ハンドリングもブレーキも大柄ボディが意のまま
ミニバンに取って代わるSUV。自動車関連の専門誌やWEBメディアにそんなキャッチや主旨の記事が散見されるようになった。その要因は間違いなく、このところSUVにとくに力を入れているマツダの3列シートSUV、CX-8が登場したことによるものだ。
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単にこのクルマが登場しただけなら、そこまでこうした論調にもならなかったのだろうが、マツダはミニバンの生産を終了するとも発表している。現状ラインアップされているビアンテ、そしてプレマシーがなくなり、後継車は登場しないのだ。
これまでも3列シートのSUVは、三菱アウトランダーや日産エクストレイル、トヨタ ランドクルーザーなど普通にラインアップされていたのだが、そこまで注目されていなかった。もちろんユーザーはいたのだろうが、多人数乗車=ミニバンという考え方が主流であったことは否定できないだろう。
さて、CX-8がミニバンに代わる存在であるのかどうか? マツダが果たしてそれを考えているのか、それともCX-8はCX-8で独自の存在だ考えているのか、ということはさておき、マツダファンで多人数乗車が欲しければ、この先はCX-8を選ぶしかないことは確実。そこで今回、500kmを超えるロングドライブを、3列目シートまで使用する条件下で行ったのでリポートしたい。
試乗したグレードはCX-8 XDプロアクティブ(FF)だ。季節的に雪が降る可能性もあるので、スタッドレスタイヤ装着車となった。
CX-8はディーゼルエンジン車のみがラインアップされる。この2.2リッターディーゼルターボ、これまでもアテンザやCX-5で経験していたが、車重がCX-5よりも約200kg、アテンザにいたっては250kg以上重たいCX-8でどうか、は気になるところ。もっとも、アテンザが175馬力/420N・mであるのに対し、CX-5とCX-8は190馬力/450N・mというやや異なるスペックになっている。
結論からいってしまうと、動力性能にまったく不満なし。加速の印象としてはディーゼルらしいグイグイ引っ張られるように加速するというものではなく、踏めばスッと車速が伸びていくような、上品なもの。そしてエンジン始動時こそディーゼルらしい音だが、車内へのエンジン音の侵入も少なく、上級車らしい穏やかで快適な室内空間を楽しめる。
ディーゼルで気になるのは高速の伸び……という声も聞かれるだろう。新東名の110km/h区間を利用して、これまでの100km/hプラス10km/hまでの加速、巡航を試したが、少なくともその領域までは何ら不満なく、スッと加速する。試乗の条件としては、1列目2名、2列目2名、3列目1名のすべて大人と、5人の2泊分の荷物という結構な満載具合。
そしてさらに気に入ったのがハンドリングだ。首都高や大阪環状線など、アップダウン&コーナーの多い道路を走行すると、けっしてスポーティではないが、切りだしからジワッとノーズが反応し、その後の切り増しでもボディがグラッとすることはなく、適度に抑えられたロールで快適に曲がることができる。日本では比較的大柄なボディで、ホイールベースも2830mmあるが、リヤが遅れるような印象もなく動きに一体感も感じられた。
もうひとつ、抜群によかったのがブレーキだ。ひと言でいえば「踏力に対してリニアな減速をする」、ということなのだが、これ、現代のクルマにおいても「非常に良い」と評価できるクルマは少ない。CX-8は、踏み始める部分の減速から、より強く踏み込んだ際の減速まで、本当にコチラの意図したとおりに速度がコントロールできる。
さらに、踏み込みだけではなく、ペダルを戻していく際の減速の抜けもいい。この「よさ」は、単にブレーキシステム自体のよさではなく、クルマの姿勢の含めてのよさだ。当然減速すればフロントが沈み込む、いわゆるノーズダイブがどんなクルマでも起こるが、そうした沈み込む動きの速度も適切にコントロールされているのだ。
こうした、加速、コーナリング、減速の動きは、後席まで人を乗せた状態でのロングドライブにおいて非常に大切。まず運転自体が楽しめるため、移動が退屈しない。さらに、これも多くのドライバー担当やパパさんなどに経験があると思うが、1人や助手席だけに人を乗せた2人乗車時に比べ、後席の乗員に気を遣って普段よりも、より動きを穏やかにしようとハンドル操作や加減速に神経を遣う。
このとき、自分の操作にクルマが忠実に動けば非常にラクだし、逆にブレーキが少しカックン気味だったり、ステアリングの切り出しでノーズの反応が遅かったりすると、疲労は凄まじいものがある。そうした点でCX-8は、ファミリーユースなど多人数乗車する可能性のあるユーザーにぴたっとはまっていると言えるだろう。
では非の打ち所がないか? と聞かれれば、いくつか改善を希望したいポイントはある。
まずは直進安定性だ。悪いというほどではないもののステアリングのセンター付近にやや落ち着きのなさがある。いつも走り慣れた高速道路での巡航で感じたもので、もっと落ち着きのあるクルマがあることは間違いない。ただし今回のクルマはスタッドレスタイヤ装着車。冬場はスタッドレスで長距離走行する人も多いのだから、スタッドレスだから仕方がない、とは言いたくないが、夏タイヤでも試してみたいところだ。
もうひとつ、気になったのがマツダ・レーダー・クルーズ・コントロール。この手の、設定速度以下で、前走車との車間距離を保つようにアクセルとブレーキを自動操作してくれる安全&快適装備もかなり普及した。そしてCX-8のそれは、自分で操作したとき同様、減速はスムースで姿勢がよい。そして遅い前走車が車線変更して前が空いたときの中間加速も、さすがは450N・mの大トルク! エンジンが唸ったりせずにスッと設定速度に達する。
じゃあ何が気に入らないのか? まずは取り扱い説明書に「チャイム」と記載してある、速度を設定したときの「ピー」という音だ。警報音としても通じるほど耳障りで、設定するたびにうたた寝している同乗者が起きてしまった。もう少し上品な音にするか、音などなくてもいいと思える。
さらに車間距離を4段階で設定できるのだが、メーター内のディスプレイは、クルコン用に切り替えておかないとこの車間距離設定が表示されない。車間距離設定ボタンを押した際は数秒切り替わって、どの距離が選択されたのか表示されれば便利なのに、と思った次第。
さて、気になる3列目だが、長距離でも耐えられるかどうかを調べるため、「3列目担当者」を決めて約500kmの間ずっと座ってもらった(もちろんSAやPAの休憩はあり!)。その前方は、助手席もその後ろも大人で、ムリのないシート位置にしてある。加えて、3列目席担当は、身長172cmの女性という条件だ。
そのコメントは、「見た目に比べてレッグスペースが広く、長時間(5時間程度)の移動でも苦ではなかったです。よく3列目席に座っていると、クルマが跳ねた瞬間に頭を打つこともありますが、CX-8はそうしたこともなく快適でした」というもの。
もちろん、座るメンバーによっては狭く感じることもあるだろうし、座高によってはヘッドクリアランスが気になる人もいるだろう。だが、少なくとも、3列目シートがエマージェンシー用ではないことは証明できた。
CX-8が見せた、ファミリーユースでの有用性とロングドライブ向きの走り。ではミニバンに代わるものか、と言われれば、人によっては代わりになる、人によっては補完されない、という曖昧な回答になる。それはドアの形状やシートの配置、車内で何をするのか、主にどういった目的で使用するのか、など、多数の要素からクルマ選びは考えるべきだからだ。
だが、多人数で乗ることを考えてクルマ選びをする際に、ミニバン一辺倒ではなく、ぜひ候補に入れて考えてほしい1台である。これまでミニバンを乗り継いできた人でも、これが最適! となる可能性を秘めた1台だった。
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