今だから笑って話せるバブル絶頂期のヤバい輸入車とそのエピソード
オートメッセウェブ編集部から「編集長時代に失敗したクルマについて書いて下さい」との相談があり、今回は当時を思い出しながら、これまでに所有した愛車たちを振り返ってみようと思う。ボクの経歴は外車情報誌から始まり、中古輸入車雑誌、アメ車専門誌、女性ブランド雑誌、眼鏡専門誌、時計専門誌などの編集長を経て、現在はフリーライターとして気ままな生活を送っている。そのなかでも自動車雑誌に関わっていた時代が一番長く、身銭を切って30台を越えるクルマを乗り継いできた。その結果、現在の貯金額はゼロという自堕落な人生を余儀なくされている。「後悔先に立たず」がボクの座右の銘でもある。
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ほかのFF車を褒めることが苦痛になった「VWゴルフII」の完成度とヤナセの功績
まず、最初に買って失敗したな……と思ったクルマが「ドイツが誇る最強の大衆車」として知られるVWゴルフ。VWゴルフIを2台、VWゴルフIIを5台(CI、GTI、GTI-16V、CI、シンクロ)を乗り継いだボクが「失敗」というのは、良い意味での失敗でもある。
このクルマは現在のFF2ボックスモデルの礎となったクルマであり、RRレイアウトのVWタイプI(ビートル)から脱却するためにVWが世に放ったエポックメイキングなモデルだ。とくに1984年から販売が開始されたVWゴルフIIと呼ばれるモデルは傑作中の傑作であり、このクルマに乗ったがために、自分のなかでの価値観が上がってしまったことでほかのFF2ボックスに乗れなくなってしまったのである。
当時のライバルであったフィアット、ルノー、国産FFモデルと比較しても完成度は高く、輸入車雑誌の編集長としては記事のなかで完成度の低いほかのクルマを褒めることが嫌で仕方なかったのも、今だからいえる当時の記憶だ。
1980年代の中頃から1990年代の初頭にかけて勢力を誇ったVWゴルフIIだが、当時は「質実剛健」や「ドイツの自動車哲学の具現化」などと比喩され安全で壊れないクルマとして人気を博した。しかし、その伝説はVWゴルフ自体の性能だけでなく正規輸入元である『ヤナセ』の力が大きい。事実、VWゴルフIIはゴム類が弱く、ドライブシャフトのブーツやマフラーハンガーが切れてしまうトラブルを筆頭に、エンジンマウントやウインドウゴムの劣化が激しいクルマであった。だが、迅速かつ丁寧に修理を行ってくれるヤナセの仕事振りがあってこその、「VWは壊れない」という都市伝説が作り上げられたといっても過言ではない。
絶好調な瞬間を一度も見せてくれなかった「ランチア・プリズマ1.6ie」
なぜ、このクルマを選んだのかと自分でも不思議になってしまうのがランチア・プリズマ1.6ieだ。ランチアの血統を受け継ぐFFレイアウトの3ボックスモデルは、名車ランチア・デルタの兄弟車として生まれたモデルだが、このクルマだけは良い思い出がひとつもない。新車で納車された翌日からウォーニングランプが点灯し始め、何度も修理に出しても改善されることはなかった。さらに、東京から宮城県スポーツランドSUGOへと取材に向かう道すがら、東北自動車道で恐怖の体験を強いられたのも悪しき思い出。
雨が降り始めた東北自動車道を走っていると、友人が横に並んでサービスエリアに入れと指示を送ってきた。何事かと思いサービスエリアへとクルマを入れると「お前のクルマの後ろを走ると油膜がすごいんだけど」との大クレーム。とりあえず給油をしていると、下まわりからジャブジャブとガソリンが流れ出していたのである。これが後続車の油膜の原因であり、何とか取材を終えて修理に出して原因を訪ねると「新車を製造するときにドリルの歯がガソリンタンクに穴が開けちゃったみたいですね~」と、担当ディーラーマンが笑顔で回答。その答えを聞いたボクはすぐにランチア・プリズマを手放した。
肌に合わない!?? 時代錯誤の「ポルシェ911カレラ4(964型)」
バブルの全盛期、ポルシェ944 S2を手放して憧れの911カレラ4(964型)へと乗り替えた。FRレイアウトの944は最高に楽しく素晴らしいクルマだったこともあり、911への期待が高まったのはいうまでもない。
納車されたダークブルーの911カレラ4はカッコ良く、ボクは最高の気分を味わった。しかし、取材で乗る数時間、長くて数日の印象とは異なり、日常的に乗ることで見えてくるものがある。それはタイヤが切れないこと……。操角の小さい911は狭い駐車場では切り返しが必要になるほど小回りが効かず、実用にはほど遠いものであった。また、雨の日にワイパーの速度が遅く、激しい雨にはまったくというほど対応することができないのだ。ワイパーゴムが拭き取る面積も狭く、ポルシェあるあるの「雨の日は乗らない」のではなく「雨の日は乗れない」ことに驚愕した。
もちろん、3.6Lの水平対向6気筒エンジンはパワフルで申し分ないのだが、通勤の足として使っていたボクは渋滞の国道で力を持て余す911カレラ4にストレスを感じ始め、遂には手放してしまうことに。当時のレベルとしては「古臭い」というのが正直な印象で、それまで乗っていた944 S2と比べても旧態依然としたクルマだったことに愕然としたのは懐かしい思い出だ。
自宅にガレージを持つ者だけに許される特別な存在「バーキン7」
一時期、ポルシェ944 S2と共に所有していたバーキン7。当初はロータス・スーパー7の亜流として認知されていたが、のちに血筋を争う裁判で勝訴してスーパー7の血縁としてニアセブンから事実上のセブンとして昇格を果たしたのである。このクルマはサイクルフェンダー、サイドマフラー、脱着式のハンドルなど細部までカスタムしたお気に入りの一台だったのだが、前項でも語ったように、湯水の如くクルマにお金を使ったボクは一戸建ての夢など叶うはずもなく、ガレージ探しに奔走する。
買う前に探しておけよ……というご意見はごもっともだが、当時のボクは猪突猛進であった。何とか、知り合いの梨農家さんの倉庫を借り受けて無事に維持することができたのだが、倉庫が自宅から離れていたこともあり次第に乗る機会も少なくなってしまう。そして数年後には道路の拡張とともに倉庫が取り壊されることとなり、泣く泣く愛車を手放すことに。
小さなスクリーンから巻き込む風を浴び、サイドマフラーの爆音に耳を刺激されるバーキン7。「タバコを地面で消せる」という現在では怒られそうな比喩を持つ、路面スレスレの緊迫感は他のクルマでは体験できない世界観。今でも手放したことを後悔している数少ないクルマではあるが、やはり自宅にガレージを持てない人には厳しいクルマであることは間違いない。
悪徳業者の手で日本に持ち込まれた並行中古輸入車の「ジープ・チェロキー」
中古輸入車雑誌のお付き合いとして手に入れたジープ・チェロキー。XJと呼ばれる2世代目モデルは、後期型になるとホンダが日本仕様として手掛けることで、完成度を増したことでも知られる名車だ。しかし、ボクが手に入れたのは「中古並行」と呼ばれるモデルで、当時はメーターの巻き戻し(走行距離の改ざん)、補修の粗悪さなどで知られる恐怖の選択であった。当時の中古並行を取り扱う業者には「グレー」または完全な「黒」の店も多く、ボクが引き当てたチェロキーもその一台であった。
メーター上の走行距離は3万km台であったにも関わらず、下まわりを覗きこんでみると後付けのヒッチメンバーの裏にはカナダやアメリカの離れた土地のスッテカーが数多く貼ってあり、どう考えても3万kmの走行距離ではなかったのは明白。さらには内装のカーペットをめくってみるとシートの取り付けステーがボロボロに腐食しており、もしかして水没車……との想像を掻き立てる代物であった。
ジープならではの堅牢さで日常使いには問題はなかったものの、5万kmを目前としたある日、東京・上野の裏道でトランスミッションが「バッキン、ゴッキン」という異音を立てて立ち往生。そのままレッカー車にドナドナされて廃車になってしまったのである。現在は並行輸入、中古車並行でも安心できるようになったが、1980~1990年代の輸入車バブルの時代には悪徳業者も多く、泣きを見た人も少なくなかったようだ。
【まとめ】クルマに傾倒していなければ違った人生を歩んでいたかも?
22歳で自動車雑誌の編集者になったボクは、これまでに数千台のクルマを試乗したと思う。新車の広報車を展示場から動かした瞬間にエンジンがバラバラになり動かなくなったこと、首都高速のブラインドコーナーでエンジンが止まってしまったなどのトラブルは数知れず。当時は困ったときの「JAF」のメンバーに2口も加入していたほどだ。
バブル期の終わりには知り合いの業者から「このフェラーリF40を2億円で売ってくれない? 2億で売れたら1億あげるから」と言われたこともある。会社からのサポートを受けず、自分で企画を立てた長期レポート車両として次々にクルマを買い替え、楽しい思い、辛い思いを山ほど経験してきたが、その思い出はボクの人生にとって大きな財産になっている。しかし、給料のすべてをクルマに注ぎ込まなければ今ごろは贅沢な一戸建てで楽しい暮らしを送っていたのかも……という後悔も無いワケでもない(笑)
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