コロナで「戦場」に行けない代わりにニーヴァを購入?
横田徹さんは独学でカメラを学び、1997年、26歳の時はじめてカンボジア内戦を取材した。以来、東ティモール、コソボ、アフガニスタン、イラク、シリアなどに足を運んできた。そんな横田さんの愛車は日本でも人気が高いロシア車『ラーダ・ニーヴァ』である。どのような出会いだったのか?
【画像】懐かしいカタログも ラーダ・ニーヴァの画像はこちら 全29枚
「コロナで渡航規制が敷かれ、海外に行けなくなって仕事もなくなって……、戦場カメラマンという仕事も終わりだなと。精神的につらい時期でもあったので、ひたすら趣味である狩猟にのめりこんでいました。そのころに出会ったのがラーダ・ニーヴァです。とにかく保管状態が非常によく、走行距離も1万km。それまで乗っていたBMW(E30)を結構いい値段で買い取ってもらえたので、少し足して250万円でニーヴァを買いました」
ニーヴァとの出会いは、ロシアがウクライナを侵攻する約1年前となる2021年の春。横浜市都筑区にある中古車店だった。
「狩猟をやるのにもちょうどいい大きさと使い勝手で、荷物も見た目以上に積めます。林道だと大きなクルマでは入れませんが、ニーヴァのサイズならちょうどいいんですよ。もちろん悪路走破性も素晴らしく、特に雪道は世界最強? というくらい走ってくれます。ロシアという寒い国のクルマですからね」
気に入っている部分はとても多いようだが、もっとも好きなのは運転席から見た風景だという。
「今のクルマでは味わえない、この安っぽい(笑)、古い感じが好きなんですよ。自分が免許を取ってクルマに乗り始めた頃の懐かしい景色が、ニーヴァに乗るとよみがえってきます。乗り込んだら大きなタブレットがまず目に入ってくるようなクルマは好きになれないですね(笑)」
カメラ歴よりクルマ歴のほうが長い?
ウクライナ軍に同行し最前線で撮影をし、世界に発信し続ける横田氏は、日本を代表、いや、世界でも指折りの戦場カメラマンである。最初に戦場(カンボジア)にいったのは26歳の時だった。しかし、「カメラ歴よりクルマ歴のほうが長いんですよ」と、横田氏は穏やかにほほ笑む。
そんな横田氏が高校生で免許を取って最初に乗ったクルマは、実家にある父親のトヨタ・ランドクルーザー60だった。
「父が新車から乗っている、自動車電話もついた(笑)ランクル60で運転の練習をしました。小さな交差点をふさいでしまったり、何かと扱いが難しいクルマでしたね。でもとても楽しくて、高校にもこっそりランクルに乗って行ってみたり」
「自分のクルマとして乗り始めたのは、アメリカにいた21歳のとき。この時期、語学学校に通ったり、バイトしたりで1年くらいアメリカに住んでいました。現地の友人が『乗ってていいよ!』と言ってくれて、乗っていたのがダットサン510です。
太いドライタイヤを履いて、強化クラッチも入っていて、クルマってこんなに運転するのが大変なのか! って思いましたね。そのあと、買ったのが60年代のマスタングです。確か3000ドル(当時のレートで約30~40万円)くらいでした。今ではとてもそんな値段では買えないでしょうね」
その後、バンコクに5年住んでいた時にはクルマは所有せず、帰国した2004年からはBMW318→スズキ・ジムニー(JA11)→BMW320(E30)と乗り継ぎ、ニーヴァにたどり着いた。加えて今年春には、家族との移動用、長距離移動用に、昔から好きだったトヨタ・スプリンター・カリブ(1990年式)も購入している。
「カリブが現役の90年代には感じられなかったのですが、今見たらあのスタイルがすっごくカッコいい! って思えます。長距離も快適です」
パーツの入手が困難。世界中から探してもらう
横田さんがニーヴァを購入しておよそ1年経った2022年2月下旬、ロシアのウクライナ侵攻が突如として始まった。西側諸国から様々な経済制裁を受けているロシアでは、個人間の郵便物などは行き来できるものの、自動車のパーツなど、メーカーが製造した工業製品を日本に輸出することは固く禁止されている。
この状況はロシア車であるラーダ・ニーヴァのパーツの入手にも大きく影響した。
「購入した頃は侵攻前だったので、パーツもロシアから直ですぐに買えましたね。それがだんだんと時間が掛かる様になり、今は入手するのも大変です。ニーヴァは海外でも人気があり、西側諸国で乗っている人も多数存在します。カザフスタンやエストニアにも部品があるようなので、世界中で探してもらっています。
僕のニーヴァは品質が良いとされるドイツ仕様で、かつてはドイツに部品もありました。でも、今はもうなくなりましたね。世界中探してそれでもないから、樹脂部品なら友人に3Dプリンターで作ってもらったりしています」
『3Dプリンターで樹脂部品』というきっかけは、小さな事件だった。横田さんが国道246号線をニーヴァで走行中、アンテナを留める樹脂部品が飛んで行ってしまったのだ。そのパーツがなくなるとアンテナが倒れてしまう。新たに入手するのも大変だ。
「ダメ元でクルマを降りて探しに行ったんですが、なんと! センターラインのところに飛んで行ったパーツが置いてあったんですよ。即座に拾って、もう一度取り付けました。その話を友達にしたら『最高の3Dプリンターを持ってるから作ってあげるよ!』と言って、最高品質の樹脂とプリンターで、最高のパーツを作ってくれました(笑)」
壊れやすいというイメージがあるニーヴァ。実際のトラブルはどう?
ロシアから直接中古車として輸出された車両は、トラブル続出で苦労しているオーナーも多い。横田さんのニーヴァはドイツ仕様で、ガソリンはハイオク指定。品質はかなり良いそうだ。
「僕のニーヴァはすごい優等生ですよ。3年間で3万km走りましたが、そこまで大きなトラブルがないのは珍しいです。ドイツから日本に来たのは2014年ですが、前のオーナーが屋内保管していて距離も少なく、とてもきれいな状態でした。だから多少高かったのですが、その分壊れないし、きれいだし、とても満足しています。お金を出しても入手できないパーツが増える中、最初は多少高めでも、安く買って苦労するよりいいですよね」
横田さんは日頃、どんなことに気を付けてニーヴァを運転しているのだろうか? これからオーナーになりたい人にも参考になる話を伺った。
「寒い国で作られたクルマなので、夏は基本的に乗らないようにしています。真夏の渋滞する高速道路なんて絶対乗ったらだめですね。オーバーヒート必至です。エアコンなんてつけたら、バッテリーが不調になります。
日本の夏は異常ですから、夏場は無理させたらダメですね。
その分、冬はめちゃくちゃ調子いいですよ! 暖房も凄まじく良く効きますし。ウクライナに行ったときも、マイナス40度という極寒の地でも、ニーヴァをはじめとしたロシア車が元気に力強く走り回っていて、これはすごいな、と。日本で除雪してない山に行きましたが、何の問題もなく、岩ゴロゴロの道なき道も平気で走って行きます。車重が軽いというのもあるんでしょうけど、期待通りの悪路走破性を発揮してくれます。夏の暑さにだけは気を付けてあげましょう」
様々な『出会い』を生み出すニーヴァの魅力
優れた悪路走破性を持ちながら、狩猟や野営の荷物がしっかり積めるなど実用性も十分なニーヴァだが、横田さんいわくもうひとつ、ニーヴァには大きな魅力があるという。
「最初にウクライナに行ったのが2022年5月でしたが、ニーヴァもウクライナ側の戦闘車両として走っていたのが印象的でした。ウクライナの人々に日本でニーヴァに乗っていることを話したら、凄く驚かれましたね。『なんで日本に住んでいるのに、ニーヴァなんて乗ってるんだ!?』って。
でもそれがきっかけで話が盛り上がって、現地の方々と仲良くなれました。コミュニケーションの道具としてニーヴァが盛り上げてくれた感じです。ニーヴァはウクライナでもとても人気があります。
日本でも同じで、キャンプ場などに行くと必ず声を掛けられますね。以前、キャンプに来ていたロシア人の男の子は僕のニーヴァに大興奮で、『エンジンルームの中も見せて!』って。その子は日本で生まれているのでニーヴァをしっかり見るのは初めてとのことで、すごく喜んでくれました。
スクーターで追いかけてきたロシア人もいましたよ。『ニーヴァ、ニーヴァ!』って嬉しそうに。ロシアの人達にとってもニーヴァはすごく愛されているし、誇りなのでしょうね」
もちろん海外のみならず、ニーヴァは日本でも、かなりこだわりの強いクルマ好きな人達から興味を示されることが多いという。
実は今回、筆者が横田さんを取材させて頂いた経緯も、筆者の知人が横田さんのニーヴァをたまたま見かけて声をかけたことに始まる。そしてその知人、実は1980年代に大手商社でラーダ・ニーヴァの日本初輸入に最前線で尽力した担当者なのだ。ニーヴァとは20年近い付き合いがあった知人は、横田さんが戦場カメラマンの横田徹氏であることに最初は気づかなかったそうだが、きれいなニーヴァに思わず声をかけたそうだ。
たくさんの貴重な出会いをもたらしてくれている横田さんのニーヴァ。1日も早く、ロシアとウクライナに平和が訪れ、ロシアから普通にニーヴァの部品が輸出される日が訪れることを祈るばかりである。
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みんなのコメント
それとロシアの機械ものでいえば私もロシア製の腕時計何本か持ってるけど…
よくいえばどれも個性的、悪くいえば歩留まりって何?感のある個体差。
精度はもちろん夜の十二時近く日付表示の変わるタイミングとかみんな違う。
あるものは23:40頃、あるものは2:50…
信頼度でいえばやっぱり日本製を着けて出るね。