「上手いドライバーになるには」、、。
岡崎宏司の「クルマ備忘録」連載 第253回
「お前、運転上手いな!」とか、「あなたの運転なら安心していられるわ!」とか言われたら、誰もがうれしいだろう。
「運転が上手い」と言われるのは、いわば「男の勲章」をもらったようなもの。誰もがそう言われたいと思っているに違いない。
僕が運転免許証を手にしたのは1956年。69年前のことだが、当時はまだ、女性で運転免許証を持っている人はごく限られていた。
僕は青山学院高等部だったので、男性より女性の方が多かったし、運転免許証をとる女性も多かった。やっぱり「青学って違うな!」とワクワクした気持ちになったものだ。
でも、、しばらく経って気づいたのだが、免許を取る女性は多かったが、実際に運転する女性は少なかった。多くがクルマを買える家庭環境なのに、、。
で、何人かの親しい女性に聞いてみたのだが、、もっとも腑に落ちたのは、「免許は取らせても、運転は危ないからやめなさいという親が大半なのよ」という答えだった。
「多くの女性にとって、運転免許は嫁入り道具の一つね」という答えも、当時は「なるほど!」と思えた。
すでに知っての通り、僕の家内は青山学院の同級生。16歳で免許を取っている。そして、免許を取ったその日から運転している。
クルマ好き、運転好きの家内の兄(9歳年上)の存在が、そうなったいちばんの理由だろうが、親はさぞかし心配したことだろう。
僕が家内と出会ったのは19歳、、大学に入った時だが、その時はもう、彼女の運転歴は3年だったことになる。しかも、毎日のように運転していたのだから、、上手かった。
クルマが好きで運転の上手い女性との巡り会いは、僕の人生にも大きな影響をもたらした。当時は、海のものとも山のものともつかなかった自動車ジャーナリストという職業。それを抵抗無く選ぶことができたのも、家内の理解があったからだ。
大学に入ると自然にバイクから遠ざかり、クルマに接近していった。そして、家内と付き合い始めて、それはさらに加速した。
バイクに乗っている時も、「上手くなりたい」「カッコよく運転したい」「速くなりたい」とはいつも思い続けてきたが、、クルマに乗ると、その思いはさらに強くなった。
「上手くなれるよう」、いつも意識して走った。頻繁な箱根通いの目的もそこにあった。だが、日常的に街中を走る時でも、小さな四つ角を曲がる時でも、きれいに、丁寧に、無駄なく走ることを常に意識していた。
こうした走りを意識するようになったのは、ジムカーナやヒルクライムなどで上位を占める選手たちの走りに注目していたからだ。
もっとも注目していたのはなにかというと、上記した「丁寧さと無駄のなさ」。「根性でアクセルを踏む」のではなく、「無駄なくロスなくアクセルを踏むこと」だった。
ステアリング操作やブレーキングもまた、同様な意識で取り組んだ。
これは、頭の中では気づいていても、いざ本番となるとなかなか実行できない。僕も若い時はそうだった。頭では理解していても、いざ本番となると頭に血が上り、気ばかり急いて荒い運転になってしまっていた。
それにモロに気づかされたのが、ヒルクライムで同じクルマに乗った家内に負けた時。「家内に負けるなんてあり得ない」はずなのに完全に負けた。
この「大事件!?」については前にも書いたが、ショックは大きかった。まさに屈辱の出来事だった。
その時、僕の仲間(2歳後輩)からキツイひと言が。「岡崎さんは踏み過ぎなんですよ。それに、ハンドル操作も、ブレーキの踏み方も荒い。これじゃあ、崖から落っこちそうになるまで頑張ったって永遠に勝てないですよ」と言われたのだ。
ちなみに、その仲間とは、後にトヨタワークスのエースにまで上り詰めた河合稔だった。
そう言われた時は、頭に血が昇っていたし、「なんだこの野郎!」と思った。しかし、気が静まるにつれて、「そうだよな確かに!」と思えるようになった。
そして、午後の第二ヒートでは、「落ち着いて、丁寧に、ロスなく、、」と言い聞かせながら走った。「もっとガンガン踏めよ!」と言ってくる自分の本性と闘うのは大変だったが、なんとかゴールまで持ち堪えた。
その結果、家内には大差をつけて勝った。全体でもたしか、5位くらいの上位に入った。
この日の出来事を境に、僕の運転はガラリと変わった。初めはなんとなく物足りない感覚が付き纏ったが、それを我慢して、「落ち着いて、丁寧に、ロスなく、、」と言い聞かせながら走った。
「怖さを克服」することも運転の上達には欠かせない条件の一つだが、無理をしても、無茶をしても、、ということではない。
無理無茶は、恐怖感と言う精神的プレッシャーで肉体を金縛りにしてしまう。だから、無駄な危険を招くことになるし、逃れられる危険から逃れられなくなってもしまう。
とくに、「コーナーへのアプローチは余裕を持って丁寧に」は絶対に守っている。そうすれば精神的余裕もでるし、クルマの挙動も安定する。
こうした基本を守りつつ、ときにチャレンジングなトライをも交えながら、僕は少しづつ限界領域を引き上げていった。
そして、多くのメーカーの車輌開発の評価を依頼されるまでになった。日本のメーカーだけでなく、欧州や北米のメーカーからも依頼はきた。楽しくも誇らしい仕事だった。
過酷でリスキーな内容のテストも少なからずあり、当然、クラッシュを避けられないこともあった。だが、いずれも車輌のトラブルに起因したもので、僕のミスによるクラッシュを起こしたことはない。
「上手い運転」とは「経験」という要素とも切り離せない。、、だが、だからと言って、「長く運転しているから運転が上手い」とは限らない。
何事にも当てはまるが、ただ漫然と取り組んで来た人と、目標をもち、目標に向かって真剣に考え取り組んできた人とでは、当然、答えも結果も違うものになる。
短時間で多種多様な、かつ奥行きの深い運転経験を身に付ける人もいる。その代表例をピックアップすれば、モータースポーツに取り組んでいるドライバーが挙げられる。
日常領域ではまず体験出来ない限界領域のクルマの激しくトリッキーな挙動を、恐怖と共にいろいろな形で繰り返し体験させられる。
そして、それまで「オレは運転が上手い」と思っていた人も、高速領域 / 限界領域に入ったとたん、自分の運転技術の未熟さを嫌と言うほど思い知らされる。クルマがいかに自由にならないものかを思いしらされる。
まずは、そうした基本的なことに気づき、「運転の奥の深さを知る」ようになることが第1ステップになる。
そのうえで、「上手くなりたい」という気持ちを強く持ち続ければ、必ず上手くなる。
また、自分の運転が上手くなるだけでなく、周囲への注意深い目配り、心配りを心がけることも大切なことだ。上手い運転には「周囲との調和」という要素が絶対に欠かせない。
上手い運転とは、クルマの操作が上手いことだけではない。自分が置かれている、道路環境、交通環境、天候、、等々、幅広い目配り心配りを欠かさないことが必要だ。
こうした多様な意識を持っての運転は、初めはキツイことかもしれない。うっかりすると気を散らせるといったマイナスをもたらすことにもなりかねない。
なので、そうした意識は持ちながらも、肩から力を抜き、気持ちをリラックスさせることが大切だ。「ここを通り抜けたら、オレは必ず上手くなれる」と言い聞かせながら、関門を通過してほしい。
僕は、F1を中心に、レースの映像をよく見るが、トップを争うようなドライバーの運転は、みんな「スムースで丁寧」。無駄な動きが無い。映像では、ハンドル操作にいちばんそれが表れる。
まぁ、レースに勝てるようなドライバーには、他に勝る多くの優れた素養も必要だろう。だが、われわれ一般のドライバーは、上記のような意識をもち、実行すれば、きっと「上手いドライバーになれる」。僕はそう信じている。
● 岡崎宏司 / 自動車ジャーナリスト
1940年生まれ。本名は「ひろし」だが、ペンネームは「こうじ」と読む。青山学院大学を経て、日本大学芸術学部放送学科卒業。放送作家を志すも好きな自動車から離れられず自動車ジャーナリストに。メーカーの車両開発やデザイン等のアドバイザー、省庁の各種委員を歴任。自動車ジャーナリストの岡崎五朗氏は長男。
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