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DS3にはシトロエンの枠に縛られないクルマ創りの姿勢が見えた【10年ひと昔の新車】

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DS3にはシトロエンの枠に縛られないクルマ創りの姿勢が見えた【10年ひと昔の新車】

2009年3月のジュネーブオートサロンでコンセプトカー「DSインサイト」としてデビュー、2009年9月のフランクフルトモーターショーでワールドプレミアされたシトロエンDS3。この後、DS4、そしてDS5が誕生し、現在のDSブランドへとつながっていく記念碑的モデルだ。ここではシトロエンを象徴するパリの街を舞台に行われた国際試乗会の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2010年4月号より)

後席にもゆったり座れ、荷室も深く、広い
「アバンギャルド=前衛的な」という形容詞を用いるならば、それにもっとも適任と思えるクルマは一体何か? そんな設問に対する個人的な解は、今でも「シトロエンDS」だ。デビュー当時はまだポピュラーではなかった前輪駆動方式に、独創の油空圧式サスペンションを採用。さらに、進行方向を照らすディレクショナルライトにも早々にトライするなど、用いられたメカニズムの先進性は文句なく大したものだった。

シトロエンらしさ満載のC4、Ë-C4、C5Xが、機能装備を揃ってブラッシュアップ

が、何と言ってもその開拓者精神の強さを象徴したのは、あまりに個性的かつ奇抜としか表現のしようのない、そのスタイリングだろう。だからこそ、このモデルは時世を超えて今も各種メディアに登場し、映画の中では空を飛ぶのである。

しかし、「DS3はそんなかつての名車を懐かしんで開発されたのではない」とシトロエン社はそう断言をする。むしろテーマは「アンチレトロ」。昔を懐かしむレトロの流行に反し、革新的でモダンな答えをこれからのシトロエンの歴史に刻んで行く。これこそが、今回のDS3を筆頭に、すでにDS4、そしてDS5までの存在が明らかにされたシトロエンの新戦略モデル、DSラインの存在意義であるという。

2009年のフランクフルトショーで披露され、日本には「新型C3と同じタイミングで上陸予定」と予告されるDS3の姿をつぶさに見ると、同じフレンチメーカーでも物量戦略ではなかなか勝つことの難しいルノー社と、同胞ながら実はお互いに微妙なライバル心を抱くとされるプジョー社に対する思惑が、どことなく見え隠れするように感じられる。

DS3が用いるボディ骨格は、基本的にはC3と共通のアイテム。それゆえ、実はこのモデルでは「後席にもゆったり座れ」、「荷室も深く、広い」というのが、まずは特徴だ。

Aピラーは太めだが、低くレイアウトされたドアミラー周辺の抜けが良いので、運転視界はスッキリ。そう、一見ではプレミアム性の強さを装うものの、MINIやフィアット500などとは生い立ちが大きく異なるのがこのモデルなのだ。

シャークフィン型のBピラーがフローティングルーフを演出し、欧州市場ではランニングライトの要件を満たすべくフロントエンド両脇にLEDを並べたマスクは相当に顕示性が強い。が、冷静に見れば「C3の3ドアバリエーション」とも受け取れるのがDS3のパッケージング。端的に言えば、そうしたライバルたちとは異なり「一家にこれ1台」というファーストカーの需要をも十分賄えるもの。それが、DS3のデザインと言っても良いだろう。

一方、アンチレトロが特徴と謳うDS3が、ボディやルーフ、ドアミラーハウジングやホイールなどのカラーリングの組み合わせで多彩なバリエーションを構成するMINIや500と同様のアイデアを用いたのは、そこにマーケットが存在することを彼らが証明済みだからに他ならない。

すなわちDS3とは、レトロフィーチャーによって成功を収めた先駆者のアイデアに学びつつも、彼らとは異なって将来を見据えた1台でもあるということだ。

新型C3とは明らかに異なる個性が与えられている
そんな興味深いDS3の国際試乗会は、パリの都心を基点に開催された。寒さ厳しい季節にこうした地が敢えて選ばれたのには、もちろん理由があるはずだ。

「『DS』という歴史に基づく2文字は、前衛さ、創造性、モダン、テクノロジーを象徴する」とシトロエンではそう説明する。そんなクルマづくりのフィロソフィをアピールするのに相応しい地は、自らの本拠地でもあるパリ以外には考えられない。これがシトロエンの思いであったに違いない。

テスト車両は、BMWとの共同開発による1.6Lのターボ付き直噴エンジン搭載モデルに限定された。基本構造が同じ心臓を積むMINIクーパーSでは6速のトルコンAT仕様も用意されるものの、DS3は6速MTのみの設定。ただし、日本にはこれ以外にも1.6L自然吸気エンジン+4速ATという組み合わせが導入されると発表済み。こちらは、ターボ付きモデルの156ps/240Nmに対し、120ps/180Nmという最高出力/最大トルクを掲出する。

前出156psの最高出力が負担をするのは1165kgという車両重量。それゆえ、フルアクセル時の加速力が文句の付けようのないレベルにあるのは、事前にある程度予想が付いた事柄だった。と同時に、1400~4000rpmの幅広いゾーンで最大トルクが得られるというデータが示すように、日常シーンでも太いトルク感を味わえたのは特筆ポイント。

シフトストロークは決して短くはないものの、シンクロは強力で狙ったゲートはしっかり逃さない。クラッチペダル踏力が大きめなのは意外だったが、繋がりの良いギア比を含めて「MTを操る感覚」を十分に楽しむことのできるトランスミッションの仕上がりだ。

「C3と共通のDNAの持ち主」という先入観は抜きにしても、乗り味がこれほど大きく異なるとは意外だった。今回乗ったDS3の足まわりはC3よりもずっと硬派で、例えばそれなりのコーナーを相当のスピードで抜けたとしても、目立ったロール感は示さない。そうした点からも、このモデルがC3とは別モノの「かための脚」の持ち主であることはイメージをしてもらえようが、一方で70km/h付近から上ではしなやかさを増し、優れたボディコントロール性を示してくれた点は「さすがはシトロエン車」と評したい。

ちなみにテストドライブがならなかった120psバージョンは、今回テストしたモデルとはかなり趣を異とした、よりC3に近い「優しい乗り味」の持ち主だと想像される。ミシュランとの「長年の付き合い」に訣別してブリヂストンのポテンザRE050Aというグリップ力の高さを売り物とする17インチシューズを銘柄指定で履き、トランスミッションを6速MTに限定した時点で、今回テストしたモデルは「シリーズ中でもスポーツ度の高さに大きく振った仕様」と理解できるのだ。

こうして「尖った仕様」をリリースできたのもまた、これまでのシトロエン車の枠に縛られないクルマ創りの姿勢の持ち主だからと言えはしないだろうか。『DS』の2文字を語るシトロエン車が一体どのようなキャラクターの持ち主なのか? それは、今後DS4、そしてDS5の誕生を待って一気に明らかにされていくはずだ。(文:河村康彦)

シトロエン DS3 1.6THP16V 主要諸元
●全長×全幅×全高:3948×1715×1458mm
●ホイールベース:2464mm
●車両重量:1165kg
●エンジン:直4DOHCターボ
●排気量:1598cc
●最高出力:115kW(156ps)/6000rpm
●最大トルク:240Nm/1400-4000rpm
●トランスミッション:6速MT
●駆動方式:FF

[ アルバム : シトロエンDS3 1.6THP16V はオリジナルサイトでご覧ください ]

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