全長が4800mm、全幅が1800mmを超えるLサイズミニバンの新車登録台数を見ると、アルファード&ヴェルファイアが圧倒的に多い。
逆にかつてベストセラーを誇ったオデッセイは低迷が続いている。オデッセイの初代モデルは、ミニバンの普及期だった1994年に発売してヒット作になり、1995年の登録台数は、1カ月平均でも1万463台に達した。それが最近では大幅に落ち込んでいる。
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なぜこれほど、オデッセイは販売不振になってしまったのか? アルファード&ヴェルファイアに対し、どこが劣っているのか? オデッセイの敗因をモータージャーナリストの渡辺陽一郎氏が分析する。
文/渡辺陽一郎
写真/ベストカーWEB編集部
【画像ギャラリー】アルファードよりオデッセイのほうが室内空間はいい?
なぜこれほどオデッセイは販売不振なのか?
2019年10月の新車販売台数はたった740台。対するアルファードは5130台、ヴェルファイアは2221台。オデッセイはアルファードの7分の1ほどしか売れていない
2019年度上半期(2019年4~9月)の登録台数を1カ月平均に換算すると、オデッセイは1268台だ。絶好調だった1995年の12%にとどまる。当時に比べると国内市場も縮小したが、オデッセイの12%は減りすぎだ。
そしてLサイズミニバンで人気の高いアルファードは1ヵ月平均が5582台、ヴェルファイアは2964台になる。これを見るとオデッセイの1ヵ月平均1268台がいかに少ないかおわかりいただけるだろうか。
ちなみに現行アルファード&ヴェルファイアが2015年に発売された後、2017年まではヴェルファイアの登録台数が多かった。
それが2018年に入って逆転している。2017年12月に両車ともマイナーチェンジを行い、アルファードがフロントマスクを仮面のような個性的なデザインに刷新して注目されたからだ。
販売店舗数を見ると、アルファードを扱うトヨペット店は全国に約1000カ所、ヴェルファイアのネッツトヨタ店は1600カ所とされる。
これだけ差があれば、ヴェルファイアの売れ行きが多くて当然だ。それがフロントマスクのデザイン変更により、アルファードの登録台数が上まわった。今では店舗数の少ないアルファードが、ヴェルファイアの1.9倍も売れている。
全高が低く、あまり派手ではないのが売り上げを落とした原因か?
お馴じみオラオラ顔のアルファード&ヴェルファイア。どちらの車種ともに最も派手なエアログレード
オデッセイアブソルートの顔。けっしておとなしい顔ではない。どちらかといえばオラオラ顔なのだが、さすがにアルファード&ヴェルファイアと比べると物足りないのか?
クルマにとってデザインが重要なのは当然だが、実用重視とされるミニバンでも、マイナーチェンジによる形状変更が売れ行きを大きく左右する。
背の高いミニバンでは、外観の見え方、特にフロントマスクの形状がこれほど重要なのだ。オデッセイの売れ行きがアルファード&ヴェルファイアに比べて少ない理由も、同じところにある。
アルファード&ヴェルファイアとオデッセイの外観を見比べて、最も違いを感じるのがフロントマスクだ。
アルファード&ヴェルファイアは全高が1935mm(2WD)で、オデッセイは売れ筋のアブソルートが1685mm(2WD)に収まる。250mm背が低く、しかもフロントマスクのデザインが大人しい。これが売れ行きに大きな影響を与えたと思う。
■ボディサイズ比較
●オデッセイ:全長4840×全幅1820×全高1685(アブソルート)~1695mm、ホイールベース:2900mm
●アルファード:全長4945×全幅1850×全高1950mm、ホイールベース:3000mm
クルマの動力性能はアルファード&ヴェルファイアよりオデッセイの方が高い
クルマの動力性能で考えると、必要な最低地上高と室内高が得られれば、全高と床の高さは低いほど良い。
天井と床が下がれば、乗降性が向上して、重心も下がるから走行安定性と乗り心地でも有利だ。空気抵抗が減って車両重量も軽くなり、動力性能や燃費も含めて車両全体の機能と性能が高まる。逆に背を高くして得られる機能的なメリットは1つもない。
そのためにホンダは長年にわたって低床プラットフォームに取り組み、オデッセイは車内全体の床がフラットな背の高いミニバンの構造を採用したうえで、床の位置を低く抑えた。その結果、1325mmの室内高を確保しながら、全高を1700mm以下に抑えている。
超低床プラットフォームをそのままに、高効率のハイブリッドシステムを追求
アルファードは低床ではないが乗員の見晴らしと乗降性を優先させた
ところがアルファード&ヴェルファイアは、現行型でプラットフォームを刷新しながら、床の位置をあえてほとんど下げなかった。外観を立派に見せて、なおかつ乗員の周囲を見晴らせる感覚を重視したからだ。
低床設計にして天井も下げれば、乗降性、走行安定性、乗り心地、動力性能、燃費などを幅広く向上させられたのに、きわめて情緒的な背の高い外観デザインと、乗員の見晴らしを優先させた。その結果、売れ行きを伸ばすことができた。
アルファードは後席の乗り降りをしやすくするために、細部へ様々な配慮を施した。乗降口のステップを幅広くし、低い位置に設定。またスライドドアの開口幅も780mmと拡大し、アシストグリップも大型化することで、さまざまな体格の方が乗り降りしやすいようにしている
このアルファード&ヴェルファイアの成功は、トヨタ車が売れる本質を突いている。極端な表現をすると、売れ行きを伸ばせるのであれば、走行性能や乗降性など多くの機能を犠牲にしても、デザインを優先させるのがトヨタのやり方だ。
この「売れること」いい換えれば「儲かること」を前提した優先順位の付け方は、他メーカーでは真似できないトヨタ流だろう。
最近はプリウスのように、主力車種なのに外観がいまひとつ受けない商品も登場しているが、かつてのトヨタはデザインの失敗がほとんどなかった。
ミニバンのアルファード&ヴェルファイア、ヴォクシー系3姉妹車、シエンタは、このデザインにおけるコントロールがとても上手にできている。
居住性はオデッセイの方が勝る
一方、オデッセイは床と天井を低く抑える理論に忠実な商品開発を行ったから、機能はアルファード&ヴェルファイアよりも優れている。走行安定性だけでなく、居住性もオデッセイが勝る。
オデッセイのインテリア。居住性はアルファードよりもオデッセイの方が勝るという
アルファード&ヴェルファイアは床が高いこともあり、左右に跳ね上げる3列目シートは、床と座面の間隔が不足して膝を前側に投げ出す座り方になりやすい。
2列目に比べて居住性が格段に下がるが、オデッセイの3列目は着座位置が相応に高めで快適だ。大人6名の移動を前提にすれば、アルファード&ヴェルファイアよりもオデッセイの方が優れた面が多い。
ステップ高は約30cmと低床化により優れた乗降性を獲得。階段のようなステップをなくすことで、フラットで広いフロアも実現。高齢者向けともいえる
また高齢者が階段を登る時、段差が30cmを超えると辛くなる。オデッセイのステップ部分は、この範囲内に抑えた。
アルファード&ヴェルファイアは前述のように床が高いから、階段状のサイドステップが備わり、乗降性もオデッセイに見劣りする。
以上のようにアルファード&ヴェルファイアと機能を比べると、オデッセイは優れた点が多い。それなのに売れ行きではボロボロに負けている。自動車ビジネスは難しい。
ホンダの販売店はN-BOXやフリードで手一杯
着座時の頭まわりが広くなるように工夫した形状など、オデッセイはいたずらに室内高を上げるのではなく、乗員それぞれが実感できる“広さ感”にこだわっているという
オデッセイの敗因はほかにもある。今のホンダはオデッセイが好調に売れた時代と違って、全店が全車を扱う。
この影響で売れ筋車種が低価格化した。特に今はN-BOXが絶好調に売れている。2019年1~10月の累計で見ると、国内で売られたホンダ全車の内、N-BOXが34%を占めた。軽自動車全体で見ると、ホンダ車の半数に達する。
N-BOXに次いで売れているのもコンパクトなフリードやフィットだから「ホンダは小さなクルマのメーカー」というイメージが定着した。オデッセイの存在感は相対的に薄れている。
そして今のホンダの国内販売台数は、好調な軽自動車に支えられてトヨタに次ぐ国内2位だ。1台のクルマを販売する時のセールスマンの手間は、軽自動車が届け出制とはいえ、小型/普通車とさほど変わらない。
そうなると今のホンダの販売店は、N-BOXやフリードで手一杯だ。ホンダのセールスマンも「オデッセイやアコードは、来店して購入を希望するお客様に販売している。積極的に売り込むことはしていない」という。
ホンダが販売系列を撤廃したことで小さなクルマが売れ筋になり、この傾向をN-BOXが加速させ、ホンダのブランドイメージと売り方も変化してオデッセイが落ち込んだ。
その一方で、販売面におけるトヨタの強さも見逃せない。アルファードを扱うトヨペット店は、以前はコロナ(プレミオの前身)とマークII(マークXの前身)が主力商品で、法人相手の営業も強い。
この法人需要を今ではアルファードが牽引している。トヨペット店によると「最近はTVのニュースなどで、政治家や企業のトップがアルファードから降りてくる映像が流され、社用車で使う法人のお客様が注目している。
車内(2列目のシート)でパソコンなどを使った仕事もしやすいから、クラウンからアルファードに乗り替えるケースも目立つ」とのことだ。
そしてアルファードはトヨペット店、ヴェルファイアはネッツトヨタ店の最上級車種に位置付けられ、両系列とも大切に販売している経緯がある。トヨタ店がクラウンを大切に売るのと同じようなことが当てはまる。
それなのに2020年5月になると、トヨタの販売店は、全国的に全店が全車を扱う体制に移行する。取り扱いディーラーが専売車種を大切に売るスタイルが変わり、時間が経過するとアルファードとヴェルファイアのどちらかが廃止される。
仮にそうなっても、Lサイズミニバンの販売1位は揺らがないだろうが、今の勢いを保てるとは限らない。クルマ業界の変革では、売れ筋車種の変化も激しくなるだろう。
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