都内から関越道を経て奥日光から日光方面へのアプローチ。そして帰路は東北道経由で都内へ。
総走行距離は優に600kmを超えるロングドライブで再確認したスバルBRZの本質を、6速ATと6速MTそれぞれの感性から探ってみた。(Motor Magazine 2022年9月号より)
モータースポーツ由来のノウハウが存分に盛り込まれた1台
生活に密着したクルマか、憧れのクルマか、そもそもクルマを持たないという選択肢さえ存在する昨今の自動車事情に、最近では「電気自動車(BEV)」も絡んで、クルマを取り巻く環境は混沌としていることを実感している。なるほど、100年に一度の大きな転換期にあるのは間違いない。
●【くるま問答】ガソリンの給油口は、なぜクルマによって右だったり左だったりするのか
だからこそ、クルマの魅力を再確認して、次の時代に向けて思考を巡らせ、この転換期を楽しむべきだと思う。中でもピュアスポーツモデルに関しては、今このタイミングを逃がすべきではない。そこで俎上に載せたいのがスバルBRZである。その誕生の背景にあるのはスバルの長年にわたるモータースポーツでの活動だ。
日本発のピュアスポーツカーはこの10年ほどで再び勢いを増していたが、その中でも常にスポーツシーンでの活動を忘れていなかったスバルの存在は大きい。
そこで磨き込まれ進化してきた水平対向エンジン、その中央から後方へまっすぐ伸びる駆動システムのシンメトリカルレイアウトが実現する理想的な左右の重量バランスと低い重心高、さらに前後重量配分の最適化など、運動性能向上に関わるあらゆる要素を高次元で満たしているのがスバル車だ。
そんなスバルがさらなる高みを目指して2012年に発売した後輪駆動ピュアスポーツカーが初代BRZである。自然吸気2L水平対向エンジンと後輪駆動の組み合わせは、伸びのあるエンジンフィーリングと素直なハンドリングで、走りを愛するドライバーたちを虜にした。
しかも、WRCで培った4輪駆動技術を背景に、後輪駆動であって決して破綻しない高い接地性能も実現していた。雪道でも高いハンドリング性能をキープし続けるところは、スバルならではのこだわりであった。
そんなBRZが2021年に第二世代へと進化を果たした。エンジンは2.4Lへと拡大。軽量化と同時に路面追従性や操舵応答性、さらに上質な乗り味の実現にまでこだわったという。
今回は改めてその奥深さを確認すべく、18インチタイヤを履くハイグレードモデル「S」6速MT車、そして17インチを履くスタンダードモデル「R」6速AT車を連ね、都内から日光方面を目指すロングドライブに出かけてみた。
スポーツマインドはそのままに柔軟性も高めた新型エンジン
エクステリアは鋭くも絶妙にエッジが丸められ、欧州の名だたるスポーツカーたちと肩を並べる艶やかさを感じる。このフォルムは空気のまとわりから逃れるマネージメント効果もあり、道中の高速道路でも風切り音は感じられず実に快適だった。200km/hオーバーのクルージングを見据えた欧州スポーツカーの空力ボディに匹敵すると言っても大袈裟ではない。
音の発生源でもあるエンジン本体には、組み付け工程で手間のかかる平割コンロッドを採用し、エンジンマウントブラケットは樹脂製からアルミ製に変更するなど、高剛性化と高精度化を極めることで微細な音や振動を排除している。回転域に応じて最適なエンジン音を演出するアクティブサウンドコントロールの効果も相まって、アクセルペダルの操作が実に愉しい。ひとたび大きく踏み込めば、澄んだ切れのあるスポーツカーサウンドが車内に響き渡る。
この切れ味の良さはツイスティな山岳路でさらに際立った。自然吸気エンジンならではのレスポンスの良さで、7000rpmを超えても加速力が持続する。また2.4L化による恩恵で、4速30km/h+α(1500rpm程度)くらいでも、軽くアクセルペダルを踏み込むだけで速度を伸ばし、即座にクルージングモードに入る粘り強さと柔軟性を持つ。
ちょいと気合を入れて走れば、4速もシンクロ化された6速MTは、吸い込まれるようにシフトアップできる。もちろん各ギアでしっかりと回し切ればリミットの7500rpmまで直線的に伸びていく上に、各回転域での力強さも充実しているのだ。下から上までフラットで扱いやすく、高回転域での伸びがある。
6速ATも負けてはいない。走行状態に合わせて最適なシフトを選択するアダプティブ制御はさらに進化し、ドライバーの意思と操作に忠実なギアを選択してくれる。スポーツモードやトラックモードを選べば、パドルシフトによって素早い変速が可能だ。
中でもトラックモードでは自然吸気エンジンの切れ味はそのままに、まるで過給されたかのようなパワフルかつレスポンスの良さが際立ち、ATであることを忘れさせる。
グランドツーリングカーの資質を併せ持つピュアスポーツ
ハンドリング面でも、トランスミッションによる違いは感じられない。路面を押さえ込むしっかり感としなやかさは、長年にわたるスポーツシーンでの活動におけるハイスピードコーナリングで鍛えられたゆえの乗り味だ。
ボンネットやフロントフェンダーをアルミ化することで軽量化を実現しつつ、ボディ剛性も大幅に強化されているのも効いている。先代モデル比でフロント曲げ剛性は60%、ねじり剛性で50%アップ。リアのサブフレームは70%も強化されているという。
結果、旋回中にさらにハンドルを切り込んだ時の追い込み感は絶妙で、グイグイとコーナーに入っていく上に、旋回速度を上げていくときにもリアの動きにいささかの不安も生まれない。
一般道~高速道路、そして数多のコーナーが続いた山岳路。延べ600kmを軽く超えたロングツーリングを終えても、疲れはまるでない。多くのコーナーを通過し、時には積極的に、ひたすら走り続けたにもかかわらず、だ。
BRZにはグランドツーリングカーとしても高い資質が確かに存在する。まさに欧州でロングドライブを楽しんだ後に味わう爽快な達成感と同じだ。
変革の時代のただ中にあるとはいえ、磨き込んだ技術の結晶を今一度味わうべきであることを再確認した今回のロングランドライブ。ピュアスポーツを指向しながら、走り込むほどに安定感の高さに気づかされる奥深さこそ、BRZの真骨頂なのだ。(文:瀨在仁志/写真:永元秀和、井上雅行)
アイサイト搭載(6速AT車)
BRZにもついにアイサイトが搭載された(6速AT車に標準装備)。全車速追従クルーズが可能で、今回のロングドライブを一層快適で安全なものにしてくれた。クルーズスイッチで速度を決めれば前走車との車間を一定に保ちつつ、自然吸気2.4Lエンジンの粘りも相まって加減速の応答性は極めて高い。ゆえに不用意に車間が空くこともなく、他の走行車両への気遣いを最小限に抑えて安心してドライブできたのはさすがである。
スバルBRZ S 主要諸元
●全長×全幅×全高:4265×1775×1310mm
●ホイールベース:2575mm
●車両重量:1270kg
●エンジン:対4DOHC
●総排気量:2387cc
●最高出力:173kW(235ps)/7000rpm
●最大トルク:250Nm/3700rpm
●トランスミッション:6速MT
●駆動方式:FR
●燃料・タンク容量:プレミアム・50L
●WLTCモード燃費:11.9km/L
●タイヤサイズ:215/40R18
●車両価格(税込):326万7000円
※取材車両のボディカラーは特別塗装色(イグニッションレッド)で5万5000円高。
スバルBRZ R 主要諸元
●全長×全幅×全高:4265×1775×1310mm
●ホイールベース:2575mm
●車両重量:1280kg
●エンジン:対4DOHC
●総排気量:2387cc
●最高出力:173kW(235ps)/7000rpm
●最大トルク:250Nm/3700rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:FR
●燃料・タンク容量:プレミアム・50L
●WLTCモード燃費:11.89km/L
●タイヤサイズ:215/45R17
●車両価格(税込):324万5000円
[ アルバム : スバルBRZ のATとMTで行くロングドライブ はオリジナルサイトでご覧ください ]
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