ランボルギーニSUVの祖先、LM002が北米のオークションに現る
前世紀末以来、自動車エンスー界において毎年8月の恒例行事となっている「モントレー・カーウィーク」。その最大規模のオークションとして、RMサザビーズ北米本社が2024年8月15日~17日に開催したクラシックカーオークション「Monterey 2024」では、2023年末に逝去したヘアスタイリスト&実業家の故アンガス・ミッチェル氏の遺した9台の素晴らしいクラシック/コレクターズ・カーが「The Collection of Angus Mitchell」と銘打って出品されました。今回はその出品車のなかから、特別なセンスで仕立てられた1台の「ランボルギーニLM002」をピックアップ。車両概要と、注目のオークション結果についてお伝えします。
なんと6850万円! ランボルギーニ「ウルス」の始祖!?「LM002」はスタローンやティナ・ターナーも所有したかつての不人気車…いまや注目株です
「マッドな」アイデアから生まれたウルスの始祖とは……?
ガソリンエンジンを使用した自動車が誕生して、間もなく140年を迎える。そしてその歴史において、もっとも面白いと評価されてきたクルマは、きわめてマッドなアイデアに基づくものが少なくない。
もともとは軍隊への正式採用を期して開発されたシャシー/ボディに、同時代の「カウンタック LP5000」譲りとなる450psのV型12気筒・48バルブエンジンと45ガロン(約200L)の燃料タンクを搭載し、5速マニュアルギアボックスと2速のトランスファーケースを介して、ピレリのランフラットタイヤを履いた4本のホイールにパワーを供給するランボルギーニ「LM002」は、その最たる例といえるだろう。
サンタアガタ・ボロネーゼのランボルギーニ社が自ら精神的な後継車とアピールしているスーパーSUV「ウルス」と同じく上質なレザーに包まれ、グロス・ニス仕上げウッドトリムに囲まれたバケットシートに4人の乗員を乗せながら、想像しうるあらゆるものを乗り越えていくさまは、40年前の常識においてはまさしく異形のものであった。
1986年のブリュッセル・モーターショーにてワールドプレミアに供されたLM002は、ほどなく世界中の注目を集め、とくに中東の新しい富裕層を中心に大きな人気を獲得。この種の特殊な超高級車としては決して少ないとはいえない328台(ほかに諸説あり)を、その後9年間で生産・販売したといわれている。
こんにち、ランボルギーニLM002は超高級・超高性能SUVのパイオニアであると考えられているが、それは当然のことかもしれない。
もちろん、軍用車スペックで開発されたというその出自からして、現代のオンロードSUVとは比べるべくもないほどの悪路走破性を誇るものの、パワフルなスーパーマシンであることに変わりはなく、そのカリスマ性はほかの追随を許さないとされているのだ。
ヘアアーティストの優れたセンスでレストアされたLM002
今回「Monterey 2024」オークションに出品されたランボルギーニLM002は、もとよりアメリカに向けて製作された個体とのこと。
オリーブグリーンのボディカラーにクリーム色の本革レザー内装が組み合わされたこの個体は、もともと「バリー・トータルフィットネス」社の創設者であるドナヒュー・ワイルドマン氏が購入したと伝えられており、彼の所有のもとではユタ州の登録ナンバー「ALAMB0」が使用されていた。
ワイルドマン氏が2018年に他界したのち、2代目のオーナーが彼の遺品から譲り受け、カリフォルニア州レドンド・ビーチの自動車スペシャリスト「ファスト・カーズ」社によるコスメティックレストアとメカニカルパートも含む大幅なリフレッシュ作業が行われ、この時には9万ドルを超える請求書が計上されている。
ところで、ヘアケア製品を手掛けるコスメ業界において帝王とも称された、故ポール・ミッチェル氏の息子である故アンガス・ミッチェル氏は、弱冠10代の頃にグリーンのLM002を所有しており、手放したあとも、このクルマには特別な想いを抱いていた。そこで、数十年前に所有していたものと同じような色のこの個体を見つけ、アンガスが夢の LM002 を製作するための理想的なベース車両にしたとのことである。
入手した段階でも、すでにインテリアは良好なコンディションが保たれていたにもかかわらず、彼はインテリア全体を新品のカーペットやヘッドライナーに換えるとともに、レザーハイドも同じスペックの本革レザーで新調。今は亡きアンガスの、厳格な鑑識眼に即したものとした。また、現代的なサウンドシステムがインストールされるとともに、すべてのウッドパネルは取り外され、今いちど磨き上げられている。
「ミウラ」のデザインを引用したカスタムホイールを製作
さらにオーナーの研ぎ澄まされたスタイルセンスにふさわしく、アンガスが愛していたもう1台のランボルギーニ「ミウラ」のデザインを引用したカスタムホイールが「EVODインダストリーズ」社によって製作され、スタンダードのスチールホイールから取り換えられている。
アンガスからこのLM002を相続した遺族である現オーナーいわく「オリジナルのスチールホイールと、ポール・ミッチェルの象徴であるシャンプーのボトルもお付けします」とのことであった。
今回のオークション出品に際して、RMサザビーズ北米本社の営業部門は「RAMBO LAMBOの素晴らしい見本であるこの愛すべきクルマは、丘やオフロードのみならず、ロデオドライブなどのハイファッションタウンに至るまで、どこに行っても注目の的となるに違いありません」というPRフレーズとともに、35万ドル~40万ドル(邦貨換算5180万円~5920万円)という、現在のマーケットにおけるLM002としても若干強気にも感じられてしまうエスティメート(推定落札価格)を設定していた。
ところが、モントレー市内の大型コンベンションセンターで挙行された競売では、ビッド(入札)が予測をはるかに上回る勢いで殺到し、終わってみれば70万3500ドル、現在の為替レートで日本円に換算すれば約1億円という価格で、競売人の掌中の小さなハンマーが鳴らされることになったのである。
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