日産の「ノート・オーラ」に、新たに加わった「オーテック・スポーツスペック」は、こだわりの1台だった! プロトタイプを試乗した今尾直樹がリポートする。
販売好調なノート・シリーズ
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日産の小型車、ノート・オーラに日産モータースポーツ&カスタマイズ(略称NMC)が専用チューンを施したファクトリーカスタム、オーテック・スポーツスペックが登場した。
では、ここで問題です。NMCが手がけるノート・ベースのファクトリーカスタムはすでに3モデルが発売されています。その3モデルとはなんでしょう? カチカチカチカチ。答はこちら。ノート・オーテック・クロスオーバー、ノート・オーラ・オーテック、そしてノート・オーラ・ニスモ。正解の方はエラい! なにも出ませんが、あなたは立派な日産とNMCのファンです。
さて、現行ノートは2020年12月に発売された3代目で、ノートと、40mmワイドボディを持つ高級版のノート・オーラから構成されている。単にオーラと呼ばれることもあるノート・オーラともども、発電用の1.2リッター3気筒と、駆動用のモーターからなる日産独自のハイブリッド、e-POWERを搭載。降雪地方向けに後輪をモーターで駆動する4WDもある。
ノート・オーラは、ボディと装備が違うだけではなくて、e-POWERのモーターが高出力化されてもいる。発電用の1198ccの直列3気筒ガソリンエンジンは最高出力82ps/6000rpm、最大トルク103Nm/4800rpmで同一なれど、前輪を駆動するモーターの出力&トルクはノートが116psと280Nmに対して、ノートのプレミアム版たるオーラは136psと300Nmに強化されているのだ。4WDの後輪用モーターは68psと100Nmで、共用する。
ノートのカタログ・モデルはXのみ、ノート・オーラはGとGレザーエディションのみという、どちらもシンプルな構成になっている。ただし、前述したように、ノートにはオーテック・クロスオーバーが、オーラにはオーテックとニスモ、ふたつのスペシャルバージョンが設定されている。
そのノートは昨2023年末にフェイスリフトを受け、「デジタルVモーション」なる最新の日産顔に変わっている。販売は好調で、オーラを含むノートシリーズは2024年1月~9月の自販連の統計でトヨタ「カローラ」、「ヤリス」、「シエンタ」のトヨタ勢に次ぐ4位の座を占める。国内市場における日産の最量販モデルであり、そのノートに並ぶのが同時期の統計で7位につけている日産「セレナ」なのだ。でもって、この2トップの販売を援助すべくNMCが開発したのが10月に発売されたセレナ・オーテック・スポーツスペックであり、オーテック・スポーツスペックとしては第2弾となるオーラ・スポーツスペックなのである。
しかして、オーラにはすでにニスモバージョンがある。このふたつの棲み分けは次のように説明されている。どちらも「スポーツ」ということでは共通している。けれど、ニスモはモータースポーツ由来の「速さと高揚感を」。オーテックはクラフツマンシップによる「上質さと爽快感を」訴える。オーテック・スポーツスペックはニスモと同等の加速感を備えつつ、コーナリング性能よりも、安定性と乗り心地を重視するキャラクターに設定されている。
もっとも、コンセプトはコンセプトであって、具体的にその味付けをどうするのか? 現場、とりわけ開発ドライバーは苦労したらしい。オーラのベース車とオーラ・ニスモのあいだにある隙間に、絶妙のコントロールでもってオーテック・スポーツスペックを投げ込まねばならないのだから。
オーラ・ニスモとは一部部品を共用具体的にオーラ・オーテック・スポーツスペックの中身を見てみよう。内外装の仕立ては基本的にオーテックと同じだ。オーラGをベースに、オーテック専用のキラキラのグリル、専用の17インチ・アルミホイール、専用の本革シート生地等を装着。これらは基本的にオーラの生産ラインで取り付けられている。違いはSPORTS SPECと書かれたエンブレムである。もちろん、オーテック・スポーツスペックにのみ貼られている。そうそう。雪国の方には残念ながら、スポーツスペックには4WDの設定はない。
オーラ・ニスモとは一部、部品を共用している。たとえば、高速スタビリティを目的とするリヤのルーフ・スポイラーである。さらにショックアブソーバー、バンプラバー、パワーステアリング特性とVDC(ビークル・ダイナミクス・コントロール)の制御も同じものを使っている。車高を20mmダウンし重心を低めているところもニスモと共通だ。
違うのは、まずスプリングである。オーラ・オーテック・スポーツスペックは基準車比でフロントが約30%、リヤが約40%アップされている。オーラ・ニスモのスプリングと較べると、フロントはややソフト、リヤは逆にハードだという。
わかりやすいのはタイヤの銘柄だ。どちらも205/50-17で、ミシュランだけれど、ニスモはパイロット・スポーツ4、ZR規格(最高速度240km/h超)の高性能タイヤ、オーテック・スポーツスペックはeプライマシー、低燃費性能のコンフォート・タイヤを装着している。乗り心地面ではいかにもeプライマシーのほうがよさげだ。
さらにオーテック・スポーツスペックはヤマハのパフォーマンスダンパーをリヤ後端の床下に採用している。ニスモでは同じ場所に補剛バーで使うことでボディ剛性をアップ。パフォーマンスダンパーは微振動を抑え、上質な乗り心地の実現に貢献することが期待されている。
ちょいと小粋で上質なコンパクト・カーVCM(ビークル・コントロール・モジュール)の特性も独自だ。ベース車よりもドライバーのアクセル操作に対して、駆動用モーターがよりレスポンスよく、力強いトルクを発揮する特性が与えられている。オーラにはエコ、ノーマル、スポーツの3つモードがあるけれど、エコモードでベース車のエコとノーマルの中間ぐらい、ノーマルでスポーツ以上、スポーツではさらに鋭いレスポンスが得られるチューニングが施されている。つまり、エコでも速い。ノーマルではもっと速い。スポーツだと、うんと速い。と、感じる。走行中にエコからノーマル、ノーマルからスポーツへとモードを切り替えると、スロットル一定でもスッと前に出る。
ただし、あくまで入力に対してモーターの出力特性を変えているだけで、最高出力と最大トルクを引き上げているわけではない。これはオーラ・ニスモでも、セレナ・オーテック・スポーツスペックでも使われている手法で、加速タイムはベース車と変わらない。
変わらないはずだけれど、日産の追浜のテストコースで試乗した筆者の印象では、開発陣の狙った通り、小股の切れ上がった、ちょいと小粋で上質なコンパクト・カーに仕上がっている。一般道において大事なのはやっぱりドライビング・フィールである。ベースのオーラG、あるいはオーラ・ニスモとの比較試乗はできておらず、あくまでオーラ・オーテック・スポーツスペック単体の、それもセレナ・オーテック・スポーツスペックから乗り換えての印象なので、バイアスがかかっているけれど、エコでもピックアップがよい。静かなことも印象的で、つまり、全開にしなくてもレスポンスがよいから、3気筒を唸らせる場面にならない。よい循環が生まれている。あえて全開にしても、3気筒DOHCは粗雑な騒音をたてない。回っていても、どこか遠くのことのような気がする。
乗り心地はこのクラスの小型車としては上々だ。タイヤのあたりが優しく感じられる。バネレートが前3割、後ろ4割も上がっているとは信じがたい。冷静に考えると、クルマ全体のフラット感はセレナに軍配が上がる。セレナはホイールベース2870mmのミニバンで、オーラは同2580mmの小型車である。私的に小型車に期待するのは乗り心地より、ドライビング・ファンである。これについては、実のところ、追浜のテスコースではよくわからない。ただ、e-POWERはモーターで走るから、そのスムーズなことはEVのごとし、である。日産がプレミアムコンパクトを自負するオーラに、職人魂とスポーティネスのトッピングがかけられ、単なるオーラ以上のスペシャルな仕立てが加えられていることは疑いない。
日産モータースポーツ&カスタマイズ、略称NMCはいい仕事をしている。日産ファンは待っているのだ、“技術の日産”、“走りの日産”の復活を。だって、オーラの場合、ニスモとオーテックを足すと、オーラの全販売台数の10%近くに達している。オーラ・オーテック・スポーツスペックの登場で、15%弱にもなるというのだ。
なので、無責任ながら筆者は提言したい。日産はニッポンを電動化優先市場と決めているけれど、そんなマーケティング、やめちゃえNISSAN!
国内のEVシフトが進まないのはメーカーの責任ではない。本年、北米で発表したVC(可変圧縮比)ターボ搭載の新型「ムラーノ」だとか、425psのVR35DDTTを積んだ新型「アルマーダ」だとか、内燃機関の新型車の国内投入を考えるべきである。もちろん、そのオーテック&ニスモ・バージョンも。
日産ファンは待っている。やっちゃえNISSAN!
文・今尾直樹 写真・田村翔 編集・稲垣邦康(GQ)
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