日本はもとより世界の陸・海・空を駆けめぐる、さまざまな乗り物のスゴいメカニズムを紹介してきた「モンスターマシンに昂ぶる」。復刻版の第35回は、国産リムジンの第1号車というべき、日産 プリンスロイヤルを紹介しよう。(今回の記事は、2018年10月当時の内容を基にしています)
日本車らしい気品と威厳を持つリムジン
元号が令和に変わって早くも2年。今回は、高度成長時代の昭和に登場し、国産リムジン第1号となった日産 プリンスロイヤルを紹介したい。
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リムジンはドイツ語でセダンを意味するが、専属運転手が運転する王族や皇族などの上流階層、政治家や要人、大企業トップが移動するための超高級車という意味が日本では定着している。とくに日本では皇族がお乗りになる「御料車」が代表で、大正時代にイギリスのデイムラーが1号車として採用されている。有名なのが3代目のメルセデス・ベンツ770で、戦前から1968年まで「溜色(濃紅色)のベンツ」は人気だった。この770の稼働中にもロールス・ロイスやキャデラックのリムジンが併用されたが、国産御料車の待望論は急速に高まっていた。
1965年(昭和40年)にスタートした国産車開発は、上皇陛下が皇太子明仁親王だったころにプリンス自動車を好んだことから、開発メーカーとしてプリンス自動車が選ばれたことは有名だが、欧米の高級車造りの伝統に比べ、まだまだ経験の浅い国産メーカーにとって、御料車の担当は相当に重責だったといえる。1966年夏に日産自動車がプリンスと合併するのと前後して試作車が完成。日産 プリンスロイヤルとなった。
全長6155×全幅2100×全高1770mm、全重量3.66トンの車体は当時はもちろん、現行のトヨタ センチュリーロイヤルよりも大型で、国産乗用車史上最大になる。これは侍従席を含め3+2+3の座席配置と、冠や帽子など正装の状態での乗降性を考慮したもので、また十分な車体剛性や制振性・遮音性、さらに防弾装備を含めた結果といえる。
リムジンのエンジンは条件として、滑らかな加減速・低振動・静粛性、また、パレードでは4~8km/hの極低速走行が必須となる。もちろん当時の一般車ではほとんど見られない、エアコンも装備している。この強大な車体をストレスなく走行させるため、これも国産乗用車として最大のV型8気筒6.4Lで260psを発生するW64型エンジンが新開発された。当初の予定以上に重量が増大したため苦心したそうだが、当時すでにレース界で実績を積んでいたプリンスだけに公称160km/h、0→400m加速は20秒を切るという動力性能は、欧米のリムジンに劣らないものだった。
ただし、巨大な車体と大出力、厳しい走行条件を受け止める自動変速機だけは当時の国産技術では信頼性を欠くため、GM製のスーパータービン400を採用せざるを得なかった。W64型エンジンは全国を行幸する際の万一を考慮し、電子制御装置や過給機を装備していなかったが、約40年の運用途中で排出ガス対策だけは行われ、電子燃料噴射装置や触媒などが追加されている。また、低速走行に備えラジエターは大型で、ブレーキや燃料系などは完全2系統式を採用している。
皇族や国賓がお乗りになる内装は、意外とシンプルなウール張り。これは欧州のリムジンにも見られる高級毛織物で、静電気防止処理も施されている。スイッチパネルの一部は天然杢を使っているが華美な装飾はない。ドアは観音開きで、侍従の座る折りたたみ席を介して3列目シートの着座位置は高めになる。リムジンの定番で運転席とはガラスの間仕切りがあり、前席は耐久性ある本革張りだ。
大型ではあるが、威圧感や過剰装備などなく、気品と威厳を感じる美しいロイヤルリムジン。今ではほとんど見られない「日本車らしさ」を感じるのは、筆者だけではないだろう。(文 & Photo CG:MazKen/取材協力:宮内庁用度課、昭和天皇記念館)
■日産 プリンスロイヤル 主要諸元
●形式:A70型 4ドアリムジン
●全長×全幅×全高:6155×2100×1770mm
●車両重量:3660kg
●エンジン:W64型 V型8気筒 OHV
●排気量:6373cc
●最高出力:260ps
●変速機:3速AT/GM製スーパータービン400
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