往年の「T20タイガーカブ」の再来?
ここ十数年で急成長を遂げている東南アジア市場や、ヨーロッパのA2ライセンス(最高出力が35kw=47.6ps以下で、排気量の制限はナシ)を意識したモデルとして、近年の欧米メーカーは排気量がアンダー500ccクラスに積極的な姿勢を示しています。トライアンフが2024年から発売を開始した2台の単気筒車、「スピード400」と「スクランブラー400X」も、そういった潮流に倣ったモデルですが……。
【画像】往年の「国産ビッグシングル」か!? トライアンフ「SPEED 400」(2024年型)を画像で見る(19枚)
同社にとっての400cc単気筒車は、「再来」、「復活」と言えなくもありません。歴史を振り返れば1950~1970年代初頭のトライアンフは、500/650/750ccツインや、750ccトリプルをフラッグシップに据えつつ、フレンドリーで安価な単気筒車を販売していたのですから。
それらの中で最も成功を収めたモデルは、1954~1968年に生産された排気量200ccの「T20タイガーカブ」シリーズです。現代の同社が販売する主力機種の排気量が、1950~1970年代の1.5~2倍前後になったことを考えると、「スピード400」と「スクランブラー400X」は“T20タイガーカブシリーズの現代版”と言って良いのではないでしょうか。
ちなみに、トライアンフが新世代のアンダー500ccモデルの開発に着手したのは今から十数年前で、2013年にスクープされた車両のルックスは、デイトナ系とスピードトリプル系の2種でした。そのデザインを破棄して、古き良き時代を思わせるモダンクラシック路線を選択したことも、再来や復活という印象につながる一因です。そんな素性を感じる2台のトライアンフ製400cc単気筒車の中から、「スピード400」の魅力を紹介します。
外観は旧車でも、各部の構成は現代的
外観はモダンクラシック路線の「スピード400」ですが、細部を観察すると、各部の構成は完全に現代のスポーツネイキッドです。ダイヤモンドタイプのスチールフレームに搭載されるエンジンは、動弁系にフィンガーフォロワーロッカーアームを使用するショートストローク(89×64mm)の水冷単気筒DOHC4バルブで、フロントフォークはφ43mm倒立式(ショーワのBPF)、リアサスペンションは直押し式モノショックを採用しています。
また、電子制御式スロットルや後輪の滑りを抑制するトラクションコントロール(任意で解除することが可能)、前後17インチホイールにスポーツ指向のラジアルタイヤ(純正指定はピレリ・ディアブロロッソIIIとメッツラー・スポルテックM9RRの2種)、ラジアルマウント式のフロントブレーキキャリパーなどを採用することも、現代的と言っていいでしょう。
そんな「スピード400」の日本での価格(消費税10%込み)は72万9000円です。市場でライバルになりそうな丸型ヘッドライトの車両と比較してみると、ホンダ「GB350/S」よりは10万円以上高いのですが、ハーレーダビッドソン「X350」やロイヤルエンフィールド「クラシック350」、「ブリット350」などと同等で、ハスクバーナ「ヴィットピレン401」、「スヴァルトピレン401」よりは7万円安く、この価格設定を知った私(筆者:中村友彦)は「いいところを突いている」と感じました。
あらゆる場面に過不足なく対応できる
「スピード400」でさまざまな場面を走って、私が最も感心したのは水冷単気筒エンジンの守備範囲の広さです。プレスリリースやスペックから推察すると、高回転高出力指向が伺えますし、事実、本格的な盛り上がりを感じるのは6000rpm近辺からですが、このエンジンは回すことを強要せず、低中回転域ではシングルならではの心地良い鼓動と振動を披露してくれるので、スポーツライディングとマッタリ巡航の両方が存分に楽しめるのです。
前述したライバル勢に当てはめるなら、「ヴィットピレン401」、「スヴァルトピレン401」と「GB350/S」のイイトコ取り的なフィーリングで、だからこそツーリングで遭遇するあらゆる場面に過不足なく対応できるのでしょう。
と言っても、近年の400ccクラスの基準で考えると、40ps/8000rpmという最高出力はやや控えめです。
ちなみに「ヴィットピレン401」、「スヴァルトピレン401」は45ps/8500rpmで、ルックスと構造的にライバルとは言い難いものの、カワサキ「Z400」は48ps/10000rpm、ヤマハ「MT-03」は42ps/10750rpmです。
ただし、今回の試乗で力不足を感じる場面はほとんど無かったですし、高速巡航時の100km/h・6速の回転数は5000rpmで、レブリミッターが作動する9000rpmまで回せば160km/h前後のスピードは出そうですから、一般的な感覚のライダーなら、パワーに不満を感じることはないはずです。
そしてそういった資質は車体も同様で、市街地でも高速道路でも峠道でも、このバイクはとにかく従順で扱いやすいのです。単気筒車ならではの軽さは感じるのですが、乗り手が驚くほどヒラヒラしているわけではありません。
いずれにしても「スピード400」のハンドリングはフレンドリーにしてオーソドックスで、この点についても私は、前述の比較車両のイイトコ取り的な印象を抱きました。
試乗を終えた後、私の頭にふと浮かんだのは400ccクラスのライバル勢ではなく、近年の日本のビッグバイク市場で絶大な人気を獲得しているカワサキ「Z900RS」でした。
もちろん、「スピード400」は日本を重視したモデルはないですし、トライアンフがカワサキの手法を参考にしたとは思えません。とはいえ「Z900RS」と同様に、ルックスがモダンクラシックで、ヘッドライトが丸型で、それでいて現代的なスポーツライディングが楽しめることは、日本人の好みにかなりマッチするバイクではないか……と、私は感じたのです。
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