■連載/金子浩久のEクルマ、Aクルマ
イギリスのロンドンを訪れた時の楽しみのひとつが、ロンドンタクシーに乗ることだ。初めて乗った時に、日本のタクシーのような自動ドアでないことは知っていても、自分でドアを開けて勝手に乗り込むとルール違反になるとは知らなかった。
後席の頭上近くまで広がる巨大なガラスルーフを標準装備したダイハツの新感覚クロスオーバーSUV「タフト」
窓越しにドライバーに行き先を伝えてから乗り込むと、天井が高く、対面するシートが折り畳まれているから、中も広った。ガラガラと大き目のディーゼルの排気音を響かせながら、ヒースロウ空港やパディントン駅などから宿泊するホテルまで乗せてもらい、狭い路地に紛れ込んだり、間違えてUターンしたりしてもロンドンタクシーはハンドルが良く切れるから心配ない。
そんな様子を見ていると、旅情も一気に昂ってくる。そう、ロンドンタクシーはロンドンの一部なのである。昨年、グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードを取材した翌日からプライベートでロンドンに滞在していた時に、ロンドンタクシーの新型に乗るチャンスに恵まれた。ニュース画像で見ていたが、実物を見るのは初めてだし、ラッキーなことに乗ることもできた。短い時間だったけれども、ディーゼルの音がまったく聞こえてこなかったことと、車内が広くなっていたことに驚いた。最大乗客数は6名。助手席は荷物スペースだが、乗客スペースは広いので、スーツケースなどと一緒に乗り込むことが一般的だ。
機械として優れているか? ★★★★★ 5.0(★5つが満点)
その、ロンドンタクシーの新型車に、東京で運転することができた。もちろん、客は拾っていないが(笑)。ディーゼルの代わりに、パワートレインに採用されたのは、なんと120kWの電気モーター。ボルボ製の1.5L、3気筒ガソリンエンジンで発電した電気でモーターは動き、後輪を駆動する。31kWhのリチウムイオンバッテリーを搭載した、レンジエクステンダー付きEV(電気自動車)なのだ。600kmという十分な航続距離を持っている。
ディーゼルエンジンから最新のレンジエクステンダーEVに大胆にもモデルチェンジできたのは、以前にロンドンタクシーを製造していたLTI(London Taxi International)社が2013年に中国のジーリー・ホールディングスに買収され、2017年にLEVC(London Electric Vehicle Company)社へと改組されたという経緯を持っている。
同じジーリー・ホールディング傘下のボルボ製エンジンを搭載されているのもうなずける。運転席のメーターやマルチインフォメーションディスプレイメーター、シフトレバーなども現行ボルボ各車と同じ見慣れたものが使われている。EVだから、走り出しのダッシュが力強く、静かで滑らかだ。回生の強さも変えられる。充電のためにエンジンが始動するのが運転してもほとんどわからないし、後席からはまったく感じられなかった。だから、客は静かで快適に過ごせる。
ロンドンを走るタクシーは、最小回転半径が4.0m以下でなければならないという法律が定められており、それがロンドンタクシーの特徴となっていたのだけれども、この新型車にもそれは踏襲されている。全長4855x全幅1874x全高1888m、ホイールベース2985mもある巨体にもかかわらず、最小回転半径はキッチリ4.0m。話題の「HONDA e」より0.3mも小さいのだ。驚異的な小回りの効きの良さを実証した動画を撮影したので、ぜひ、ご覧下さい。
新型ロンドンタクシーの優れている点は、もうひとつある。車内が広く、専用のアルミ製スロープが床下に収まっていて、クルマ椅子の乗り降りがとても行いやすい。また、クルマ椅子に乗る乗客が乗車したら、クルマ椅子ごと固定できるシートベルトが装備されているのも心強い。ここまでドライバーにとっても使いやすいと、利用者も気兼ねなくタクシーに乗ろうと思えてくる。筆者の父親が病気療養中にクルマ椅子に乗っており、タクシーで通院しようとすると、露骨に乗車拒否された嫌な思い出が何度もあった。この新型ロンドンタクシーだったら、どんなに良かったことだろう。
日本での価格が1120万円(消費税込み)。国と東京都の補助金を利用すれば、756万円で購入できるようなのだが、トヨタのジャパン・タクシーと較べてしまうと約3倍。もちろん、最大6人乗車できて、レンジエクステンダー付きEVは航続距離が600kmあって、最小回転半径が4.0mで、と絶対的に有利な点がいくつもあるのだが、同じ土俵で競うには無理があるだろう。
商品として魅力的か? ★★★★★ 5.0(★5つが満点)
「TX the electric taxi」は、日本でタクシーとして使うのにはちょっともったいない。なぜならば、もっと小型で快適性に及ばない他の車種のタクシーと同じ代金しか取れないからだ。これはクルマの問題ではなく、システムや交通行政の問題だろう。タクシーとして使うよりは、ホテルや旅館などの宿泊施設、レストランや結婚式場などのイベント関連施設などが向いているのではないだろうか。上質な乗り心地や余裕ある空間などが、施設の格を上げてくれるはずだ。
さらに向いていると思ったのが、介護施設や病院などの送迎用だ。クルマ椅子の乗せ降ろしも行いやすいし、車内空間が広いのも介助の大きな助けになる。運転席と乗客のためのコンパートメントが空間的に分離され、エアコンも2基それぞれ専用のものが使われるから、コロナ禍での感染の心配もない。やがてコロナが収束したとしても、この車内構造は理想的だ。タクシードライバーとの会話は、時に有力な情報をもたらしてくれたり、時に楽しかったりもする。乗客スペースが分けられていたとしても、高音質マイクとスピーカーが備わっているから、大声を上げる必要もない。
静かで滑らかな走りっぷりと、それがもたらす乗客の快適性の高さは新しい時代のタクシーに最適のものだ。繰り返すけれども、広大な空間とクルマ椅子乗降のしやすさは介護の大きな助けになる。EVモードを選んで走れば、エンジンを一切回転させずにモーターだけで走ることができる。
近い将来、ロンドン市内はエンジン車の進入禁止措置が取られることを見越して先手を打った設計だと思うが、同じことは日本でも想定できる。それでなくても、幹線道路から住宅地に入ったり、学校や病院、駅などに近づく時には、ドライバーがEVモードを選んで走ることができる。人と環境に優しく、共存できるタクシー(公共的な乗り合い自動車)として必須の資質を備えた先進性も持っている。
ただ、どうしても、このクルマが活躍し、歓迎されるのは、残念ながら現在の日本ではタクシーとしてではないと思えてしまって仕方がない。タクシーだったら最高だけれども、採算は取れないだろうから普及も難しい。普及しなかったら意味がない。きっと僕の想像以外にも優れた使い途があるはずだろうから、それがひとつでも多く見つかり、さまざまな場面で使われて、ひとりでも多くの人がこのクルマの恩恵に預かれるようになったら良いと思う。
「TX the electric taxi」は確かに素晴らしい。でも、その素晴らしさを日本で活かすためにはどうしたら良いか? カギはそこを考え抜くことにあるのではないか。
■関連情報
https://levc.jp
文/金子浩久(モータージャーナリスト)
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