韓国・中国メーカーの動向は?
執筆:Hajime Aida(会田肇)
【画像】BYD・ヒョンデの注目車 中韓の電動車は、デザイン/内装がスゴイ【細部まで見る】 全80枚
昨年以来、自動車業界は韓国・ヒョンデや中国・BYDの日本市場進出で大きな話題を呼んでいる。
両社に共通して言えるのは、日本進出にあたり対象車両を“電動車”としていることだ。
とくにヒョンデは乗用車において一度撤退した過去があるが、再進出に当たっては電動車に絞り込み、約12年ぶりの再進出となった。一方のBYDは“バス事業で足場がため”をしつつ、初進出となるEV乗用車でさらなる浸透を図る。
その両社がラインナップしたのは、ヒョンデが燃料電池車「NEXO(ネッソ)」とEV「IONIQ 5(アイオニック5)」で、BYDはEVの「ATTO3(アット3)」をまず投入。いずれも今後は電動車のラインナップを増やしていく計画だ。
両社が電動車に力を入れる背景には、日本メーカーがハイブリッド車を主力とする中で、手薄となっている電動車で存在感を発揮させようという戦略が見える。
そんな中でヒョンデは5月16日、2023年度の戦略を発表する報道関係者向けのイベント「Hyundai Brand Day」を開催した。
そこでは現在、主力としているアイオニック5をアップデートすることと、同車の台数限定モデル「アイオニック5ラウンジAWDリミテッドエディション」を発表。
また、充電前にあらかじめバッテリー温度を高めるバッテリー・プレコンディショニング機能や、初期充電出力を一時的に高めるブーストチャージング・プログラムを新たに採用することも紹介された。
「コナ」「アイオニック6」とは
また、2023年後半に導入予定の新型電動SUV「KONA Electric(コナ・エレクトリック)」と、電動4ドアクーペ「IONIQ 6(アイオニック6)」の2モデルを日本初公開した。これを低迷する販売の刺激策としたい考えだ。
「コナ・エレクトリック」は、航続距離が490km(WLTP推定)を実現するB-SUVセグメントのコンパクトなバッテリーEVとなる。
コナ自体は、ラインナップにHEV(ハイブリッド車)、ICE(内燃機関車)の各バリエーションに加え、スポーティなNラインを用意する。その中でEVが先行発表されたのは、ヒョンデが2030年までに新型EVを11車種発表するとした電動化加速戦略に基づいたものとなる。
ヒョンデ・モビリティ・ジャパンによれば、今月中旬に韓国でまず販売を開始し、日本やヨーロッパ、アメリカでは今秋にも発売を予定しているそうだ。
一方の「アイオニック6」は、ヒョンデのEV専用ブランドである「IONIQ」の2番目のモデルとして誕生したバッテリーEVだ。
18分で10~80%の充電が可能な800V超高速充電機能を搭載することで、とくに充電能力を大幅に引き上げたことを特徴としている。これにより航続距離を飛躍的に延ばすことに成功した。
また、アイオニック6は今年4月、ニューヨーク国際オートショーで「ワールド・カー・アワード(WCOTY)」をはじめとする数々の賞を受賞しており、それを記念してヒョンデ・モビリティ・ジャパンではマーケティング用で導入した車両を使い、展示/試乗会を展開する予定にしている。
広い!俊足!「アイオニック5」
そもそも「アイオニック」シリーズは、ヒョンデが2021年3月に登場した「アイオニック5」でEV専用ブランドとして使われるようになったものだ。アイオニック6と合わせた計2台が現時点でのラインナップとする。
そのアイオニック5は日本でも「2022-2023インポート・カー・オブ・ザ・イヤー」を受賞するなど、その評価は極めて高い。
筆者もこれまでにも何度か試乗しているが、その仕上がりは素晴らしいものだった。運転席に座れば質の高い内装が広がり、電動車ならではの特長を活かした“足元の広さ”も印象的だ。後席での居住性も高く、大人でもゆったりと座れそうだ。
走り出せば、強烈なトルクが高速域まで一気に引っ張り上げる俊足の持ち主。バッテリーをフロアに内蔵する「E-GMP」プラットフォームによって低重心化が効いて、操安性も文句ない仕上がりだ。
少し足回りが堅めとなっているが、若干道路の継ぎ目を拾うぐらいで、これも決して不快な感じはしない。回生ブレーキはパドル操作で強さを3段階に調整可能で、ワンペダルドライブにも対応する。
快適装備や安全装備も満載しており、とくにウインカーを出した方向の「斜め後方」を映像でメーター内に表示する機能はレーンチェンジなどで重宝する。ウインカーレバーが国産車と同じ右側にあるのもありがたい。
見逃せないのは、輸入EVとしては数少ないV2Hへの対応も果たしていることで、これによりCEV補助金の満額が受け取れる。
「ネッソ」 パッケージングに注目
燃料電池車「NEXO」はどうか。燃料電池車だけに何と言っても航続距離の長さがウリだ。
水素をフル充填した走行可能距離は820km(WLTC)を実現しており、エアコンなどを使っても軽く500~600km程度は走れそうだ。車体デザインは、シャープさが際立つアイオニック5に対して、全体として丸みを帯びた柔和なイメージを伝えてくる。
車内は十分な広さがあり、SUVらしい“ゆったりとした乗車”ができる。ラゲッジルーム床下に3本の水素燃料タンクや駆動用バッテリーを搭載しながら、ここまでのスペースを確保しているのは評価していいと思う。
日本市場への導入にあたっては右ハンドル仕様とした上に、ウインカーレバーを右側にするなど、細かくローカライズされている。ただ、アイオニック5で対応したカーナビは搭載せず、カーナビ機能としてはCarPlayやAndoroid Autoを使うことになる。
走りは電動車らしい素晴らしいものだった。
アクセルを軽く踏んだだけでモーター駆動らしい太いトルクで、車重1870kgのボディを軽々と運んでくれた。どの速度域でも俊敏に反応し、市街地はもちろん、高速道路の流入でも力不足は微塵も感じさせない。
サスペンションがややフワつく印象はあるが、路面との設置感は十分でカーブが多い首都高での走行でも安心して走りきることができた。
そして、中国BYD「アット3」の試乗した印象も伝えておきたい。
新感覚のEV 「BYDアット3」試乗
「ATTO3(アット3)」は実車を前にすると、サイドビューに波打つような脹らみがあり、光の放ち方が“思った以上の斬新さ”を伝えてきた。
ダッシュボードはジムで鍛える筋肉質を表現した独特のデザイン。そのデザインはコンソールボックスの蓋にも引き継がれ、そこにダンベルをモチーフにしたシフトノブがコンソールに配置される。質感も高く、チープさは微塵も感じさせない。
走りは強烈な加速感はないものの、スタートから高速域までフラットにトルクを発揮するのでとても走りやすい。
静かだし、その加速力がどこまでもエンドレスでつながっていくようだ。一方でステアリングはやや緩慢な印象で、コーナーでは若干多めにステアリングを切ることを強いられる。
ただ、操舵感は軽めにできており、ボディの見切りの良さも手伝って、駐車を含む市街地での操作は楽に行えそうだ。
搭載されたインフォテイメントシステムは「ゼンリン製地図データ」を採用するなど、ローカライズに余念がない。交通情報も通信によって必要なデータを得られるようになっていた。
ただ、全体に表示される文字が小さめで走行中の視認性は今ひとつ。メーター内の表示もかなり小さく感じた。今後の改良での改善を望みたい。
販売網を急ぐBYD ヒョンデは新車が鍵
では、こうした中韓勢の進出で日本車への影響はどの程度あるのだろうか。
正直言えば、高価格帯の車両で販売はそう簡単ではないと思う。また、新しいブランドということで、顧客と信頼関係を築くことが欠かせない。
そのためにディーラー網の整備は重要と思われるが、そこの部分でヒョンデとBYDは対応が分かれた。
「ヒョンデ」は販売の基本を通販としたのに対し、「BYD」は2025年末までに正規ディーラー100店舗を全国に設置する計画を発表した。
これはすでに結果としても表れ始めている。
BYDは2023年1月31日に発売されたアット3の販売実績が4月までのわずか3か月で305台を販売したのに対し、ヒョンデは昨年からの実績でアイオニック5とネッソ合わせて162台にとどまった。
ヒョンデはこれを踏まえてテコ入れ策を促しているが、ポイントはより価格の安い新型EV「コナ・エレクトリック」の販売になるだろう。
また、新車登録から3年に渡り、法定点検・車検の基本料金とバッテリークーラント交換を同社が負担。さらに外観ダメージの無償修理(1年に1件・最大10万円分まで)を、新車に標準で付帯するという「Hyundai Assurance Program」を打ち出した。
BYDも夏までには低価格帯の「ドルフィン」を発売する計画で、それらが実現すると日本でも300万円前後のEVが手に入るようになる。
この価格帯はヒットを記録した日本の軽EVと同等だ。補助金などを考慮すると低価格でEVが手に入れられる日も近い。日本メーカーの対応が急がれるのは間違いない。
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