Rolls-Royce Ghost
ロールス・ロイス ゴースト
ロールス・ロイス ゴースト、虚飾を排した真のラグジュアリーを吟味する
虚飾なき悦楽
ロールス・ロイスの主力モデル、ゴーストが10年ぶりに生まれ変わった。ショファードリブンそしてオーナードライブのいずれも最高レベルでの満足を得られる究極のサルーンである。ロールス・ロイスが新型ゴーストに込めた想いは、シンプルさとミニマリズムなのだという。その真価を求め、試乗インプレッションを行った。
「シンプルで余計な装飾はないが、すべてが吟味された最高のものだ」
世界には超高級と言われるブランドがいくつかあるが、名前を聞いただけで誰もがその価値を認める、絶対的な認知度を誇るブランドはそう多くない。ロールス・ロイスはその数少ないブランドのひとつだろう。世界中の王族や貴族、セレブが愛用する超高級車ということは、あえて説明をせずともほとんどの人がわかってくれる。これは本当にすごいことで、116年に渡る同社の歴史が積み上げてきたものの偉大さを感じずにはいられない。
BMWの傘下に入ってからの歩みも、極めて正しかったと言えるだろう。ベイビー・ロールスと言われて2009年に登場したゴーストは、オーナーが自らステアリングを握って楽しむロールス・ロイスとして人気となり、結局10年のモデルライフの間に史上最も多く販売されたロールス・ロイス車となった。カリナンが登場した今もゴーストは同社を代表する主力販売車であり、そのフルモデルチェンジには相当な時間と労力、コストが注ぎ込まれたであろうことは容易に想像できる。
「脱贅沢をコンセプトにした、クリーンでシンプルなラインが印象的」
新型の開発にあたり、デザインチームが意識したのは「ポスト・オピュレンス(脱贅沢)」だったという。ロールス・ロイスが脱贅沢とはどういうことか、と思う人もいるだろうが、言い換えるとリダクション(削減・縮小)とサブスタンス(実質)になるらしい。特別な本物の素材を用いつつ、虚飾を排して知性と節度を感じさせる、真の高級なものを目指すということだったようだ。確かに、新しいゴーストは非常にクリーンでシンプルなラインが印象的だ。エクステリアに余計なプレスラインは一切なく、綺麗な面構成でロールス・ロイスであることを完璧に表現している。そのためか全長は89mm、全幅は30mmそれぞれ先代より大きくなっているが、それをほとんど感じない。もっとも全長5500mmを超える巨体では、もはや89mmは誤差の範囲とも言えるが。
ボディパネルはすべてアルミ製で、ボディサイド部分は4人の職人が同時に溶接作業を行い、完璧な連続面を実現しているのだという。先代のデザインを引き継いだ完全なキープコンセプトだが、もちろん共通する部分は一切ない。「先代から受け継いだのはスピリット・オブ・エクスタシーの像とドアに内蔵された傘だけ」とロールス・ロイスは説明する。
基本となるプラットフォームも一新された。ベースとなっているのはファントムとカリナンでも使用されているアルミスペースフレーム。高い剛性と拡張性を持つというこれを新型ゴーストに合わせて最適化し、新たに四輪駆動と四輪操舵も採用している。ホイールベースは先代と同じ3295mmだが、それを170mm延長したエクステンデッドも発表されているから、ファントム並みのリヤスペースを求める人はそちらを、ということになるのだろう。
「本物の素材が手作業によりぴっちりと組まれたインテリアは、さながらイギリスの邸宅」
観音開きのドアを開けて乗り込むと、その重厚な雰囲気に圧倒される。「ポスト・オピュレンス」というコンセプトを挙げる以前から、ロールス・ロイスのインテリアは派手さ、煌びやかさというよりもシンプルな雰囲気が漂っていた。それが新型ゴーストではさらに強調されている。あるべきところにあるものがあり、余計な飾りはない。ただし、ひとつ一つの素材がすべて吟味された最高のものだ。上質な鞣のレザー、オープンポアを活かしたウッドパネル、そして手で触れるとピーンと張り詰めた重量感と冷たさを伝える金属製のエアコンベント。これら本物の素材が手作業によりぴっちりと組まれたインテリアは、さながらイギリスの邸宅に招かれたような気分になる。
数少ない演出的な装飾といえば、助手席前のイルミネーテッド・フェイシアだろう。エンジンを始動するとGHOSTの文字と星のように見える850個の灯りが浮かび上がるこれは、3層の複合素材にレーザー・エッチング加工を施して手作業で磨き上げる、という手間の掛かったもの。ロールス・ロイスではお馴染みとなったスターライト・ヘッドライナーを助手席前にも装備した、というところか。日中でも美しく光るが、ナイトドライブはより一層幻想的なことだろう。
「ゴーストはそのサウンドと振動などの感触が適度にドライバーに伝わってくる」
エンジンは引き続きV型12気筒を搭載する。6.75リッターの排気量にツインターボで加給し、パワーは571ps/850Nmを発揮する。その気になれば数字はもっと伸ばせるはずだが、昔のロールス・ロイスはエンジンパワーは非公表で「必要なだけ」としていたくらいだから、そもそもエンジンパワーがどうのとかいう話は無粋なのかもしれない。
僅か1600rpmで最大トルクの850Nmを発生するだけに、スタート直後からその走りに一切の力不足は感じない。力強いのだが、やや重めのアクセルと見事にリンクしてじわじわと湧き上がるトルク、そして12気筒の精緻な回転フィールがバルクヘッド越しに伝わってきて、実に心地いい。同じ力強い加速でも、軽すぎるEVとはまるで違う。やはりこのような高級車には、大排気量の多気筒エンジンこそがふさわしい。
この12気筒エンジンはファントムにも搭載されているものと基本的に同じだが、ひたすら音も振動も押さえ込み、エンジンが黒子に徹するファントムに対して、ゴーストはそのサウンドと振動などの感触が適度にドライバーに伝わってくる。ファントムのあの不気味なまでの静粛性は素晴らしいものだが、どちらが運転して楽しいかといえば、間違いなくゴーストの方だ。ゴーストがオーナードライブを意識していることは、このことからもよくわかる。
「極めて自然に、素直に向きを変える。こんなに楽しいロールスは初めてだ」
メルセデス・ベンツ Sクラスより約40cmも長いボディはさすがに大きいが、走り始めてしばらく経つと自分の感覚とクルマの動きがシンクロして、大きさが気にならなくなる。ワインディングも走ってみたが、ステアリングを切った時のノーズの反応も極めて自然で素直に向きを変えるので、ついついペースが上がってしまう。これは4WSの採用もかなり効いているのだろう。これほどコーナーを走るのが楽しいロールス・ロイスは初めてかもしれない。
ブレーキも強力で、2.5トンのボディながら速度調整、荷重移動が思いのままだ。これほど走れるなら、ひょっとして走行モード選択機能もあるのかな、と思ったけどやはりそのような下世話な装備は新型にも備わっていなかった。ロールス・ロイスの世界観はただひとつ、というメッセージだろう。
ダンピングの効いたサスペンションは、振動を吸収しながらもあくまでフラットな乗り味を提供してくれる。新型ゴーストのフロントサスにはプラナー・サスペンション・システムという新機構が組み込まれている。これのキモはアッパーアームを挟むように装着されたアッパー・ウイッシュボーン・ダンパーで、大きなストロークに対してはサスペンションに追従して動き、微細な早い動きはダンパーに装着されたゴムブッシュが衝撃を抑えるというもの。垂直方向だけでなく水平方向のエネルギーも吸収するそうで、電子制御ではなくメカニカルな機構というのが面白い。装置の有無で乗り比べてみたいところだが、実際に細かな振動はほぼ感じなかったので、かなり効果があると思われる。
「エクスクルーシブとはまさにこういうことを言うのだろう」
後席にも座ってみたが、ショーファーカーとしてもゴーストは素晴らしい実力を見せてくれた。品の良いインテリアに身を委ね、高速道路をクルージングするのはまさに極楽だ。平日はオーナーがここに座り、休日は家族がここに座る、というのがゴーストの正しい使い方なのではないだろうか。
ゴーストに限らず、ロールス・ロイスに触れるといつも感じるのは、価値観がブレずに一貫していることだ。ひたすら自らの理想を追い求め、迎合やおもねることはしない。エクスクルーシブとはまさにこういうことを言うのだろう。今の時代、そんなクルマがひとつくらいあってもいい。
REPORT/永田元輔(Gensuke NAGATA)
PHOTO/PHOTO/小林邦寿(Kunihisa KOBAYASHI)、ロールス・ロイス・モーターカーズ
【SPECIFICATIONS】
ロールス・ロイス ゴースト
ボディサイズ:全長5546 全幅2148 全高1571mm
ホイールベース:3295mm
車両重量:2490kg
エンジン:V型12気筒DOHCツインターボ
総排気量:6750cc
最高出力:420kW(571ps)/5000rpm
最大トルク:850Nm(86.7kgm)/1600rpm
トランスミッション:8速DCT
駆動方式:AWD
サスペンション形式:前ダブルウイッシュボーン 後5リンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前後255/40ZR21
0-100km/h加速:4.8秒
最高速度:250km/h(リミッター作動)
車両本体価格(税込):3590万円
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みんなのコメント
一部の自動車ジャーナリストを一蹴させるような
スペックがイイね。
ほら、電動じゃないんだけど
何か言ってみろよ。ビビって言えないんだろw