新車の場合はメディア向けに「広報車」という便利なものが用意されているが、中古車にそれはない。中古車というのは基本的にいつだって商品車つまり売り物であるため、「貸してください」と言って簡単に貸してくれるものでもないのだ。
「ヨイショ」なしの中古車試乗レポート
クルマ業界も例外なしの「ネット普及」の光と影。ネット上の誹謗中傷に圧倒的に役立つ「バカモノの法則」
だが今回、カレントライフ編集部ならびにガレージカレントのご厚意により、月に2回ほど「中古車の試乗レポート」というまあまあ稀有なものを書かせていただく機会を得た。
で、「……書くにあたってはガレージカレントをヨイショしたほうがいいんですかね?」といちおう尋ねたところ、「ヨイショは必要ない。感じたままを書いてくれればそれでOKだ」との返答。
ならば、ということで流行りの(?)忖度はいっさい抜きでレポートしたいと思う。
だが、この05年式ポルシェ911カレラSカブリオレ(697万円/走行6.6万km)のプチ試乗を終えて思ったのは正直なところ、こうだ。
「ヨイショうんぬんはそもそも関係なかったな。コレ、すっごくいいじゃないか!」
希少な「6MTの」タイプ997カレラSカブリオレ
試乗の前に、まずは個体に関する説明を少々。
車両は先ほど申し上げたとおり2005年式のポルシェ911カレラSカブリオで、世代的にはいわゆる「997」だ。そして997のなかでも前期型にあたる。
車両価格697万円というのは、走行6.6万kmの997としてはほんの少しだけお高いような気もする。だがよく見ればこの個体、997のカブリオレとしては超絶希少な6MTであり、なおかつ3.8LのカレラSでもある。
であるならば、「希少価値」という意味でこのプライスが付くのも十分納得できるというか、むしろ安いといえるのかもしれない。
外装に目立った傷やくすみのようなものは皆無で……というかかなりいい感じのコンディションで、大いに好感が持てる。だが内装は、樹脂パーツ部分に細かなスリ傷がそこそこ入っているのが残念なところだ。
だがまあ6.6万kmを普通に使っていれば「こんなもん」だとも言える。
こういうちょっとしたヤレすらも許せないなら、697万円ではなく1000万円ほどを出して超絶バリ物の中古車を買うか、もしくは新車を買えば良いだけの話。言ってはなんだが世の中はカネ次第である。
そして個人的には「ま、697万円ならこのくらいはぜんぜんアリだな」と感じた。ちなみにレザー部分のコンディションは十分良好だ。
この足回り……いいやんけ!
では、そのへんをテキトーにぶっ飛ばしてみよう。や、ぶっ飛ばすだけでなく、当然だがごく普通にも走ってみよう。
……いいやんけ。
まるでガレージカレントに「忖度」してるように聞こえるかもしれないが、悪いけど忖度はゼロだ。言ってはなんだが、わたしは仮にこの仕事を失っても(もちろん残念ではあるが)痛くもかゆくもない身である。
そのうえで言っている。「……いいやんけ」と。
足回りからは妙な異音や違和感のようなものはいっさい発生しておらず、いかにも911らしいビシッとした直進安定性を、いつ何時もドライバーに提供してくれる。
で、そこからギュッと曲がったりズバッとレーンチェンジをしてみたりしても、そこにあるのは「あぁ、これぞ911だよな!」という、あの軽快にして重厚な、なんとも不思議なフィールのみである。素晴らしいじゃないか。
ASSY交換されたエンジンは、さらにいいやんけ!
そしてさらに素晴らしいのがエンジンだ。……ていうかコレ、ちょっと調子良すぎじゃありませんか? 下から上まで思いっきりスムーズだし、それでいてものすごいパンチ力も発揮してるし……。
ということで整備履歴をちょいと調べてみると、なるほど、納得した。2005年式であるこの個体は2011年7月、走行3.4万kmの時点でポルシェセンターにてエンジン全体を新品に交換している。
いわゆるインターミディエイトシャフト問題に関連する「サービスキャンペーン」でASSY交換を行ったのだろう。であるならば、走行6.6万kmのカレラSカブリオレではあるが、エンジン的には「走行3.2万km」だ。絶好調なのもむべなるかなである。
そして整備記録によればこの個体、それ以外でも1~2年に一度のペースで確実にポルシェセンター(ポルシェ正規販売店)に入庫しており、そこでさまざまな部品交換が的確に行われている。
なるほど……。ちゃんと整備されてきたポルシェ911というのは多少年式が古くなっても、多少距離が延びても、やはりビシッとし続けているものなんだよなぁと、あらためて感銘を受けたというか、あらためて学んだ筆者であった。
この価格でこのコンディションなら十分以上の納得感あり
結論としてこの個体、「おすすめ」と言えるだろう。それも「かなりおすすめ」というレベル感で。
前述のとおりインテリアの樹脂パーツに入っている小キズが気にならないと言えば嘘になる。だがそこは価格とのトレードオフとして、そしてその価格の割にはかなり絶好調なエンジンや足回りとのトレードオフとして、個人的にはぜんぜん納得できる。
ただ、根本的な話として「そもそもカブリオレにMTは必要なのか?」という疑問はあるかもしれない。
筆者も、試乗前はそこに若干の疑問を抱いていた。だが乗ってみて思ったのは「やっぱカブリオレでもMTのほうがいいな」ということだった。
いかにもカブリオレっぽくのんびり走りたいときは、MT車であっても4速あたりに入れっぱなしのズボラ運転をすれば、ティプトロとほとんど同じような楽ちん運転もできる。トルクが極太なので、わざわざ小まめにシフトチェンジしないでも十分イケてしまうのだ。
そしてそういったズボラ楽ちん運転に飽きたならば、走行中に「特に意味もなく」6MTをシフトダウンしたり、シフトアップさせればいい。
やっぱ、それって楽しいですよ。そしてかなり気持ちいいですよ。
だって、それは「ポルシェ911のMT」なんですから。
取材協力:ガレージカレント
車両URL:https://www.garagecurrent.com/car/62046/
[ライター/伊達軍曹]
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