エコカーの代名詞として知られるハイブリッド車。現在では、ほぼすべてのメーカーがハイブリッド車をラインナップしていますが、名前は同じ「ハイブリッド」でも、実際にはメーカーごとに仕組みが異なります。各メーカーのハイブリッド車は、どんな特徴があるのでしょうか?
●トヨタ、日産、ホンダは独自のハイブリッドシステムを採用
世界初の量産型ハイブリッド車であるトヨタ・プリウスが1997年に登場してから約25年、現在では新車で販売されるクルマのおよそ3台に1台がハイブリッド車となっています。
「ハイブリッド(Hybrid)」とは、複数の方式を組み合わせたものを意味し、クルマの場合は、おもにガソリンエンジンと電気モーターを組み合わせたパワートレインを指すことが一般的です。
つまり、ガソリンエンジンと電気モーター(正確には駆動用の電気モーター)を備えていれば、すべてハイブリッド車ということができます。しかし、実際には各メーカーのハイブリッド車に搭載されているシステムは大きく異なります。
今回は、ハイブリッド車の代表格であるトヨタの「THS ll」、日産の「e-POWER」、そしてホンダの「e:HEV」の3つのハイブリッドシステムの特徴について見てみたいと思います。
●元祖ハイブリッドは燃費性能がピカイチ! トヨタ「THS II」
プリウスによって、ハイブリッド車というものを世に知らしめたトヨタですが、現在ではコンパクトカーからSUVまで、非常に多くのハイブリッド車をラインナップしています。
現在、トヨタのハイブリッド車の多くに搭載されているのは、「THS II」というハイブリッドシステムです。このシステムの基本的な考え方は「ガソリンエンジンの走りを、電気モーターでアシストする」というものです。
一般的に、ガソリンエンジンは発進時に最も大きな負荷がかかります。つまり、発進時が最も燃費が悪くなってしまいます。一方で、電気モーターはその特性上、発進時から大きなトルクを発生させることができるため、ガソリンエンジンが苦手とする発進時を中心に電気モーターがアシストすることで、燃費性能を向上させることができます。
こうした考え方を基本とする「THS II」は、日本の都市部のように、渋滞や信号待ちが多い道路環境で真価を発揮します。また、カタログ燃費を見ると、ほかのメーカーのハイブリッドシステムより燃費性能が高く、最もエコロジーであると言えます。
一方、比較的大きな電気モーターやバッテリーを搭載するため、同型のガソリン車に比べて割高になりやすいというデメリットもあります。実際に、ヤリスのハイブリッド車の最上級グレードである「HYBRID Z」と、ガソリン車の最上級グレードの「Z」では、パワートレイン以外はほぼ同等の装備であるにもかかわらず、車両価格で35万3000円もの差があります。税制優遇などを考慮しても、かなりの距離を走らなければ「元が取れない」点には注意が必要です。
ちなみに、2022年1月に発売されたノア/ヴォクシーからは5世代目となる新ハイブリッドシステムが採用されており、さらなる燃費性能の向上が図られています。
●走行フィーリングは電気自動車そのもの! 日産「e-POWER」
日産は、2016年に独自のハイブリッドシステムである「e-POWER」を搭載した「ノート e-POWER」を発表し、その後ミニバンのセレナやコンパクトSUVのキックスなどにも「e-POWER」を搭載しています。
「e-POWER」は、トヨタのハイブリッドシステムとは異なり、「電気モーターをガソリンエンジンでアシストする」という考え方を基本としています。
電気モーターのみで走るクルマ、つまり電気自動車は、当然のことながらガソリンを消費することはありません。しかし、現在の技術では、電気自動車にガソリン車と同等の航続距離を持たせようとすると大型のバッテリーを搭載する必要があるため、結果としてボディサイズが大きくなったり、車両価格が高価になってしまいます。また、充電できる環境も必要となります。
そこで「e-POWER」では、発電用のガソリンエンジンを搭載することで、電気自動車の不便な点を解消しています。一般的なガソリン車同様、ボンネットの中にガソリンエンジンがおさまっているため、走行中にはエンジン音が聞こえてきますが、駆動自体はモーターで行うため、走行フィーリングは電気自動車そのものです。
日産では「e-POWER」より先に電気自動車のリーフを発売していますが、e-POWERにもリーフに使用されている大出力モーターが搭載されています。このことからも、e-POWERは、電気自動車が考え方のベースにあることがわかります。
とはいえ、基本的には常にガソリンエンジンが作動しているため、燃費性能自体はずば抜けているわけではありません。ノート e-POWERのカタログ燃費(WLTCモード)は29.5km/Lとなっており、30km/Lを優に超えるトヨタ・ヤリスやホンダ・フィットのハイブリッド車から見るとやや劣る数値となっています。
「e-POWER」の魅力は、燃費性能ではなく、電気自動車のようなスムーズな加速や、強力な回生ブレーキを活かした「ワンペダルドライブ」などにあると言えるでしょう。
●ガソリン車と電気自動車のいいとこ取り? ホンダ「e:HEV」
トヨタと日産は同じハイブリッド車でも、正反対と言える考え方を持っていることがわかりました。一方、ホンダでは、そんなガソリンエンジンと電気モーターのメリットを「いいとこどり」した仕組みを持っています。
ホンダがフィットやヴェゼルなどに採用している「e:HEV」というハイブリッドシステムは、基本的には「e-POWER」と同様に、ガソリンエンジンが発電し、その電気を使ったモーターによって走行します。
しかし、「e-POWER」とは異なり、高速走行時などには、ガソリンエンジンで得たパワーを直接タイヤへと伝達することができます。つまり、ガソリン車としても走行することができるということです。
発進時に最も負荷がかかるガソリンエンジンですが、その一方で、高速走行時は電気モーターよりも少ない負荷で走れるという特性があります。「e:HEV」では、そうした特性を活かし、走行環境に応じて使用するパワートレインを自動的に切り替えられることが魅力です。
このように書くと「e:HEV」は理想のハイブリッドシステムのように思えます。しかし、実際のところ燃費性能では「THS II」に劣り、かといって「e-POWER」のような電気自動車らしい走りも持っていないという、中途半端な状態となっているのが実情です。
ただ、ガソリンエンジンや電気モーター、バッテリーの改善による伸びしろは十分にあるため、今後に期待というところでしょう。
●ハイブリッド車の魅力は燃費性能だけではない!
これ以外にも、各メーカーが「ハイブリッド」と銘打ったモデルを多くラインナップしていますが、そのほとんどは、従来のガソリンエンジンに搭載されているバッテリーを少し大きくし、発進時にアシストできるようにした「マイルドハイブリッド」と呼ばれる仕組みのものです。これは、仕組みが簡単でコストも抑えられる反面、燃費性能への貢献はわずかというものです。
一方、今回紹介した3つのハイブリッドシステムは、ガソリン車とは大きく異なる仕組みを持っています。特に、「e-POWER」と「e:HEV」については、電気自動車の考え方が色濃く反映されており、今後の電動化につながる技術と言えます。
多くの人がハイブリッド車に期待するのは燃費性能ですが、ガソリン車とは異なる運転フィーリングもハイブリッドの大きな魅力のひとつです。気になる人はそれぞれのハイブリッド車の比較試乗を行い、特徴を確かめてみましょう。
文:ピーコックブルー
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みんなのコメント
マネしようとしてもまったく作れなかった、かなり高度なハイブリッド技術らしい。