日本専売車の新型トヨタ・クラウンもニュルで走行したことを標榜
新型クラウンがそのCMのなかで「ニュルブルクリンクで鍛えた走行性能」を上げてアピールしている。そもそもニュルブルクリンク(以下ニュル)とは一体何なのか。トヨタ自動車はなぜ日本国内専売車である新型クラウンをそこでテストしたのかについて探ってみたい。
クラウンは国内専売車なのにニュルブルクリンクで鍛える必要はあったのか?
クルマ通なら「ニュル」といえばわかるだろうが、初めて耳にする人のために少々解説すると、「ニュル」とはドイツ北西部プファルツ州アイフェル地方のニュルブルクにあるサーキットを指す。F1グランプリが開催されることもある1周5.1kmのモダンなGPコースと全長20.8kmにも及ぶ創設時からの北オールドコース(ノルドシュライフと呼ばれる)を併せ持つ。業界的には「ニュル」と言えばノルドシュライフを意味するのが一般的だ。
その起源は1927年にまで遡り、ナチス・ドイツ時代にはヒトラーの命により「ニュルブルリンク」と呼ばれるようになるなど歴史深い。ニュルブルグ=闘う城、リンク=サーキットの意味があり、サーキットに隣接するニュルブルク城が永い地域の歴史を象徴するように聳えている。
1周20.8kmにも及ぶニュルの北コースには大小含め172ものコーナーがあり、最大直線長は約2km。バンプやアンジュレーション、ジャンピングスポットなどさまざまな路面変化があり路面ミューも全体的に低い。世界中の路面コンディションが集約されていると言われることから自動車メーカーが性能試験するのに好都合として、ドイツ・メーカーが中心に開発の聖地として現在も活用されているのだ。
日本メーカーも1990年代から各社がその地に足を踏み入れ、開発に役立ててきている。トヨタ自動車が初めてニュルに行ったのは1970年頃と故・成瀬 弘さん(トヨタ自動車開発テストドライバー)から聞いたことがある。当時初代セリカを持ち込んで走らせたが、路面入力が激しく、1周してきたらドアが開かなくなった、という。
それほど厳しいニュルはまさに「自動車開発の聖地」として今では世界中の自動車メーカーが「ニュル詣で」を恒例化してきているのだ。しかし、その多くはスポーツカーや高性能社の開発に限定される。ニュルをきちんと走れることはサスペンションや駆動系の耐久性の高さの証明となるが、大衆モデルにとっては敷居が高すぎる。ニュルを走れるクルマに仕上げるには高価なパーツを使い高精度な組み立てを積み重ねていかなければならず、コストが大幅に上昇して販売価格が高くなってしまう。数百万、数千万円もするスポーツカーには不可欠なコストも大衆車にとってはオーバークォリティとなりユーザーの理解が得られなくなってしまう。
ではそんなニュルで走りを磨いたとアピールする新型クラウンはどうなのだろうか。ニュルで開発テストし、問題に対処していったら相当なコストが車両価格に反映してしまうだろう。確かに新型・クラウンの価格はけして安くない。スポーツグレードの3.5RSは、700万円近い高価格だ。これもニュルで鍛えたコストなのだろうか。
新型クラウン開発責任者の秋山さんに聞いたところ、実際は「ニュルは性能確認のために持ち込んだ」のだという。開発は主に国内で磨き込み、仕上がったシャシーの性能評価が非常に高かったのでニュルでどの程度通用するのかを試してみたということのようだ。そのためテスト車両は国内仕様のままで180km/hで速度リミッターが作動する状態。だからラップタイムは当然速くなく公表していないのだ。
だがテストを担当した現地のテストドライバーからは「剛性が高くシャシーバランスいい。素晴らしいコーナリング性能で限界が高い!」と極めて高い評価をフィードバックされたという。そこで何か問題が発生していたら工場に送り返され設計変更をしなければならない事態に陥ったかもしれない。
だが長年ニュルを走りデータを蓄積してきたトヨタ自動車のクルマ作りが「ニュル詣で」をしなくてもニュルを走れるクルマとして完成させることができるほどにまで高まっているということなのだろう。だから新型・クラウンをニュルで鍛え上げたのではなく、トヨタのクルマ作りがニュルで鍛え上げられてきた、と言うべきなのかもしれない。
新型クラウンに乗ると、そのシャープなステアリングレスポンスと前後バランスにすぐれたコーナリング性能などスポーツ性能の高さを感じた。それは確かにニュルを攻めても満足できるレベルにあると感じられるものだった。
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