600eのチーフデザイナー、フランソワ・ルボワンヌ氏に聞くフィアットの未来
フィアットのバッテリーEV「600e」が2024年9月10日に日本国内でローンチされました。それに合わせて本国からチーフデザイナーのフランソワ・ルボワンヌ氏が来日し、AMWではインタビューの機会を得ました。3年前までルノーに在籍していたフランス人デザイナーの彼が感じたイタリアとフランスのカーデザイン文化の違い、そして今後のフィアットのあり方とは?
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ルノーからフィアットに移籍して第1作が600e
2024年9月上旬、都内で行われたフィアット「600e」の発表会に合わせて、イタリア本国からチーフデザインを統括するフランソワ・ルボワンヌ氏が来日した。2021年にフィアットに移籍するまで、じつは前職はルノーでアドバンスト・デザイン担当だった彼は、欧州で発売になったばかりで直近の大きな話題になっているルノー「5(サンク)E-TECH」をはじめ、ダチアの現行「サンデロ」や先代「ダスター」、過去にはEVコミューター「トゥイジー」をも手がけてきた。そんなひと筋縄ではいかないデザイナーが手がけたフィアット第1作が、600eなのだ。
「広い室内スペースを表現すると同時に、コンパクトなフィールが大事で、過去の初代600をも彷彿させるため、プロポーションを最適化することにこだわりました。視覚的に軽くするため、クリーンなサーフェスとややシャークノーズ気味のノーズとし、ショルダーは長く、全体的なシルエットに角ばったところはありません。外装色は、イタリアの空/地/土/海といったエレメントに着想を得ています。
ツートーンのシートは500から受け継ぎつつ、ボールド・コンフォート、ルーミーで実用的なインテリアとしています。メータークラスターと2スポークステアリングは、アイコニックなディテールです」
と、外装と内装のコンセプトについて、じつに模範解答的にルボワンヌ氏は解説する。
ミリ単位の違いが、新しいデザインフィールを生み出す
フィアット600eは、ポーランドのティヒ工場という、古くは「126」から「チンクエチェント」に「ウーノ」、「セイチェント」に「パンダII」を送り出してきたフィアット伝統の生産拠点で組み立てられるが、“CMP”というプジョー「e-2008」やシトロエン「Ë-C4」らと同じ、つまり旧PSAのプラットフォームに基づいてジープ「アベンジャー」と一緒に生産される。
600eはたしかに、その輪郭を見れば500ファミリーの新たな一員だが、いわばフランス車オリジンのプラットフォームに仕着せをするというエクササイズを、フランス人デザイナーはどう受け止めていたのだろう?
「今日の製造業では典型的なこと。今の製造業が酷い、という意味ではなく、スクラッチからモノを作ることはゼロでなくてもレアになりつつあります。ですから自動車業界の人々の目標は、プラットフォームを採用してコストと価格を最適化すること、顧客にとって可能な限り手の届きやすい価格で、何かを提案することです。つまりお金をセーブすべきところではセーブし、使いたいところに使う。既存のものを選びつつ人々の求める新しいものを創り出すのにはスマートなやり方で、私たちの定番エクササイズです。
たしかに私が以前に在籍したルノーと、ステランティス・グループのフィアットには、大衆車であるという共通点があります。ただデザインについて同じプロセス、同じデザインを繰り返しても退屈なだけ。人生は新しいものを創り出す機会に満ちていますし、それは顧客にとって意味のあるものでなくてはなりません。違いのために違いを作り出すのではなく、少なくともどの製品にもふさわしい個性を与えて世に送り出すこと、それが自分のデザイン哲学だと思っています」
既存プラットフォームに新しいアイデンティティをもたらすことを、ルボワンヌ氏は次のように説明する。
「もちろん制限はプラットフォームと直結しています。異なる数車種と共通プラットフォームを用いて、そこから商品力のあるものを作らねばなりません。人々に喜ばれるような新しい仕着せをまとわせること、それは社内コンペの段階から始まります。だからディテールだけでなく、プロポーションを研究することが私たちの仕事であり、ミリ単位の変化で物事を変えることができるのです。今の時代のクルマ、同じセグメントのいろいろな車種の中でも、ミリ単位の違いが、新しいフィールを作り出しています。デザイナーがミリ単位で闘ってこそ、どこをどう動かすべきか吟味を重ねて、最終的に私たちの意図するフィールをつかみ取るものになるのです。制限はあれど、私の25年間のキャリアで制限のなかった市販車はひとつもありません。仕事の一部と捉えています」
イタリアとフランスのデザイン文化の違いとは?
600eをデザインしていくうえで、とくに検討を重ねた点をルボワンヌ氏に問うてみた。
「500のように超丸っこく、超なめらかかつ超シンプルでありながら、ルーミーで空力的でなくてはなりません。ルーミーならボクシーな方がいいし、クルマのリアエンドの空力をよくするにもボクシーな方がいい。空力にはエッジが重要ですからね。でもデザイナーがプロダクト上の制限に従い続けてばかりいたら、こうはいきません。ボクシーにすると昔のデザイナーが成した仕事が目標値達成の障壁となり、“らしく”見えるフィールも得られない。するとクルマの見た目はイマイチでも、風洞に入れると良いクルマとなります。
でもここでやり取りして、同じ効果を備えつつより強いシェイプを時にもたらす、それがイタリアで初めて知ったイタリア式のやり方でした。これこそが洗練を可能にするのであって、イタリアン・デザインが創り出せる微妙な仕上げなのです。ご存知のように私はフランスのデザインを比較に挙げやすいですが、フランスのデザインはラディカル。イタリアのデザインはずっと繊細で、新しい経験でした。デザインの扱い方が違うのです」
一般にイタリアとフランスのデザイン文化の違いは、前者が造形的なボリュームの扱いに長けているのに対し、後者はコンセプト的といわれるが、彼はこう続ける。
「クルマに付与されるキャラクターが、ボリュームの点で繊細に左右されるのです。イタリアの人々が立体的なシェイプを好む事実は、文化に深く根づいているというか、美に繋がるストーリー、イタリアという国の歴史に繋がるものが求められます。フランスで語るべきはもっとコンセプトめいたストーリーで、良いものを出せたのなら、それは人々に理解される範囲でより精神的な何かをもつストーリーを語れた結果として、美しさはそこに付随するもの。両者はまったく異なるもので、美と人々の関係が違うんですよね」
巨匠と呼べるイタリア人たちがトリノをカーデザインの首都にした
くわえて興味深いのは、スティーレ・フィアットが本拠地とするトリノが、カーデザインの首都である事実だという。
「多くの国が国民車によってデザインを発展させた中で、巨匠と呼べるイタリア人たちがトリノをカーデザインの首都にしたといえます。イタリアのルネサンスが欧州に影響を与えたようなことが、1970年代にトリノからカーデザインの分野で起きていたのだと思います。だからトリノで仕事することはデザイナーとして、物事を本当に最初の段階から考えさせるものなんですよ。そこでイタリアン・ブランドの生まれ変わる歴史に立ち会えることは、エキサイティングなことです。イタリアのブランドをリローンチして新しい流れ、新しい目標をもたらすことが、ステランティス・グループの目標ですから。今やチーム全体が、主にイタリア人で構成されているとはいえ、よりインターナショナルになったと感じられます」
だからこそルボワンヌ氏が、パリからトリノに居を移して移籍することを選んだという話だ。それから先、話題は600eから近い未来、フィアットのデザインがどのような方向に進んでいくのかという点にまで及んだ。
「ただフランスの別会社に移籍するのではなく、文化も異なりデザインのアプローチも違う場所に行くこと、自分のデザイン経験をもたらし、新しいやり方で何かが実現できそうであること。500のような素晴らしい資産をもつフィアットのようなブランドを、若いチームとリローンチして新しい資産を創り出すことに、興味を惹かれたのです。私にとって500は偉大で、これからも幾度となく、それをブラッシュアップしていくことでしょう。同時に私たちは新しい資産をブランドのために作り出し、フィアットを一層強化せねばなりません。500があることで600というプロダクトをも作り出せるだけでなく、近い将来に出てくる新しいプロダクトもフィアットの強いイメージ、125年間の歴史にふさわしいイメージを市場に与えなくてはならないのです」
万人のためのデザインを実現することがフィアットの使命
ただ、欧州市場では現在、メインストリームあるいはスタンダードなどと呼ばれる、ルノーやフィアットといった伝統的ブランドの存在感が、ローコスト・ブランドかプレミアムもしくはラグジュアリー・ブランドかという二極化で相対的に薄れ、大衆車というセグメント自体が空洞化しかけている。この状況でフィアットのような大衆車ブランドのデザインは、どうあるべきか、氏に問いかけた。
「それは、根本的なクエスチョンですね。まずいえることは、市場は動いているということ。市場は二極化し、ラグジュアリーブランドは上方移行して成功しているようですが、私たちは逆の側でとても開けた市場、強い需要があります。ですからこの市場を放置して空白を作ってはならない。思うに、フィアットのような大衆車ブランドはこの市場に回帰し、そこで存在感を示す必要があります。それこそ自分たちが昔からいた場所で、何が大衆車ブランドかといえば、予算的に手の届くソリューションであることですから。500は大衆ブランドをどのように再定義するかという好例です。500は似たクルマが他にいない市場で、強烈な存在感を放っています。
フィアットの強みとは、誰もいない市場を開拓すること。手の届く価格帯というセグメントに戻るかどうか以上に、フィアットにとって手の届く提案をすることはほとんど使命のようなもの。私はそこが大好きというか、やりたいと思うところ。具体的には、万人のためのデザインを実現することです。それがフィアットの使命であり、イタリア流の優雅さでもってフィアットには可能だと思います。スーパークール・イタリアンタッチですね。私たちの真のゴールは、イタリアンな魅力にあふれ、手の届きやすいソリューションを提供すること。それができたら売れるであろうことは分かっています。だから私たちは信じていますし、メインの目標としているのです。ある意味、大衆車ブランドは自分自身を生まれ変わらせる必要があるのです」
もうひとつの「グランデパンダ」ファミリーも展開していく
つまりフィアット・ブランドを生まれ変わらせるため、500とは別に、もうひとつのファミリー・アイコンが要るという。それが今夏より市販バージョンが公開され2025年に欧州市場デビューが見込まれる「グランデパンダ」なのだ。
「私の目標のひとつは、フィアットのさまざまな製品に共通のDNAを創ること。もとより重要なひとつが500で、その周りに600やトッポリーノといった姉妹車や兄弟車がいる。そしてもうひとつ別のファミリーの第1弾が、より機能的な側で、私たちがグランデパンダとして開発したものです。前者が“ドルチェ・ヴィータ”で、後者が“クールかつ機能的”な側。これら2つの側面をフィアットは保持していきます」
ルボワンヌ氏のいう「ブランドの新しい資産」とは、500と並ぶ新しいアイコンとして「グランデパンダ・ファミリー」を作り出すことなのだ。
「アイコニック・モデルを創り、その周囲に500のようにフル・ファミリーを。グランデパンダもファミリー化していくという戦略です。デザイン的には強く、非常に分かりやすく、大胆であること。もちろん好まない人もいるでしょうが、思うにそれは500も同じです。逆に好まれるかもしれませんし、そうなったらもはやメインストリームではありません。フィアットはイタリア的側面でもってポジティブな未来を人々に信じさせることができるブランドなんですよ。凝っていて高価で、いろいろな機能やコンテンツが詰まっているとかではなく、例えばピザを食すように、シンプルに何かを楽しむ時間を過ごすというか、シンプルだけどクールってそういうこと。私たちはそれをドルチェ・ヴィータと呼んでいるのです」
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