ポルシェのSUV「カイエン」に設定されているPHV(プラグ・イン・ハイブリッド)グレードの「Eハイブリッド」に小川フミオが試乗した。印象を綴る。
ポルシェらしいハンドリング
自動車メーカーになった男──想像力が全ての夢を叶えてくれる。第21回
ポルシェのカイエンEハイブリッドは、2019年にポルシェジャパンが日本に導入したPHV(プラグ・イン・ハイブリッド)だ。モーターだけで135km/hだせる性能ぶりにくわえ、EV(電動)走行可能距離は最長で44kmと実用性の高さも謳われる。ひとことでいうと、このクルマの魅力は、クルマとしてよく出来ていること。
クルマとしてよく出来ているってどういうことだろう……。SUVはご存じのように、当初、いわゆるヨンクから派生した形態で、いまではクーペルックをうたうSUVが登場するなど、多様性に富んでいる。そこでポルシェが手がけるカイエンが一頭地を抜いていると思われるのは、とびきり操縦性がいい点なのだ。
Hiromitsu YasuiHiromitsu YasuiHiromitsu Yasuiカイエンは初代が2002年に発表され、いまは2018年にフルモデルチェンジした3代目。スタイリングコンセプトなどは大きく変わっていないものの、内容は着実に”進化”している。この場合の進化とは、クルマ好きを喜ばせてくれる方向で改良がくわえられている、という意味だ。
さきに触れたとおり、当初SUVに期待されたのは、使い勝手のよさや悪路走破性だった。背が高いため室内空間に余裕が生まれるとともに、車型として四輪駆動との相性がよく、日本の場合は雪が多く降る地域に住んでいるひとや、ウィンタースポーツが好きなひとに愛好者が生まれた。
Hiromitsu YasuiHiromitsu YasuiHiromitsu Yasuiそのあとの、世界的な人気の高まりは、驚くほどだ。機能性にくわえ、着座位置が高く取り回しに優れるとともに、守られ感が強いというか、一種の安心感を与えてくれるからだろうか。いまは各国のスポーツカーメーカーや超がつく高級車メーカーまでがSUVを手がけるようになっている。
ポルシェは、スポーツカーメーカーでありながら、多様な車体を手がけている。そこにSUVも含まれているのだ。カイエンが登場したとき、私はドバイの砂漠でおこなわれた試乗会に参加した。そのとき強調されたのは悪路走破性で、たしかに試乗して、いたく感心したものだ。
Hiromitsu YasuiHiromitsu YasuiHiromitsu YasuiHiromitsu YasuiHiromitsu Yasuiいっぽう、それだけで終わっていないのが、ポルシェである。オンロードでカイエンにいま乗ると、ポルシェの看板車種「911」との関連性を強く感じさせるのだ。不思議に思われるかもしれない。それは、操縦性とさきに書いたように、ハンドリングのよさである。
911が、これだけ世界中にスポーツカーがあるなかで、ずっと際だった存在であり続けるのは、ステアリングフィールと、操舵したときの車体の反応にある(と私は思っている)。カイエンも、911ゆずりの、すばらしいフィールを持っている。
ステアリング・ホイールを動かしたときの、ボディが向きを変える反応速度や、連動してのサスペンションの微妙な動き……さまざまな要素が統合されて、ドライバーとの一体感が生み出されている。
Hiromitsu YasuiHiromitsu YasuiHiromitsu Yasui操舵に対する反応の速さでいえば、世の一般的なスポーツカーのほうが速いかもしれない。ゴーカートのようにさっとノーズの向きを変え、カーブなどを通過するとき、楽しいなぁと思わせてくれるクルマは少なくない。
でもカイエンを含めたポルシェのように、しなやかに動き、ステアリング・ホイールへの情報(反力とか微妙な振動とか)を通じてドライバーと”会話”をしながら走るクルマとなると、なかなか見つからない。
カイエンより、ルックスが斬新で、キラキラと豪華なSUVもあるなかで、いまも存在感がいっさい衰えていないのは、ドライバーズ・カーであることを、ポルシェの開発陣がずっと追求しているからだろう。
Hiromitsu Yasuiバランスに優れるEハイブリッド
ポルシェがカイエンにハイブリッドモデルを設定したのは、2010年だ。
3代目のハイブリッドモデルの特徴は、当初からの「ターボS Eハイブリッド」にくわえ、今回試乗した「Eハイブリッド」が設定されたことである。ともに外部充電が出来るためパワフルなバッテリーを搭載するプラグ・イン・タイプだ。
Hiromitsu YasuiHiromitsu YasuiHiromitsu YasuiターボS Eハイブリッドは、3996ccV型8気筒ガソリンツインターボ・エンジンにモーターを組み合わせた。680ps(500kW)の最高出力に、900Nmの最大トルク(システム合計)。対して「Eハイブリッド」は、3.0リッターV型6気筒ガソリンシングルターボ・エンジンに電気モーターを組み合わせて、462ps(340kW)、700Nm(同)になる。
数値ではターボS Eハイブリッドに劣るEハイブリッドであるものの、乗ればこれで十分と思わせられる。エンジンとモーターが同じ出力軸を使うパラレル式のハイブリッドシステムを用い、発進時や急加速など、モーターがトルクを上乗せするので、3.0リッターユニットでも十分なスピード感だ。
Hiromitsu YasuiHiromitsu Yasuiオプションのダイナミックシャシーコントロールシステム(PDCC・電子制御可変スタビライザー)の効果が多少なりともあるかもしれない(このオプションは”マスト”かも)。なにはともあれ、911を連想させる、ダイレクト感のある操縦性が、SUVとは思えないほどだ、気持ちよい。
そして足まわりの設定がしなやかで、快適性もしっかりある。やはりオプションのアダプティブ・エアサスペンションに負うところもあるだろう。さらに、リアアクスルステアリング(後輪操舵システム)も選べるので、きついカーブで驚くほど俊敏に車体が向きを変える。同時に高速ではこのシステムの恩恵で、レーンチェンジが安定して出来る。
Hiromitsu YasuiHiromitsu YasuiHiromitsu Yasui2040kgの車重であるものの、重さは感じさせず、乗り心地のよさにうまく活かされていると感じられた。パワーが勝負でなく、クルマとしてのバランスのよさを重視したいというひとには、まさに最適の出来であると思う。
内装もクオリティが高い。センターコンソールにずらりと操作類を並べたデザインは、審美観のちがいで好みが分かれるところであるいっぽう、ダッシュボードやドアの内張の素材は、落ち着いた色調と手ざわりのよさをしっかり追求していて、ぜいたく感がある。
Hiromitsu YasuiHiromitsu YasuiHiromitsu YasuiカイエンEハイブリッドの価格は1275万円で、ターボS Eハイブリッドは2408万円。パワーや価格が圧倒的にちがうので、どちらを選ぶかは、好みの問題だ。あとは、財布の厚さと相談して決めればいい。とはいえ、Eハイブリッドでも必要十分だから、クルマ好きは、まず前者に乗ってみることを勧めたいと思う。
Hiromitsu YasuiHiromitsu YasuiHiromitsu YasuiHiromitsu Yasui文・小川フミオ 写真・安井宏充(Weekend.)
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