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創業者が堪能した試作ボディ オースチン・ヒーレー100S クーペ 2660ccの4気筒 前編

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創業者が堪能した試作ボディ オースチン・ヒーレー100S クーペ 2660ccの4気筒 前編

腕利きドライバーだったドナルド・ヒーレー

グレートブリテン島の南西にある、海に面したペランポース。ドナルド・ヒーレー氏が生まれた小さな町だ。中部のワーウィックに自身のスポーツカー・ブランドを立ち上げてからも、定期的に里帰りしていたという。

【画像】ワンオフの試作ボディ オースチン・ヒーレー100S クーペ 同時期の英製スポーツと比較 全94枚

コッツウォルズを抜けウィルトシャーへ進み、小さなエセクターという町を過ぎれば、今も変わらず見事な景観とともに佇んでいる。約400kmという道のりの相棒になったのは、オースチン・ヒーレー100Sの貴重なクーペだった。

1931年のラリー・モンテカルロで優勝するなど、腕利きドライバーだったドナルドにとっても素晴らしいルートだったのだろう。「100S クーペの走りを楽しめるので、好んで長距離移動をしていました」。孫のピーター・ヒーレー氏が回想する。

「当時は最高速度の制限が緩く交通量も少なかったですから、かなり短い時間で到着していたようです。高速道路が敷設される前でしたが、今以上に長い時間は掛かっていなかったでしょう」

今回ご紹介する真っ赤な100S クーペは、まさに彼がステアリングホイールを握っていたクルマそのもの。カーデザイナーのジェリー・コーカー氏が考案し、試作された2種類のクーペボディをまとう1台でもある。

100Sの開発車両として、機械的なアップグレードの試験にも用いられてきたという。クラシックカーとして、重要な歴史が詰まっている。

ロードスターをクーペにコンバージョン

シャシー番号142615の100Sは、1953年8月に完成。ロードスターのボディに、ジェンセン社のアルミニウム製ハードトップをまとって、当時のヒーレー・モーター社自体へ納車される形が取られた。

ワーウィックの工場では、2660cc 4気筒エンジンのル・マン用アップデート・キットや特別なサスペンション・スプリングなど、いくつかのツーニングを実施。その後、ディック・ガリモア氏が率いるオースチンの開発部門で、ハードトップが加工された。

クーペボディへコンバージョンされた100Sは、12月にONX 113としてナンバーを取得。記録簿には、サルーンと記されているのが今でも確認できる。

もう1台作られたクーペは、1953年の後半に製造されたシャシーをベースとしていたが、コンバージョンされた時期はほぼ同じ。こちらは、OAC 1のナンバーで登録されている。

ヒーレー・モーター社の技術者だったジェフ・ヒーレー氏は、ONX 113に対して次のように言葉を残している。「作られた当初から、ブレーキや追加するモデル開発へ積極的に活用されていました」

100Sの第一人者として知られる、ジョー・ジャリック氏が説明する。「初めからスペシャル・テスト・カー・プログラムの1台だったようです。多くのアップグレードが施されていました」

「技術的な造詣が深いドナルドさんは、実践的に走ってクルマを開発していました。彼とジェフさんとでアイデアやフィードバックのやり取りが繰り返され、モデルへ落とし込まれていたんです」

通常の100Sも生産は50台のみ

1954年にも、4台のスペシャル・テスト・カーが作られた。これらの試作車によって、モータースポーツ前提の量産版100Sの内容が煮詰められ、1954年に発表。1955年までに僅か50台のロードスターが生産されている。

100Sのアルミニウム製ボディとシャシーのユニットは、ジェンセン社がトリムの仕上げまで担当。ワーウィックにあったヒーレーの工場で、職人がメカニズムを組み込んだ。

試作されたクーペボディの100Sでも、ロードスターと同じくダンロップ社のディスク・ブレーキを採用。リアダンパーは調整式のアームストロング社製で、100S用にチューニングされたトランスミッションが搭載されている。

エンジンはスペシャル・テスト・カー仕様。1953年にアメリカ・ボンネビル・ソルトフラッツで最高速度記録にチャレンジしたマシンの、アルミ製シリンダーヘッドも組まれていた。そこではドナルド自身のドライブで、229.5km/hの記録を残している。

100Sの市場の反応は良好で、ヒーレーの工場はロードスターの生産に追われた。ところが、ダンロップだけでなくオースチンからのアップグレード部品の供給も、安定しなかったようだ。

モータースポーツの日程も過密気味だった。小さな開発チームにとっては、とても多忙な時期だったに違いない。

100Sを所有したいと夢見てきた現オーナー

1953年末に完成した100S クーペで、ドナルドはジェフとともにかなりの距離を走行した。自らのスポーツカー・ブランドを立ち上げた彼は、まだ情熱的なドライバーのままだった。

伝説的ドライバーのスターリング・モス氏とともに、100Sクーペでイタリアの公道レース、ミッレ・ミリアの下見もしている。後年にモスがこのクルマと再開すると、当時の記憶がすぐに蘇ったそうだ。

創業者が好んだクーペボディではあったが、試作以上に作られることはなかった。ラインナップの拡大で、協力関係にあったBMC(ブリティッシュ・モーター・コーポレーション)でのプレゼンスを高めようと考えたが、充分な販売は見込めなかった。

ボディの生産を請け負っていたジェンセン社も、余り乗り気ではなかった。膨らむ製造コストが理由だった。

1962年までドナルドはONX 113の100S クーペを走らせ、大排気量の4気筒エンジンを楽しんだが、その後売却。アレクサンダー・ハミルトン氏が購入し、10年後にコレクターのアーサー・カーター氏が譲り受け、現在まで大切に維持してきた。

「これまで何台のオースチン・ヒーレーを所有してきたかわかりません。恐らく14・15台だと思います。最初に買ったのは初期のBN1。1950年代に一目惚れしました」。カーターが笑いながら振り返る。

「いつか100Sを所有したいと、夢見ていました。雑誌で記事を読むたび、思いを強めていたんですよ」

この続きは後編にて。

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みんなのコメント

1件
  • 横から見たスタイルが何となく、ジャガーXK140FHC※のような印象も
    ありますね…
    往年のイギリスのスポーツカーは皆、後ろ姿が素敵です…

    ※FHC:フィクスドヘッドクーペ、固定ルーフのクーペ
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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