ロールス・ロイスに挑んだキャデラック
「強盗に入るなら、スーパーマーケットではなく銀行でしょう。だから自分はロールス・ロイスを狙うんです」。1975年12月、アメリカのゼネラルモーターズ(GM)でデザイン部門を率いていたビル・ミッチェル氏がAUTOCARに残した言葉だ。
【画像】ロールス・ロイス・シルバーシャドー キャデラック・セビル ジャガーXJ12 現行モデルも 全89枚
少々露骨な発言だったものの、強い意思表明でもあった。アメリカのトップブランド、キャデラックは、それまで欧州市場で充分な評価を得られていなかった。
「これまでは過剰だったと思います。沢山の鉄板を使い、ドアは分厚く、オーバーハングは長すぎました。しかし、現在はだいぶ良い仕事をしていますよ」。ミッチェルが続けた。
そんな彼が描き出した新生キャデラックが、4ドアサルーンのセビルだった。世界最高のクルマという頂点の座に君臨するロールス・ロイスへ挑むため、英国にも正式に導入されることが決まった。
伸びやかで優雅なボディラインが与えられたセビルには、ロールス・ロイスとは性格の異なる気品が漂っていた。サイズは新しいシルバーシャドーに接近し、全長は15mmほどしか違わなかった。
長大なボンネットの下に搭載されたのは、5.7L V型8気筒のスモールブロック。充分な競争力が備わっていると、GMの上層部は考えていた。
233psと41.4kg-mを発揮した6.8L V8
ロンドン西部に拠点を構える正規ディーラーのレンドラム&ハートマン(L&H)社は、英国の需要を満たす台数として1977年に150台を輸入。港へ降ろされると、ライト類の変更や右ハンドルへの改造などに60時間が費やされたという。
ショールームに並んだセビルの価格は、1万4888ポンド。オーダーから3ヶ月以内での納車を実現していた。ライバルとしたシルバーシャドーより1万ポンドも安く、納期は1年以上も短かった。
とはいえ、ロールス・ロイスを古くから指名買いしていたユーザーが、強い関心を示すことはなかった。古き良き英国のオーダーメイド品質が、そこにはあった。
1965年に発売されたシルバーシャドーのスタイリングを手掛けたのは、デザイナーのジョン・ブラッチリー氏。カーブを描くボディラインは、上品ながら堂々とした気高さを漂わせた。
年間4万台のペースで量産されるセビルとは別の水準で、個々の細かな要望にも応えていた。1976年にマイナーチェンジ版のシルバーシャドーIIが発表されるが、独自性はシリーズIと変わらなかった。
オールアルミ製でプッシュロッド式のL410型と呼ばれる、6750cc V型8気筒エンジンはキャリーオーバー。GM由来のハイドラマティック3速ATも変わらずに登用された。
ロールス・ロイスは具体的に数字を公表することはなかったものの、後の計測によれば最高出力は233ps、最大トルクは41.4kg-mを発揮。デュアル・エグゾーストと大きな2基のSUキャブレターが、不足ない動力性能へ結びつけていた。
シボレー・カプリスのプラットフォーム
シャシーはモノコック構造の前後に、サブフレームを結合。リアサスペンションはコイルスプリングにトレーリングアームという組み合わせで、セルフレベリング機構も装備していた。
またシリーズIIではステアリングラックがラック&ピニオン式へ改められ、フロント・サスペンションも改良。操縦性はシリーズIから大幅に向上していた。
一方のキャデラックは、シボレー・カプリスのプラットフォームがベース。剛性を高めるため追加溶接などの変更は受けていたが、基本的には1970年代のアメリカ車の延長上にあることは否定できなかった。
リアサスペンションはリジットアクスルにリーフスプリング。セルフレベリング機構は取り入れられていたが、ロールス・ロイスの洗練性には及ばない。
エンジンはシルバーシャドーと同じプッシュロッド式のV8ながら、排気量は5735ccと1L以上の差があった。燃料インジェクションと電子制御の点火システムを採用するものの、アメリカの厳しい排気ガス規制の影響でパワーも伸び悩んだ。
4400rpmで引き出せた最高出力は180ps。最大トルクは37.9kg-m/2000rpmと悪くはない。
さて、1977年に世界最高のクルマの座を狙ったのは、キャデラックだけではない。ふかふかのカーペットやしっとりしたレザーの内装だけでなく、意欲的な走りと乗り心地でユーザーを満たす必要もあった。ジャガーXJ12も、ここへ加えるべき1台といえる。
289psの最高出力は3台で1番大きい
シルバーシャドーと同様に、ジャガーXJ12の登場は古い。シリーズ1の発売は1968年にさかのぼる。1973年にシリーズ2へ交代。主にロングホイールベース版が選ばれ、1979年まで生産されている。
XJ12の魅力的な走りを生んだのが、ラバーマウントされたサブフレーム。リア側ではロワー・ウイッシュボーンを支え、ドライブシャフトがアッパー側のリンクを兼ねるという、知的な設計が施されている。
デフ側にディスクをレイアウトする、インボード・ブレーキ構造をリアに採用。バネ下重量を軽減させていたのも特徴だ。
エンジンは5344ccのV型12気筒。ウォルター・ハッサン氏とハリー・マンディ氏が開発したアルミ製ブロックにSOHCヘッドが載ったユニットは、1972年からXJシリーズへ登用された。
燃料インジェクション化され、最高出力は289ps/5750rpmと3台で1番大きい。最大トルクも40.5kg-mとシルバーシャドーへ迫る。トランスミッションは、先出の2台と同じGMの3速オートマティックが組まれた。
シャシー構成や動力性能には、それぞれ小さくない違いがある。インテリアの設えも重要だ。だが、スタイリングの存在感が選択を大きく左右したはず。
スティーブン・ブリッジス氏が所有する、1977年式ロールス・ロイス・シルバーシャドーIIへ近づくと、その点での圧倒的な強さは伝わってこない。神々しいウィロー・ゴールドのカラーでも。
3台を並べるとボディサイズは1番大きい。全高は1517mmあり、1389mmのセビルや1371mmのXJ12と比べると、威圧的なボリューム感はあるのだが。
この続きは後編にて。
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