雪上スラロームや氷上ブレーキ、氷上旋回など様々なシチュエーションで試乗
2023年2月、毎冬恒例の横浜ゴム北海道試乗会に参加した。スタッドレスタイヤ装着シーズンの到来に合わせて報告したい。今年のテーマは「相反する氷上性能と雪上性能をどう両立するか」。複数の車両に装着した3種類のタイヤを氷上と雪上で走らせた。
【タイヤカタログ2022-2023冬】「ヨコハマ アイスガード7」圧雪路での絶対的なグリップ性能の高さとともに、スリップした際の感覚ドライバーにわかりやすい!
試乗会の拠点はおなじみTTCH(タイヤテストセンターオブ北海道)。横浜ゴムが旭川市郊外にもつ試験場だ。屋外の圧雪したハンドリングコースやスラロームスペースのみならず、コンディションを一定に保ちやすい屋内の氷盤試験場も備わる。
【画像27枚】ヨコハマアイスガード7とユニークなキャラクターのタイヤをテストした模様を見る
今回用意されたのは、
1.アイスガード7
今季で3シーズン目となる同社の最新スタッドレスタイヤ
2.氷上性能特化タイヤ
アイスガード7と同じ材質(ウルトラ吸水ゴム)で、特殊なトレッドパターン(ストレートグループと細かなサイプは刻まれているものの、排水性能やエッジ効果を発揮する横溝をもたない)のタイヤ
3.スリックタイヤ
アイスガード7と同じ材質(ウルトラ吸水ゴム)で、一切の溝をもたないスリック状のタイヤの3種類。
★アイスガード7
まずは圧雪した雪上コースで試乗した。クルマはトヨタカローラセダン(4WD)。サイズは195/65R15。最初に50km/hからのフルブレーキングとスラロームをテストした。
アイスガード7はペダルを踏んだ直後からABSが作動し、グイッ、グイッと連続的にタイヤが地面をつかもうとしているのが感じられる。体感的な減速感が得られるので安心感がある。スラロームでは、ステアリングホイールを切り始めてから、ヨーが発生する(曲がり始める)までにほんのわずかにタイムラグがあるが、曲がり始めると、ドライ路面のように……といっても過言ではないような感覚で走行することができる。“過信は禁物”ということさえ忘れなければ、必要以上に警戒する必要はなかった。
試しにトラクションコントロールをオフにすると、最新のアイスガードであっても挙動は異なる。慎重に踏んでいるつもりが、ラフにアクセルペダルを踏んでしまってスリップする。トラクションコントロールなしのアクセル操作に慣れてくるとタイヤのグリップの限界を探りながら走行できるようになるが、トラクションコントロールありのほうが大幅に楽に、ストレスなく走行できる。実際の雪道では、当然トラクションコントロールありで、そのうえでできるだけ新しいスタッドレスタイヤで走行すべし。
氷上でのフルブレーキングと旋回テストにおいても、最新スタッドレスならではの安心感のある挙動を味わうことができた。平滑な氷上での30km/hからのフルブレーキングの制動距離は1回目16m、2回目19m、3回目22m(平均19m)。
★氷上性能特化タイヤ
続いて氷上性能特化タイヤで同じメニューをこなす。このタイヤとスリックタイヤは今回のメディア向け試乗に合わせて特別に用意したもので、もちろん非売品だ。具体的な違いは、横溝がない分、接地面積がアイスガード7に比べ13%多く、同じ理由で溝面積は同13%小さい。溝エッジの長さはアイスガード7よりも62%少ない。
雪上でのフルブレーキングの制動性能もスラロームでのグリップ性能も、体感上はアイスガード7との違いはほぼ感じなかった。切り始めの反応がアイスガード7よりもほんのわずかに鈍いかなという程度。横浜ゴムのテストによれば、制動性能は7%落ち、スラロームの官能評価ではほんのわずかに劣るというデータだという。
氷上ではどうか。3度のフルブレーキングは体感的にはアイスガード7と変わらず。溝面積がアイスガード7よりも13%多く、溝面積は13%少ないから行って来いで同じということだろうか。制動距離は1回目20m、2回目17m、3回目16m(同17.6m)。これはアイスガード7よりも少しよい結果となった。同社のデータでも氷上制動性能はアイスガード比11%となっているので、おおむね正しいテスト結果となった。平滑な氷上では接地面積がものをいうということか。
★スリックタイヤ
最後にスリックタイヤを試す。雪上でのフルブレーキングとスラロームから。事前に一番グリップしないと予測していたが、意外にも制動距離は一番短かった。同社のデータ上によればアイスガード7よりも27%劣るはずなのだが、実際には短かった。この日は雪がチラついていて、圧雪路面の上に新しい雪がほんのり積もった状態だった。この新雪がタイヤの前にどんどん蓄積されて抵抗となり、制動距離を縮めたのだろう……というのが開発陣の見立て。リアルな冬季の路面は千差万別だ。
路面をひっかく溝がないため、雪上スラロームはやはり苦手で、切り始めの反応が非常に鈍く、一番怖い思いをした。溝が一切ないことで加減速よりも旋回性能が落ちる。
氷上でのフルブレーキングの結果も意外だった。アイスガード7よりも接地面積が13%大きい氷上性能特化タイヤの結果がよかったため、接地面積が23%大きいスリックはさらによく止まるのではないかと予測したが、実際には1回目35m、2回目31m、3回目35m(同33.7m)とダントツでダメ。つまり溝面積が大きいのはよいが、タイヤの溝が生む引っかく(引っかかる)力がゼロだと性能が著しく落ちるということ。
これらのテストでわかったのは、雪上で重要なのは、接地面積よりも雪柱せん断力(タイヤが踏み固めた雪を後方へ排出する力)とエッジ効果(サイプを含む溝の角で雪を引っかく力)だということ。つまり溝面積の大きさとエッジの長さが必要だということと、氷上で最も効くのは接地面積(によって稼げる凝着摩擦力。接地面の水膜を吸い込んでゴムと氷を直接接地させる力)だが、実際には平滑な路面は少ないのでエッジ効果を生む溝やサイプがないとグリップしないということ。
つまりは凝着摩擦力を稼ぐコンパウンド、十分な接地面積、そして引っかく力を生む溝とサイプがバランスよく盛り込まれていることが、千差万別の冬季路面には必須であり、市販されているアイスガード7はそうなっているということ。
スパイクタイヤの代わりとして開発されたスタッドレスタイヤにまず求められたのは氷上性能だった。氷上性能で一定のレベルをクリアできるようなると、次はそれをキープしたまま相反する雪上性能が求められるようになった。それらを両立できるようになると、アスファルト路面での静粛性、操縦安定性、そしてロングライフと、市場の要求は止まらない。言えるのは、アイスガードに限らず、新しいスタッドレスタイヤに越したことはないということだ。
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