2008年8月、4代目アウディA4に追加された「アバント」は、プレミアムDセグメントワゴン市場で大きな存在感を示すモデルだった。アウディA4アバントにより、ファッショナブルな価値がこのセグメントに持ち込まれたことにより、アウディ、メルセデス・ベンツ、BMWの3ブランドによる戦いは熾烈なものになっていた。ここでは国内で行われたアウディA4アバント 1.8 TFSI、メルセデス・ベンツC200K ステーションワゴン アバンギャルド、BMW 335iツーリングの、興味深い比較試乗テストの模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2009年4月号より)
3者3様、個性を主張しつつ、それぞれが切磋琢磨を重ねて進化
いわゆるDセグメントのプレミアムサルーン市場を牽引する存在と言えば、BMW3シリーズである。何しろ3シリーズこそ、このカテゴリーを生み出した存在なのだ。しかし、同じセグメントでもワゴンに関しては、必ずしも同じことが当てはまるわけではない。それはアバントという強力なブランドを有するアウディA4が、大きな存在感を発揮しているからである。
●【くるま問答】ガソリンの給油口は、なぜクルマによって右だったり左だったりするのか
それが証拠に、ここ2世代くらいのプレミアム、あるいはその領域を目指すブランドが世に送り出したワゴンの多くは、絶対的な積載量や使い勝手より、ファッショナブルであることやスタイリッシュであることに大きな力を注いできたと言っていい。これが100%と言わないまでも、アウディの影響であることは想像に難くない。
一方そうなると、アウディの立場だって盤石とは言えなくなってくる。そうした背景もあるのだろう。近年のアバントは、従来ないほど実用性への配慮を行き届かせつつある。
要するに実力派ブランドたち達が、それぞれの個性を主張しつつも、互いに切磋琢磨しながら進化の道を辿っているのが、このセグメントのワゴンなのだ。ここでは、そんな流れを大いに反映したアウディ、メルセデス・ベンツ、そしてBMWの3ブランドのDセグメントワゴンを比較検証して、その最新動向をチェックしてみたい。
先代より大きくなることで実用性を高めたA4アバント
まずは、やはりこのクルマから。アウディA4アバントだ。昨年(2008年)8月にデビューした現行モデルはセダンと同じくボディサイズを大幅に拡大。とくに4705mmという全長は、先代に較べてはもちろん、今回引き合いに出す2台よりも明らかに大きく、もはやクラス違いとすら思わせるほどだ。
その一番の狙いは、室内空間の拡大だろう。先代A4アバントはスタイリング重視な上に縦置きFFをベースとするパッケージの影響もあって、ラゲッジスペースも室内も、決して広いとは言えなかった。しかし現行A4アバントは、サイズの余裕を利して室内、とくに後席はライバルたちに遜色ない空間を確保。ラゲッジスペース容量も、通常時490L。最大1430Lと「広い」と表現できる容積を得ている。
もう少し詳しく見ていこう。リアゲート開口部の広さはまずまずだが、開けた時にフロアとバンパーの間に段差が生まれるのは、積み込みやすさの点でマイナスの要素だ。トノカバーは標準装備。跳ね上げることも巻き取らせることもできる。パーテーションネットと別々に取り外すことも可能となっている。
ラゲッジネットなどを取り付けるフックは多数。右側壁面のネット付きポケットは、ネット部分をずり下げれば実質的に荷室の横幅を増やすことになりゴルフバッグなどの搭載に役立つ。フロアボードも、汚れものがある場合には裏返してプラスチック敷きにできるなど、使い勝手についても基本的なところは押さえられている。
では走りはどうか。試乗車の1.8TFSIが積むのは排気量1.8Lの直噴ターボ。これとCVTを組み合わせる走行感覚は独特だ。直噴ターボの威力で極低速域から充実したトルクを発生するエンジンの特性を、CVTが効率良く引き出し、アクセルペダルを深く踏み込まなくてもスルスルと速度が高まる。言い方を変えれば、豊かな低速トルクのおかげでCVTに付き物のエンジン回転の先行感がなく、意のままに走れるのである。たくさんの人や荷物を運ぶ機会が多いに違いないアバントに、この特性はよく合っている。
サスペンションは柔らかめで、日常域の乗り味は優しい。しかし速度が上がると、ややドタドタと足元が暴れる感もある。それでも、長いホイールベースやバランスの良い前後重量配分などが相まって、フットワークはなかなか軽快だ。前が軽い分、急な上り坂などでトラクションが抜けることもあるが、実用に差し支えるほどではない。心地良い走りを思えば納得の範囲だ。
もし、それで不満なら3.2FSIクワトロの用意もある。上質なエンジンフィールや驚異的な安心感をもたらすフットワークは、A4アバントの世界をさらに押し広げるもの。価格差は小さくはないが、選ぶ意味や価値は十二分にあると言えるだろう。
それにしても、改めて見てみると、そのサイズアップはスタイリングへの影響もやはり大きいようだ。とくにサイドビューは非常に伸びやかな印象。この辺りも、開発陣の念頭にはあったと考えるべきなのかもしれない。何しろ、これはアバントなのだから。新しいA4アバントが、持ち前のスタイリッシュな魅力に加え、実用性という価値までしたたかに備え始めてきたことは間違いないと言っていいだろう。
もっともワゴンのイメージに近いCクラス
やはり昨年(2008年)の、こちらは4月に発表されたメルセデス・ベンツCクラスステーションワゴンは、A4アバントとは異なるアプローチを採る。先代では見た目重視で強く寝かせられていたリアゲートが起こされているのだ。これは、実用性に配慮した結果だと謳われている。
しかしそのスタイリングは、とくにサイドビューなど、実際にはかなりスポーティな雰囲気だ。荷室部分をコンパクトに見せるべく、後方に向けてウエストラインをせり上がらせ、ルーフは逆になだらかに下げているのがポイント。スタイリッシュさは、実はより深く追求されている。立てたリアゲートも、ワゴンらしさを強調する演出という側面すらあるのかもしれない。
もちろん演出ばかりではなく、ワゴンらしい使い勝手への配慮も行き届いているのは、さすがメルセデス。まずラゲッジスペースは450L~1465Lと、サイズを考えれば十分以上の容量を確保している。しかし見所は広さだけではない。バンパーとの段差のないフロアは荷物の出し入れが容易。後端部分を軽く押すだけでスルスルと巻き取られるトノカバーも扱いやすく、スマートだ。ネット付きポケット、12V電源、コンビニフックなども用意されており、さらに床下には、折り畳み式のカーゴボックスも収納されている。
細かいところでは、開けたリアゲートを閉めるためのグリップが順手で握れるバー式だったり、手元を照らすライトや後続車へ注意を促す反射板がゲートに内蔵されていたりもする。本当に配慮が行き届いているのだ。
その乗り味は、ワゴンをワゴンらしく使いたいユーザーにとって、まさに望み通りのテイストと言える。標準装備のセレクティブダンピングシステムの効果は大きく、サスペンションは荒れた路面でもしなやかに、したたかに路面を捉え、なおかつ不快なショックを優しくいなす。応答性はそれほど鋭いわけではないが、いざ旋回し始めてしまえば、ロールはしかと抑えられ、安定した姿勢でコーナーを抜けることができる。疲れず快適な上に乗り手の意思に正確に応えるフットワーク。そんな風に評することができるだろう。
C200コンプレッサーは、エンジンも似たようなテイストだ。回り方やサウンドに心ときめかせる要素は少ないが、どこから踏んでもトルクが充実していて走らせやすい。とくに飛び道具も使っていないのに、ことのほか燃費が良いのも嬉しいところだ。
メルセデスの中でも、他銘柄からの乗り換え率がもっとも高いというCクラスステーションワゴン。その、ブランドの威光をひけらかさない適度にしゃれたたたずまいと、しっかり真面目なメルセデスらしさからすると、なるほどそれも頷けるところである。
ワゴンとしての使い勝手と走りを両立する3シリーズ
では、このセグメントのベンチマークである、BMW3シリーズのツーリングの立ち位置は?
まず外観は、何より先にそのコンパクトさが目をひく。とくに4525mmという全長は、Cクラスステーションワゴンより65mm、A4アバントより実に170mmも短い。このサイズに伝統の「く」の字型のリアクオーターウインドウのカットや、クーペのようなルーフラインなどがあいまって、そのルックスはまさにBMWらしいスポーティさに仕上がっている。
ラゲッジスペースは、通常時で460L、最大で1375Lと、容量は3車中もっとも小さい。しかしボディサイズを考えれば、よくぞこれだけ確保できたなという思いの方が大きい。さすがパッケージング巧者のBMWである。
しかも、使い勝手へのこだわりも徹底している。リアゲートは3車中唯一、ガラスハッチの独立開閉が可能。スイッチの操作の仕方で、トノカバーを同時に跳ね上げることもできる。バンパーとフロアの間に段差があり、金属製の保護プレートも付かないのは減点材料だが、やはりネット部分をずり下げることのできるサイドポケット、ラゲッジネット用やコンビニ袋用のフックが豊富に備わり、フロア下にも洗車道具などを入れておけるスペースが確保されている。しかもテールゲートへの反射板、ライトの装備もありと、非常に充実度が高いのである。
難点は乗り心地だ。これは主にランフラットタイヤの採用に拠るもので、道によっては激しく上下に揺さぶられたり轍に進路を取られたりということがいまだに起きる。その代わり、フットワークのスポーティさは断トツ。重めの操舵感をもつステアリングは正確なレスポンスで、ノーズを軽々とインへと向ける。路面が悪くなければという条件付きではあるが、やはりこのクルマとの一体感は絶品だ。
とは言え、これはツーリング。百歩譲って人間は耐えたとしても、大事な荷物あるいはペットは? と考えると、いくら楽しい走りを実現しているとは言っても、満点をつけることはできない。
と言いつつ、ついついハイペースでの走りを楽しんでしまったのは、試乗車がトップレンジの335iだったからだ。低速域から力が漲り、トップエンドまで至極スムーズに吹け上がるこのエンジンの魅力の前には、予算に余裕があればこれを、と言いたくなる。しかし現実的には325i、320iでも動力性能は十分。いずれのエンジンも回りたがる性格の自然吸気だけに、やや線の細い感はあるが、それならそれで回してやればいいだけの話である。
もはやワゴンと言えども、スタイリッシュであることはまったく驚きではなく、むしろ少なくともこのDセグメントに於いては、美しさは必須の条件となりつつあると言っていい。勝負を分けるのは、その上でどこまで使い勝手を高めるか。そこに尽きると言ってもいいのかもしれない。
ただし、使い勝手と言っても、単に多くの荷物が積めるというだけでは足りない。ポイントは、オシャレに使いこなせる能力、とでも言うべき要素。3シリーズのガラスハッチやCクラスのトノカバーなどは、まさにそんな要求を満たすものと言える。使いこなす姿までサマになることが、ライフスタイルカーとしての色彩が強いこのDセグメントのプレミアムワゴンには、欠かせなくなりつつあるということだ。
こうした流れの源流に、アウディのアバントはいる。しかし、競争はますます激化しており、アウディだってうかうかしてはいられないのも事実だ。それこそ、どんなスタイリッシュなアプローチでこの戦いに挑むのか、今後の展開に注目である。(文:島下泰久/写真:村西一海)
アウディ A4 アバント 1.8 TFSI 主要諸元
●全長×全幅×全高:4705×1825×1465mm
●ホイールベース:2810mm
●車両重量:1560kg
●エンジン:直4DOHCターボ
●排気量:1798cc
●最高出力:118kW(160ps)/4500-6200rpm
●最大トルク:250Nm/1500-4500rpm
●トランスミッション:CVT
●駆動方式:FF
●燃料・タンク容量:プレミアム・65L
●10・15モード燃費:13.4km/L
●タイヤサイズ:225/55R16
●車両価格:440万円(2009年当時)
メルセデス・ベンツ C200K ステーションワゴン アバンギャルド 主要諸元
●全長×全幅×全高:4600×1770×1460mm
●ホイールベース:2760mm
●車両重量:1550kg
●エンジン:直4DOHCスーパーチャージャー
●排気量:1795cc
●最高出力:135kW(184ps)/5500rpm
●最大トルク:250Nm/2800-5000rpm
●トランスミッション:5速AT
●駆動方式:FR
●燃料・タンク容量:プレミアム・66L
●10・15モード燃費:11.2km/L
●タイヤサイズ:225/45R17
●車両価格:510万円(2009年当時)
BMW 335iツーリング 主要諸元
●全長×全幅×全高:4535×1800×1450mm
●ホイールベース:2760mm
●車両重量:1690kg
●エンジン:直6DOHCターボ
●排気量:2979cc
●最高出力:225kW(306ps)/5800rpm
●最大トルク:400Nm/1300-5000rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:FR
●燃料・タンク容量:プレミアム・60L
●10・15モード燃費:8.6km/L
●タイヤサイズ:225/45R17
●車両価格:693万円(2009年当時)
[ アルバム : アウディ A4 アバント 1.8 TFSI、メルセデス・ベンツ C200K ステーションワゴン、BMW 335iツーリング はオリジナルサイトでご覧ください ]
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それだけで良いと思います