お洒落なGTカーに仕上がっていたシムカ・バゲーラ
レーシングカーで具現化されたミッドエンジンの後輪駆動(MR)は、スーパーカーでも必須アイテムとなっていきます。ただし、ある時期まではスーパーカーならMRではなく、MRならスーパーカー、と定義されていたこともあったくらいです。今回紹介するマトラ・シムカ・バゲーラも、スーパーカーとみなされた1台でした。
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ミッドエンジンのパイオニア「ルネ・ボネ・ジェット」の流れをくむバゲーラ
量販車において世界で初めてMRレイアウトを採用したのは1962年にフランスのコンストラクター、オートモビル・ルネ・ボネがリリースしたルネ・ボネ・ジェットとされています。「……とされている」というのは、例えば1950年代に登場していたツェンダップ・ヤヌスのようにスペース効率を追求し、背中合わせとした前後席の間にエンジンを搭載したモデルもあり、これもレイアウト的にはMRと判断できるからです。
ただし、レーシングカーで具現化されスーパーカーの多くに採用されたMRとヤヌスのようにスペース効率を追求して生みだされたMRでは、当然ながらその意味合いも大きく違ってきています。そこで前者のMRで最初の量販モデルはルネ・ボネ・ジェット、ということになるのです。
そもそもルネ・ボネ・ジェットは、友人のシャルル・ドゥーチェと共同でレーシングカー・コンストラクターのDBを運営していたルネ・ボネが、友人と袂を分かって1962年に設立したオートモビル・ルネ・ボネがリリースしたライトウェイトのスポーツカー。
アルピーヌ(ルネ・ボネがMRだったのに対してこちらはRRだったのは言うまでもありませんが)と、同じくルノーのエンジンやトランスミッションなどコンポーネントを使用したロードゴーイング&レーシング・スポーツカーのメーカーとして刺激し合いながら成長していきました。
しかし、ルノーは1965年にアルピーヌへのスポンサーシップに専念し、ルネ・ボネへの支援を打ち切ることを決定するのです。
ルネ・ボネに救いの手を差し伸べたマトラ
そんなルネ・ボネに救いの手を差し伸べたのがマトラでした。航空機器を手掛けていたマトラは、ミサイルなどの軍需や宇宙開発で成功し、次なるターゲットとして自動車産業に目をつけていました。ボディ製作用にFRPを供給していたルネ・ボネを傘下に組み入れてマトラ・ボネを立ち上げると、すぐにマトラ・スポールと名を変えて自動車メーカーとしての第一歩を踏み出すことに。
その最初の製品はルネ・ボネ・ジェットを少しだけ手直ししたマトラ・ジェットでした。そしてマトラ・スポールとして最初に、本格的な開発を進めて1967年のジュネーブショーでお披露目されたマトラMS530は、ミッドエンジンとしては初の2+2 シーターのパッケージングを持っていました。
搭載されたエンジンはドイツ・フォード製の1.7L V4エンジンでしたが、のちにマトラがクライスラー・フランスと提携したことでライバル系列であるドイツ・フォードのエンジンが使えなくなり、後継モデルはエンジンが換装されています。
そんなマトラMS530の後継モデルが、今回の主人公、マトラ・シムカ・バゲーラです。マトラ・ジェットはストイックな2シータースポーツで、価格的にも高く設定されていたこともあって、ルネ・ボネ・ジェットとして登場した1962年から最終モデルが生産を終えた68年までの7年間で、総生産台数が1500台弱と伸び悩んでいました。
その反省としてマトラMS530では2+2としたことでユーティリティ性が引き上げられていましたが、反対にスタイリングではどこか間延びした印象もあり、こちらも1967年から1973年までの実質6年間で9600台余りが生産されたにすぎませんでした。
スリーシーターを持つバゲーラ
そこで後継モデルとなるマトラ・シムカ・バゲーラでは、ミッドエンジンのMRレイアウトを継承しながら、十分なユーティリティとスタイリッシュなボディデザインを大きなテーマとして掲げた設計開発が進められました。パッケージングで“キモ”となったのは、MS530の2列4座に対してバゲーラでは1列パラレル3シーターとしたことです。
ジャン・トプリユーからジャック・ノシェに引き継がれてデザインされたエクステリアについては、後でまた触れることにしますが、パラレル3シーターのインテリアをまとめたのは途中からプロジェクトに加わったギリシャ人デザイナーのアントニス・ヴォラニス。サイドシートに関してはマトラのエンジニアリングおよび設計責任者であるフィリップ・ゲドンのアイデアでした。
通常の構造を持ったドライバーズシートに対して、2名分のサイドシートはゲドンがパリ市内の販売店で見かけた家具からアイデアが浮かび、ラウンジチェアのようなダブルサイズのクッションにふたつの個別のシートバックが組み合わされています。3人で乗車しても十分なスペースが確保されていますが、ふたりで乗る場合はカップルディスタンスを広くも狭くも自由に設定できます。
何よりも手回り品を置くには最適でした。マトラ・シムカ・バゲーラのユーティリティを高めた要因に、リヤのカーゴスペースが挙げられます。横置きエンジンをミッドシップに搭載したことで、エンジン後方にはまず十分なスペースが確保されていましたが、リヤにハッチを設けることとでアクセス性も大きく向上しています。
残念ながらリヤエンドまでガパッと開けるハッチゲートではなく、上面だけがオープンするガラスハッチだったので、重いトランクなどの出し入れは決して楽ではありませんでした。ですが、大人3人分(その男女組合せが気になるところですが)の長距離ドライブでも十分なラゲッジキャパシティを確保していたことは言うまでもなく、お洒落なGTカーに仕上がっていました。
大排気量/大パワーはなくともライトウェイトで小粋なスポーツカー
マトラ・シムカ・バゲーラのメカニズムについてもちゃんと紹介しておきましょう。フレームはスチール製のモノコックに、FRPで成形された19ピースのアウターパネルを組み付けた構成となっていました。これはスチールパネルを使ったスペースフレームにFRP製のカウルを架装したものと考えてもよいでしょう。
ちなみに、パラレル3シーターを実現するために、フレームを平面図で見てみると、中央部分……つまりはパラレル3シーターが取り付けられる部分は少し膨らんでいることが分かります。このフレームに組み付けられるサスペンションは、フロントがダブルウィッシュボーン式で、上下のAアームと、縦置きにマウントされたトーションバーはシムカ1100のコンポーネントが流用されていました。
リヤも、形式的にはシムカ1100と同様ですが、プロトタイプ時にはシムカ1100のフロントサスペンションが流用されていました。つまり前後共通サスペンションで、シムカ1100からエンジンとトランスアクスルだけでなくサスペンション・ユニットさえもアッセンブリーで移植することが考えられていたのです。
しかしこれでは強度的に厳しいものがあり、結果的にはシムカ1100と同じ基本スタイルである横置きのトーションバーで吊ったトレーリングアームが採用されることになりました。ただし、トレーリングアーム自体はシムカ1100と共通なものではなく、マトラで新たに設計されたパーツが使われています。また前後ともにアンチロールバー(スタビライザー)が追加され、より強化されていました。
7年間で約4万7800台が生産
搭載されるエンジンは、ここまでに触れたようにシムカ1100用の1.3L直4プッシュロッドが選ばれており、これは1294cc(ボア×ストローク=76.7mmφ×70.0mm)の排気量から84psを絞り出していました。84psという数字は控えめに映りますが、車両重量が885kgと極めて軽量に仕上がっていたことで、十分なパフォーマンスを引き出すことができていました。
ボディサイズは全長×全幅×全高が、それぞれ3975mm×1735mm×1180mmでホイールベースは2370mm。このサイズ感は最近のクルマで比較するなら現行のマツダ・ロードスター(3915mm×1735mm×1235mm、2310mm)に近しい数字です。
1.5Lエンジンの最高出力は132psですが、車両重量も1t前後で100kg以上も重いため、パワー(の数値)の差ほどにはパフォーマンスの差は感じられないかもしれません。
1975年にはシムカ1100の後継モデルというよりも、クライスラーのグローバルカーとして開発されたクライスラー・シムカ1307/1308系の1442cc(76.7mmφ×78.0mm)で最高出力90psのエンジンを搭載したバゲーラSが登場しています。
しかしマトラと組んでF1GPをも戦うまでになっていたクライスラーが、それで満足するはずはありません。彼らは次なる一手として、より大排気量のエンジンを搭載しようと考えていました。それはベースとなった1.3Lの直4エンジンを2基、並列に配したU型エンジンの搭載をもくろんでいたのです。
クランクが1本となるV型エンジンと違って、U型エンジンは並列した2本のクランクから1カ所でパワーを取り出すもので、単純に計算しても1.3L/84ps×2で総排気量2.6L/168ps、まぁ気化器的な摩擦ロスなどを考えても150psくらいは期待できるとされ、実際に開発は進められていたようです。
そして1973年にはプロトタイプが完成していますが、オイルショックのあおりを受けてプロジェクトは結局棚上げとなってしまいました。それでも実質7年間で約4万7800台が生産されていて、ジェットやMS530とは桁違いの量販が記録されています。お洒落で少しだけ大き目なボディに小排気量のエンジン。これがフランスの“粋”なのでしょう。
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持ってたスーパーカー大辞典に載ってた。
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