鉄道会社の二面性と課題
ローカル線の赤字問題が深刻化し、多くの路線で存続の是非が議論されるようになっている。この問題について、インターネット上では「鉄道会社は民間企業だから、赤字なら廃止は当然」という意見が目立つ。
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しかし、これはインターネット上だけの話ではない。鉄道ファンでない人と話すと、大抵
「誰も乗らないのに、なぜ維持する必要があるのか」
と当たり前のように質問されることが多い。だが、この議論には重要な視点が欠けていると感じる。
鉄道会社は「民間企業」でありながら、「公共性の高いインフラ」を担っているという二面性を持つ。そのため、純粋な収益性だけでは成り立ちにくい路線でも、地域の生活や経済を支えるという社会的使命を果たさなければならない。
固定資産税減免措置の重要性
鉄道には「独自のコスト構造」がある――。
鉄道事業の固定資産が総資産に占める割合は非常に高く、財務諸表上でも他の事業と区分して表示されるほど重要だ。レールやまくら木などの多くの資産が必要で、安全確保のためには毎年多くの対策工事を実施する必要がある。そのため、利用者が減少しても固定費はほとんど減らない。これらの要因が重なり、単純な市場原理だけでは解決できない経営上の特性を生み出している。
注目すべきは、鉄道用地に対する
「固定資産税の減免措置」
だ。鉄道用地は広大なため、通常なら巨額の固定資産税がかかるが、法律で特別な軽減措置が設けられている。地方税法において、鉄道事業用の固定資産に対する特例措置が定められている。
そのほかにもさまざまな特例措置がある。「令和7年度鉄道局関係税制改正の概要」によれば、次のような特例措置が定められている。
・鉄道の豪雨対策のための施設(課税標準を2/3に軽減)
・安全性向上のための設備(課税標準を1/3に軽減)
・低床型車両(課税標準を1/3に軽減)
・環境対策のための低炭素化車両(課税標準を3/5または2/3に軽減)
・バリアフリー施設(課税標準を2/3に軽減)
・耐震対策施設(課税標準を2/3に軽減)
これらの措置は、鉄道が単なるビジネスではなく、
「社会的インフラとしての役割を持つ」
ことを制度として認めているといえる。
税優遇撤廃で地方鉄道崩壊
戦後の日本では、公共性の高い事業に対して税制上の特例措置が一貫して実施されてきた。地方税法第349条の3(固定資産税の課税標準等の特例)を見れば、こうした特例措置は鉄道だけでなく、
・放送
・ガス事業
・船舶
・航空機
などに広く適用されており、特例措置が適用される事業は、国がそれらを
「公共性の高い事業」
として認定している証拠といえる。もし鉄道会社が「完全な民間企業」として扱われ、税の優遇措置がなくなった場合、どうなるだろうか。まず、固定資産税の負担は大幅に増加する。現在でも赤字に苦しむローカル線には、さらに重い負担が課され、多くの路線が維持不可能となるだろう。収益性だけを基準に運営するならば、都市部の一部路線を除き、
「地方の鉄道はほぼ消滅する」
可能性すらある。その結果、地域住民は重要な移動手段を失い、経済活動が停滞し、地域の衰退がさらに加速するだろう。
鉄道の公共性と税制優遇
「完全な民間企業なら公共性を理由に税の優遇を受けるべきではない」
という主張がある。しかし、鉄道事業は純粋な市場原理だけでは成立せず、公共性を前提とした制度設計がなされているという本質を見落としてはならない。
鉄道は当初から「儲からないが社会に必要なもの」として、さまざまな公的支援のもとで成り立つ事業として位置づけられてきた。この事実を無視して「赤字なら廃止」と主張することは、
「鉄道事業の本質を理解していない」
といえるだろう。鉄道会社が受けている税制優遇は、特別な恩恵ではなく、その公共的役割を果たすための最低限の条件であり、社会全体で負担すべきコストの一部である。鉄道を単なる営利企業として扱う議論は、
・歴史的経緯
・社会的意義
を見失った不毛な議論に過ぎない。現在の存廃論争は、赤字問題に過度にこだわるあまり、鉄道の本来の役割を忘れているのが実情だ。
したがって今後の議論は、鉄道が
「どのように地域経済の活性化に貢献できるか」
という視点で再考するべきである。単にノスタルジックに残したいという感情論や、儲からないから廃止という短絡的な考え方ではない。
鉄道の地域貢献で経済活性化
鉄道の存続をどう考えるべきか。現在、各地で取り組まれているのは、
・観光資源としての活用
・駅スペースの高度利用
・デジタル技術を活用した新サービス
など、多岐にわたる事業展開によって安定した収益基盤を構築することだ。
例えば、観光列車は収益改善の可能性が高いものとして、全国で導入が進んでいる。日本経済研究所の調査によれば、観光列車「丹後くろまつ号」の運行開始後、地域の観光消費額が2015(平成27)年の約243億円から2019年には約273億円(12%増)になった事例がある。また、駅スペースの貸し出しなどの多様な事業展開により、通勤通学の運賃収入だけに頼らない存続の試みが各地で実施されている。
これまで鉄道の存廃は、主に利用者数や運賃収入といった直接的な指標で評価されがちだった。しかし、この視点では不十分だ。鉄道は沿線地域全体のインフラであり、地域の発展を支える基盤であるためだ。
鉄道会社が地域の課題解決や経済活性化に積極的に関与することで、自治体や住民からの支持を得ることができる。空き家問題や過疎化対策など、地域固有の課題に鉄道会社が関わることで、新たな公共的価値を創出できる。
過疎化対策として移住を呼びかける際、「駅がある」という条件は大きな魅力となるだろう。車を持たない若者や高齢者にとって、公共交通機関のアクセスは住居選びの重要な要素であり、駅の存在は地域の人口維持や新たな移住者獲得のカギとなる。
「赤字論争」から見える鉄道の本質
これらの取り組みは、鉄道を単なる「移動手段」から「地域価値創造の中心」へと進化させる可能性を示している。バスでも代替可能だという意見もあるが、バスは路線変更や廃止が容易で、定時性や輸送力も鉄道には及ばない。鉄道という
「動かせないインフラ」
が存在することで、住民や企業は長期的な視点で地域に定着できる。
したがって、固定資産税の減免措置を単なる優遇策として捉えるのではなく、鉄道が果たすべき社会的インフラとしての役割への
「正当な評価」
と見なすべきだ。「鉄道会社は民間企業だから赤字なら廃止すべきだ」と主張する人々に対して筆者(昼間たかし、ルポライター)がいいたいのは、であれば
「固定資産税を全額払うべきだ」
と主張するのが筋だということだ。多くの人は、この税制優遇措置の存在を知らず、単に赤字ローカル線という表現だけで判断しているのだろう。鉄道事業の特殊性や公共性に基づく税制面での配慮を理解せず、ただ赤字という理由で廃止を正当化している。
このような表面的な議論では、鉄道が果たしている社会的役割の本質に迫ることはできない。まずは「民間企業」と「公共インフラ」という二面性を理解した上で、真摯な議論を始めるべきではないだろうか。
ちなみに、原稿を書き終えたあと、生成AI(=合理性の塊)に上記意見の妥当性を問うたところ、
「この主張は妥当です。理由としては、鉄道会社が「民間企業である」という立場から「赤字ローカル線は廃止すべきだ」という意見を持つのであれば、その主張が成立するためには、鉄道会社が受けている税制優遇措置、特に固定資産税の減免に対しても矛盾なく論じる必要があります。鉄道会社が公共的役割を担っていることを理由に税制上の優遇を受けているなら、赤字ローカル線の廃止論にも一貫性が欠けることになります。そのため、固定資産税を全額払うべきだという主張が、批判的な立場から見ても理にかなっていると言えるでしょう」
とのことだった。
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