60年間のホンダ独自手法に幕
text:Kenji Momota(桃田健史)
【画像】意外な色も? どの色が好み? ホンダ・フィットのバリエーション【ディテール】 全93枚
新型フィットが2020年2月14日、日本国内での発売が開始された。
その4日後、ホンダに関する衝撃的なニュースが飛び込んできた。
ホンダは、四輪事業の開発を本社で一元管理する体制に移行することを決めた。
ホンダファンを除いて、一般的にはホンダがこれまで続けてきた他に類のない組織構造は知られていない。
いま(2020年)から60年前、1960年に始まった本田技術研究所。
ホンダ創業者の本田宗一郎は、本田技研工業(本社)と、本田技術研究所を分離することで、他社にはない独自性が高い研究開発を進めてきた。
これが、ホンダの強みだった。
だが、2000年代に入り、こうした分離構造が裏目に出るようになった。
研究所発のモノづくりは、開発者目線が優先するプロダクトアウト型。くだけた表現を使うと、ラーメン屋のおやじが「これがオレのイチオシだから、おいしいに決まってるだろ」といった感じだ。
ところが、スマホ時代になり、個人による情報のやり取りの幅が一気に広がると、世の中の消費行動は、プロダクトアウトとは真逆の、マーケットイン型にシフトした。
つまり、ユーザー目線、ディーラー目線が最優先となり、メーカーは企画、開発、販売の戦略を一元管理する必要が高まった。
そんなホンダ組織大変革の真っただ中で、新型フィットは生まれた。
大変な時に、なぜ「ここちよさ展」?
ホンダ関係者にとって仕事のやり方が大きく変わる時。
そんな時に、東京青山の本社1階ホンダウェルカムプラザ青山では「ここちよさ展」(2020年2月13日~3月14日)が開催中だ。
新型フィットの商品コンセプトで、ここちよさが重要なキーワードである。
「ここちよさ展」開催で最初の日曜日、2月16日の午前11時半に、ホンダ青山本社に一般客として行ってみた。
ホンダウェルカムプラザ青山は2020年1月18日にリニューアルオープン。広報部によると「2020年東京オリンピック・パラリンピック開催で、インバウンドが都心に訪れる機会も多くなることもあり、このタイミングで大規模な改装をしました」という。
クルマのショールームという雰囲気ではなく、カフェを拡充したくつろげる空間へと生まれ変わった。
1月には、新春初笑いイベント「ホンダ亭青山寄席」を開催。毒蝮三太夫、笑福亭鶴光、マギー司郎など大御所師匠が次々登場し、会場内は立ち見客が出るほどの大入り満員だった。
場の雰囲気が、昭和のお笑いでほどよくほぐれた後、真打ち「ここちよさ展」の登場だ。
聴覚、視覚、嗅覚、触覚、それぞれのコーナーで自分が気に入ったナンバー1、2を選び、その結果から「あなたにあったドリンク」を提供してもらうとの流れだ。
その結果は……。
「ここちよさ展」プロダクトアウト型?
結果としては、想像していたより、面白い体験であり、自分自身のモノに対する見方が再確認できた。
ホンダのモノづくりの考え方を、ユーザー自身がダイレクトに感じ取れる良い機会だ。
筆者としても、端的にとても楽しかった。
ただし、この体験がそのまま、新型フィットの購入動機になるかどうかは、人によって違いがあるのは当然だ。
つまり、「ここちよさ展」は、ユーザー目線になっているように見えるが、実はホンダ側のプロダクトアウトによる市場調査の範疇を超えていない、と思う。
「ここちよさ展」を体験したうえで、展示車の新型フィットの外観をみて、ドアを開けて運転席に座り、助手席に座り、後席に座り、リアハッチを開け、ついでにボンネットを開けてみた。
こうして一連の動きの中で、仮に「このクルマは、ここちよいですか?」と聞かれたとして、即座に「はい」といえる気分にはならなかった。
あくまでも、個人的な見解だが、これが正直な感想だ。
「ここちよさ展」では、聴覚、視覚、嗅覚、触覚、そして味覚と、それぞれの感覚に対して個別体験することで、ここちよさを、かなり短時間で自覚することができた。
一方で、クルマでは、動いている状態で五感を使わないと、ここちよさが見えてこないものだと、強く思った。
新体制「感性価値」が業績に結びつく?
走ってもらえば、違いが分かります。
自動車メーカーの開発者が、昔からよく使うフレーズだ。
特に、走りをウリにしている、スバル、マツダ、そしてホンダの開発者が使うことが多い。数値によって定量化できない感覚。各社が「走るよろこび」と表現する、人間の感性に訴える領域だ。
「走るよろこび」を、より広い視野で考え直したのが、新型フィットでいる「ここちよさ」なのだと思う。
「ここちよさ」は、けっして、新型フィットだけの商品企画コンセプトではない。本田技術研究所には「感性価値」の研究チームがあり、この数年間での研究成果が新型フィットに盛り込まれている。ホンダの「感性価値」は、新型フィット以降に発売される新型車にも当然、反映される。
とはいえ、「感性価値」で実績を出すのは極めて難しい。昔ながらのホンダ車は、開発者がクルマ作りを深堀りすることで、偶発的に「感性価値」が生まれてきたからだ。
クルマに限らず、感性、味わい、そして「ここちよさ」は本来、作ろうと思って作れるものではない。
そうした極めて難しい領域に、新型フィットが挑む。
ホンダ四輪新体制のもと、「感性価値」による新たなるブランド戦略、商品戦略によって次世代ホンダらしいクルマが生まれることを期待したい。
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