリーエンジンはまゆ型のハウジングのなかをおむすび型のローターが偏心しながらぐるぐるまわる。上下運動を回転運動に変えるレシプロエンジンよりもロータリーエンジンのほうがスムーズなのは、もともとぐるぐる回っているからで、レシプロエンジンだと始動時にショックがあったりもするけれど、ロータリーEVはそれがない。世界でだれもやっていない、しかも開発第1号で、この完成度は賞賛に値する。

でもって、「休日長距離ドライブ」体感コースの2である観音崎方面のルートでは、はじめはノーマルモードで、高速でチャージモードを試すことが推奨されていた。筆者は素直にそれに従ってチャージモードに切り替えた。すると、風切り音とロードノイズにまぎれて、ひと知れず8C型シングルローターが始動した。どういう音がしているのか、さっぱりわからない。すると、前方に工事中の表示が出てきて減速することになり、一旦停止した。減速とともにいずこからか、バーッというかガーッというか、電気掃除機のような、無機質な機械音が聞こえてきた。停止して耳を澄ませていると、“ンガガ・ンガガ・ンガガ・ンガガ”と、小さく繰り返している。

渋滞の先頭がどうなっているのか。は、不明だけれど、ノロノロ走って工事区間が終了し、再加速する。その際、アクセルペダルを踏み込む。すると、ガーッという無機質なエンジン音がとどろき、MX-30ロータリーEVはそのエンジン音とは無縁のスムーズさを披露しつつ速度を上げていく。

高速巡航に移ると、エンジン音はまた風切り音とロードノイズその他にまぎれて、存在感を消す。そこにはただ風が吹いているだけだけれど、旅客機に乗っているときのように、通奏低音がずーっと続いている感もある。一方、街中でEV走行しているときはEVそのもので、加速や減速時にヒィインという電子音が控えめに聞こえてくる。EV走行しているのだから当たり前ですけど。

少数のロマンチスト向けさて、マツダMX-30ロータリーEVをいかに評価すべきだろう?

ロータリーの本質的な短所は、燃焼室が扁平で、壁面の冷却損失がレシプロエンジンに比べて大きいことにある。つまり、燃費があまりよろしくない。そこでマツダはダイレクトインジェクション化を図って圧縮比を上げ、ケースをアルミにして軽量化し、ガスシールのクリアランスを緻密に管理するために手作業で組み上げる、などの対策を施している。結果、8C型は、発電用という前提もあるにせよ、従来比で20~25%の燃費向上を達成しているという。

繰り返しになるけれど、ロータリーエンジンの量産に成功したのは世界でマツダだけだ。それはやっぱりスゴいことである。

結局、今回の試乗では140kmほど走った。車載コンピューターによると、EV走行距離は65.5kmで、およそ半分をEV走行した。

筆者も少々気になった独特のエンジン音について、試乗後に話を訊いた音振動の担当者の方はこう語る。

「正直、1ローターの音はああいう感じ。ロータリーができた50~60年前とおなじです、素の音は。ですが、(今回は)マウンティングとか吸気とか排気とか、かなり対策を施しているので、お客さまに届く音は他社さんの、たとえば3気筒エンジンとかよりは静かです。ですが、馴染みがないんで、ちょっと違和感を感じられる方もおられるかもしれない」

この無機質なエンジン音について、筆者なんぞはル・マンで聴いた4ローターの高周波サウンドを思い浮かべていたりしたものだから、少々残念だった。というのはウソで、じつは9月に広島でこのクルマの取材会が開かれたおり、ブリキのエンジンみたいなアイドリング音を聞いていたのだ。シングルローターの場合は、シャフトが3回転しておむすび型のローターが1回転し、そのローターが1回転するたびに1爆発する。アイドリング音が、なんとなく3気筒エンジンみたいなのは、エンジンの開発担当者によると、ひとつのローターに燃焼室が3つあるからで、3気筒のピストンを、ひとつのローターにしたみたいなイメージだからだという。前述の音振動の担当者はこうも語っている。

「正直、ロータリー復活というよりは、あのパッケージングのなかに発電機を載せて、モーターで駆動できる。そこに重きを置いたら、ロータリーを僕らは持っていた。ということだと僕らは思っているんです」

ロータリーの長所のひとつが、レシプロエンジンよりコンパクトなことであり、ロータリーだからこそ、MX-30のボンネットのなかにおさめられた。エンジニアとしてはごく自然な流れだった、ということだ。

「いままでのロータリーは2ローターで、音を打ち消しあうのもあるし、ギヤノイズも含まれてあの音になっていた。(新しい発電用シングルロータリーエンジンは)ちょっと、あの音のイメージがお客さまにないんで、苦しいところ、というか。ま、僕ら、なるべくおさえるようにと思って開発してしまったというか、したんですけど、ロータリーサウンドを期待されるユーザーもいるので、なんかちょっと考えなきゃいけないのかな、と、思ってます」

かくしてマツダのあくなき挑戦は続く。考えてみたら、いや、みなくても、2020年秋に発売されたMX-30それ自体、「フリースタイルドア」と、呼ぶ、観音開きの左右ドアによって客を絞る商品である。前後ドアを開け放つと、センターピラーのない開放感たっぷりの空間が生まれる。その一方で、機構上、後ろのドアは前のドアを開けないと開けられない。そのひと手間をわずらわしい、と、思うひとにはむずかしい。MX-30は、都会にいながらして森のなかでハンモックに揺られる夢を見るような、少数のロマンチスト向けなのだ。そのMX-30にくわわった、世界でオンリーワンのロータリーエンジンを発電機として使うPHEV。この世界の片隅には、きっと大好きになる方がいらっしゃるにちがいない。

文・今尾直樹 写真・安井宏充(Weekend.) 編集・稲垣邦康(GQ)

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