開幕戦はもうそこまでやってきた。2022年全く新しい形のマシンが続々と登場し、新車発表も佳境を迎えた。ついにフェラーリやメルセデスといったメジャーチームのマシンも出てきた。真打が登場した新車発表後半戦、元F1メカニックの津川哲夫氏に解説していただいた。
文/津川哲夫、写真/Ferrari,Mercedes
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新車発表後半の目玉はもちろんフェラーリ、そしてメルセデス。いよいよメジャープレイヤーの登場だ
今シーズンの新車発表は全てのチームがWEB配信動画で行い、ハリウッド並の映像技術を使って手の込んだ番組を作っている。多くはCGによる映像を使い、ほぼ実車であってもそれなりに映像加工がほどこされ、やはりバルセロナテストを走り出すまで本当の姿は見えては来ない。
しかしアストンマーチンやウィリアムズのように既に実車のシェイクダウンの映像が流出しているものは、発表車との違いを確認することができた。さて、フェラーリそしてメルセデスはどうだろうか。それでは新車発表の後半戦見てみよう。
●フェラーリF1-75
テスト2日目。1分19秒689のタイムでルクレールが総合トップタイム。F1-75は順調な仕上がり
何があっても、例えコロナ禍であろうと発表会をマラネロできっちりと行うのはもちろんフェラーリ。2022年の新車は“F1-75”と名付けられている。F1-75はこれまでのF1のスタイルと比較するとかなり斬新なスタイルをしている。もちろんボディワークに見る外装デザインの話だ。
他チームでもだが、外装を眺めていると’22年のエアロ規則へのアプローチが垣間見える。今シーズンから全く新しい車両規則になったことで、これまで発表されたほぼ全チームがそれぞれ個性的なアプローチを見せている。つまり’22年エアロへの答えが出るのはまだまだ先、シーズン後半にならなければ見えては来ないということだ。
’22年規則では前後のウィングとそのマウントやエンドプレートにそれほど多くの選択肢はなく、その分各チーム開発可能な範囲で個性的なアプローチを試みている。
F1-75のノーズウィングの先端は僅かに飛び出ており、このノーズ先端にファースト・エレメントを装着、これを含めて全エレメントがノーズに直に装着されている。しかし、F1-75の最も個性的な部分はサイドポッドだ。昨年までのトレンドで幾つかのチームがそれを踏襲する後方へのローバックダウン方式は取らずに、これまでの流れに反して幅広く大きく広く後方へ続く上面を持ち、それもアウターエッジを持ち上げてポッド上面に空気流のチャネルを形成している。一見するとアストンマーチンの手法に似た処理だが、似て異なるアプローチだ。
ここには多くのスリットが切られ、排熱とポッド上面の空気流の最適化を図っている。しかしポッド上面を使い、リアウィングに向かう空気流を最大限に利用するコンセプトは決して新しくはなく結構クラシックだ。もちろん’22年規則に対して過去とは違う、より近代的エアロに昇華されており、正にネオ・クラシックと呼ぶのに相応しい。最小限のインダクションポッドはエンジンカバーを極めて低く薄くしていて、PU上部補機類のアレンジが大きく変った事が伺える。F1-75は決して奇抜ではないが、ラジカルで個性的なアプローチに変りはない。
さてこのネオ・クラシックなF1-75で、クラシックフェラーリ時代の栄光を取り戻すことができるだろうか。
●メルセデスW13
遂に真打登場。バルセロナテスト初日はラッセルが4番手、ハミルトンが5番手につけた
今シーズンもトップコンテンダーである事に変りはないはずのメルセデスだが、登場したW13は見た目が極めて実戦的だ。フロントウィングのノーズ周りセンターのアタック角度を極度に寝かせて後方床下への空気流の導入を意識し、その分両サイドは思い切り盛り上がる形で大きく湾曲した立ち上がりを与えてダウンフォースの獲得に配慮。サイドポッド下部、ベンチュリートンネルへの導入部分は目いっぱいに持ち上げられ、片側3枚のスピリッターで4本の流れをつくる。そのスピリッターも前方へ突き出る形で左右への逃げを制御している。メルセデス独特の床下ベンチュリーでのダウンフォース安定供給コンセプトを継承。今シーズンはベンチュリーフロアとなったので、このコンセプトの継承は極自然におこなわれたはずだ。その結果、ポッド後方エンジンカバー等のフロアへの早急な落ち込みやタイトな絞り込みなどに革新はなく、これまでのメルセデスの手法を継承、これも堅実な実戦型で過激な冒険は避けている。しかしポッド先端エッジの抉れと上面に追加されたディフレクターが、エッジ周りでのボーダウィング的効果を作り出していそうだ。
そしてリアウィングは3D曲面でW型スプーンウィングに整形され、独特の個性を発揮している。またフロアエッジ前方に複数の小型ディフューザーを備え、フロアエッジの渦流を作り出しているのも昨年からのコンセプトを継承したものだ。さらに波打つフロア上面部には、ダクト等の埋め込み処理でもありそうな不思議な造形をしている。このあたりの処理がメルセデストリックの真骨頂かも知れない。昨年レッドブルに奪われたタイトル奪還のために過激な革新を避けて堅実な実戦車、それがメルセデスW13のコンセプトの根底にありそうだ。
堅実な実戦車で昨年苦しんだシーズン前半を稼ぎ、その後の開発戦争に向かう。今シーズンもチャンプを落とせば、これまでの連続チャンプの栄光に傷がつく。メルセデスW13は、絶対チャンプへの使命を担った堅実な実戦車ではないのだろうか。
津川哲夫
1949年生まれ、東京都出身。1976年に日本初開催となった富士スピードウェイでのF1を観戦。そして、F1メカニックを志し、単身渡英。
1978年にはサーティスのメカニックとなり、以後数々のチームを渡り歩いた。ベネトン在籍時代の1990年をもってF1メカニックを引退。日本人F1メカニックのパイオニアとして道を切り開いた。
F1メカニック引退後は、F1ジャーナリストに転身。各種メディアを通じてF1の魅力を発信している。ブログ「哲じいの車輪くらぶ」、 YouTubeチャンネル「津川哲夫のF1グランプリボーイズ」などがある。
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