1980、90年代の自動車界の大きな特徴に、チューナーズブランドの台頭がある。世界中で様々なカスタムや仕様変更を行うブランドが存在し、そこに多くの自動車ファンは魅了された。そしてまた1台、そんな時代を代表するクルマがオークションに登場した。
文:古賀貴司(自動車王国) 写真:ベストカー編集部
え、プラス700万もしたの…ベンツ500SECのガルウィング仕様衝撃の今
【画像ギャラリー】う、美しすぎる!! 500SECのガルウィングやば!!超絶貴重な内装装備も見てよ(7枚)
■時代を感じさせるチューナー達の百花繚乱ぶり
似合うか似合わないかは別にして、実現させて高額車両として市販化させる技術力は相当なもの。当時のチューナーたちのレベルの高さを感じさせる。
「差別化」は富裕層を魅了してならない。1980年代、自動車において究極の差別化を実現したのが、ドイツのチューニングハウス「スタイリング・ガレージ(SGS)」による異端の傑作「500SGS ガルウィング」であろう。
当時、メルセデス・ベンツのフラッグシップクーペSECは、すでに高級車の代名詞的存在の1つとして確固たる地位を築いていた。しかし、クリス・ハーン率いるSGSは、そこに圧倒的なインパクトを付加した。
伝説の300SL以来、メルセデス本社ですら封印していたガルウィングドアの採用である。1982年の発表時、自動車界に衝撃が走ったのは言うまでもない。そして、価格も衝撃的であった。
ドアの開閉機構を支えるためのボディ補強だけで、ベース車である500SEC(当時の新車価格8万3000マルク)に匹敵する費用が必要とされた。
さらに追加オプションは別会計。しかし、オーナーたちにとって、予算など些末な問題でしかなかったのだろう。
■ライバルたちがこぞって購入したという逸話も
ドアまわりに関して言うと、サイドからの眺めは至って普通のSECに見える。精度は極めて高そうだ。
むしろ「途方もない価格」こそが、彼らの欲望を刺激したのかもしれないゲンバラ、トラスコ・ブレーメン、フランコ・スバッロといった著名なカロッツェリアまでもが、この500SGS ガルウィングを購入。さらなる改造を施して独自の解釈を加えていった。
なかでもフランコ・スバッロは、この発想をさらに推し進め、1986年のジュネーブモーターショーでSクラスの4ドア・ガルウィング仕様を発表。注文主は、贅を極めることで知られるブルネイ国王だった。
11月23日、RM/サザビーズのオークションに出品される個体は、1984年5月に完成した車両である。
ドイツで納車後、カリフォルニア州オークランドのフェラーリ・コレクターが所有。2010年にドイツへ逆輸入された後は、ガルウィングの油圧機構を含む入念なメンテナンスが継続的に施されてきた。
予想落札価格は35万~40万ユーロ(約5700万円~6500万円)と見積もられている。
■一体いくらで落札されるのか注目が集まる
フロアマットもオリジナル品。車両価格を考えれば当然なのかもしれないが、実にいい味を出している。
近年、ベースとなる500SECや560SEC自体の価値も上昇傾向にあるが、それ以上に80年代の過激なチューニングカーへの評価が高まっている。バブル期を象徴する「狂気」は、いまや確かな投資対象へと昇華したのだ。
1950年代の300SLから、2010年代のSLSまで、メルセデス・ベンツが約60年もの間ガルウィングドアの採用を控えていた事実は、SGSの挑戦の大きさを物語る。
同時に、その空白期があったからこそ、チューナーによる究極の差別化が可能になったとも言えるだろう。
総生産57台と言われる500SGS ガルウィング、新たなオーナーによってノスタルジックな差別化が図られることだろう。と同時に80年代の熱狂という歴史的価値が、どのくらい評価されるのか見ものである。
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