「我々が戦っているNASCARはレースシリーズなのか。それともそうではない他の何かなのか。もし後者だとしたら、それをパドックの全員に周知する必要がある」
物議を醸す“破壊と独善”のオーバータイム決着となった2024年NASCARカップシリーズ第23戦『クックアウト400』は、先頭ジョーイ・ロガーノ(チーム・ペンスキー/フォード・マスタング)と追い縋るデニー・ハムリン(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタ・カムリXSE)を文字どおり“撃破”したオースティン・ディロン(リチャード・チルドレス・レーシング/シボレー・カマロ)が、約2年ぶりの勝利を飾る結末に。
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これでレギュラーシーズン残り3戦で大逆転の滑り込み“プレーオフ進出権”を獲得する一方、最高峰カップシリーズとして「どうあるべきか」を含め、続くレースウイークを前に運営団体による徹底的な検証が続く見込みとなった。
ここまで開幕以降21週間連続で競技を続けてきたカップ戦は、ブリックヤードでの前戦を終えたのちに約2週間のオリンピック・ブレイクに突入。この8月8~9日にリッチモンド・レースウェイで再開のときを迎えた。
段階的勝ち抜き方式を採用するプレーオフまで、週を追うごとに猶予がなくなっていく終盤戦だけに、16名のカットライン当落線上を行き来するドライバーにとっては、是が非でも勝利の欲しいラウンドが続く。
そのうえ、今回のリッチモンドではタイヤサプライヤーのグッドイヤーが運営団体側との協議により、長年にわたって準備を続けて来た新しいオプションタイヤも供給。チームにはレース中での選択権が与えられることで、戦略面での新たな要素が付け加えられた。
その新タイヤを考慮し追加走行枠の設けられたフリープラクティスでは、後に“疑念のウイナー”となるディロンが最速発進を決めると、予選では僚友マーティン・トゥルーエクスJr.(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタ・カムリXSE)を従えたハムリンが、今季3回目、キャリア通算43度目のポールウイナーに輝く。
このリッチモンドを得意とするハムリンは、同地4回目の最前列からスタートを切ると、この日もレースハイとなる124周の最多リードラップを記録。さらにステージ1では5番手発進だった配下のクリストファー・ベル(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタ・カムリXSE)が、今季最多となる10回目のステージ優勝を決めてみせる。
続くステージ2は、レースウイーク直前に所属先との来季2025年契約延長を発表したダニエル・スアレス(トラックハウス・レーシングチーム/シボレー・カマロ)が、新たなオプションタイヤを早めに装着することでメリットを得て「プライムタイヤよりラップ0.5秒以上は速かった。これはショートトラックでは大きな差だ」とキャリア通算4度目のステージウインをさらっていく。
一方、フロントロウ発進だったトゥルーエクスJr.のカムリXSEは、突如のエンジントラブルが発生して無念のリタイアを喫することに。プレーオフ争いでは未だ未勝利ドライバー最上位の14位に付けながら、引退表明の最終年にポストシーズン進出へ黄色信号が灯る大きな打撃となる。
残り30周を切った段階で首位ハムリンに仕掛けたのが“渦中の人”ディロンで、ここでラップリーダーの座を奪取。しかし、そのディロンの目前。ラスト2周でライアン・プリース(スチュワート・ハース・レーシング/フォード・マスタング)とリッキー・ステンハウスJr.(JTGドアティ・レーシング/シボレー・カマロ)が絡み、勝負は2周の延長戦決着へと突入する。
このリスタートでディロンの隣から抜け出したロガーノは、ディロンとハムリンを率いてホワイトフラッグをくぐっていく。しかしターン3で22号車マスタングのリヤバンパーに迫った3号車カマロがフロントをヒットさせると、堪え切れずロガーノはキャッチフェンスに激突。さらにボトムを抜け出そうとしていた11号車カムリXSEの右後輪にも立て続けに接触し、スピンモードに陥ったハムリンもウォールの餌食となってしまう。
これにより、わずか0.116秒差で終盤戦の重要な勝利を手にした34歳だったが、ドーナツターンの直後にはその攻撃的な動きに対し「意図的なものであったか、公平だったと思うか」と、質問の集中砲火を浴びることとなった。
「分からないよ、最後の勝利から2年が経ったし、これが僕が勝つチャンスを得た初めてのクルマだったんだ」と応じたディロン。「残り2周で僕たちが最速だと感じた。もちろんフィニッシュラインだけを目指したし、そこで彼らと衝突があった。そんなことはしたくないけど、ときにそうしなくちゃいけないこともある」
「神様に感謝しなくちゃ。この2年間は大変だったよ。RCR、ファン、妻のことを大事に思っている。これは僕の娘にとっては初の勝利だ。とても意味のあることだし、嫌だけど、やらなきゃいけなかった。チャンスを与えられたら、それを掴まなきゃいけないんだ」
実に68戦ぶりのカップ5勝目を挙げ、ランキング32位から自動的にチャンピオンシップ進出13人目のドライバーとなったディロンに対し、祖父であり、NASCAR殿堂入りを果たすリチャード・チルドレスも「彼は自分が何をすべきか分かっていたし、彼ら(ロガーノとハムリン)もそうしていただろう」と、その立場を擁護する。
■ヒットされた2名は怒りをあらわに
一方、それとは明確に相対する姿勢を示したハムリンは、レース直後に「荒っぽいドライブにペナルティがなく、オースティン(・ディロン)がやりたいことを何でもできるチャンスが開かれている」と、やはり憤りを露わにした。
「また右後輪を引っ掛けられた。自分のことに集中していたら、いきなりフェンスにぶつけられた。彼は勝利の記録を残すだろうが、プレーオフでは明らかに遠く(上位)までは行けないだろう。そういうことで報いを受けなければならないからだ」と続けた2位のハムリン。
「そこで何が起きたかなんて、後のリザルトには書かれない。でもポイントでジャンプアップした価値はあった。それは理解できるし悪意はないが、自分がその一部だったことが気に入らない……理解はできるが、賛成できない」
そして目の前の勝利を“刈り取られた”ロガーノも、フィニッシュしてすぐNASCAR競技団のもとへ直行したのち「あいつはチキン野◯だ! 間違いない」とやり場のない感情を吐き出す。
「彼は4台分後ろにいた。全然近くない。それからさらに11号車(ハムリン)まで撃墜した。バンプ・アンド・ランなら分かるが、彼は僕を突き飛ばした。馬鹿げているよ……」
こうした“物議のフィニッシュ”と、近年、レーストラックでの行動規範に対する不満が高まっていることも受け、NASCARの競技担当上級副社長のエルトン・ソーヤーは明けた月曜に以下のように述べ、接触の許容範囲に関する考え方を再考する必要があると認めた。
「我々が現在レースをしている時代、そして若い選手たちがショートトラックでレースをし始めている状況を考えると、最高レベルのレース、つまりNASCARカップシリーズが模範的なレベルで戦われ、最大限の誠実さとスポーツマンシップをもって争われるようにしたい。それが我々の真の目標だ。従って今後それに応じて調整する必要があるかどうかは、今後見ていくつもりだ。今週中に何らかのリアクションが出るだろう」
併催されたNASCARクラフツマン・トラック・シリーズ第16戦、今季レギュラーシーズン最終戦でもある『クリーン・ハーバーズ250』は、前戦インディアナポリスに続きタイ・マジェスキー(ソースポーツ・レーシング/フォードF-150)が連勝を飾っている。
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