売れ線の軽自動車といえば後席にスライドドア、そして背の高いモデルである。その代表格なのがホンダ N-BOXなのだが、実はこの市場を開拓したのはダイハツ タントであった。だが、今の販売ランキングを見ると後発のスペーシアにすら負けてしまっているのだ。元祖モデルがなぜイマイチな売上なのか!?
文/青山尚暉、写真/DAIHATSU、HONDA
N-BOXよりセンパイなのになんで……タントがイマイチ売れないワケ
■今や軽は新車市場の4割! 軽EV登場でさらに躍進か!?
ホンダ N-BOX。スライドドア付きのスーパーハイトという売れ線軽自動車の条件を満たした人気車だ
近年、日本のガラパゴス的な軽自動車の売れ行きが大きく偏っている。そう、N BOX、スペーシア、タント、ルークスといったスーパーハイト系軽自動車が圧倒的に売れ、月によっては普通乗用車を含む売れ行きでトップの座に着くことさえあるほどなのである。
例えば2022年2月。乗用車の販売台数ランキング1位はトヨタ カローラの1万2636台。それに対して同2月の軽自動車販売ランキング1位のホンダ N-BOXはなんと1万9974台と、約37%も上回る売れ行きを記録しているのである。
日本の自動車の約40%が軽自動車であり、価格や維持費面のメリットも影響しているのかも知れないが、軽自動車人気は都会、地方を問わず、相変わらず絶大ということだ。そして軽EVの日産サクラ、三菱ekクロスEVの登場でさらに活気を増すことだろう。
■広すぎる後席がキモ! 背高の軽が売れるのは納得
スーパーハイト系軽自動車が一世を風靡し続けているのは、例えばホンダN-BOXを例に挙げると、カスタムモデルのミニステップワゴンスパーダを思わせる、堂々感あるエクステリアデザイン。ワンステップの低床、両側スライドドアによる後席の乗降性の良さ、そして何と言っても広大すぎる室内空間に理由がある。
具体的には、身長172cmの筆者のドラポジ基準(前席はもっとも低い位置にセット)で前席頭上に290mm、フラットフロアの後席頭上に250~265mm(後席スライド位置による)、膝周り空間に驚愕の最大355mmものスペースがある。
後席の広々感が分かりやすい膝周り空間は、ダイハツ タントは最大420mm、日産 ルークスは最大400mm、スズキ スペーシアも最大340mmとなり、いずれもコンパクトカーはもちろん、大型セダンをも大きく上回るほど。一度、スーパーハイト系軽自動車の後席に座ると、もう後戻りできない!? のも納得なのである。
■スーパーハイトワゴンの元祖はタント……今やN-BOXの半分以下しか売れず
スーパーハイト系軽自動車の元祖であるダイハツ タント。初代はホンダN BOXより8年も早い2003年に登場している(写真は現行型)
ところで、軽自動車販売ランキングで常に上位を独占しているスーパーハイト系軽自動車をイメージした時、真っ先に売れ行き絶好調のホンダN-BOXを想像する人も多いはず。スーパーハイト系軽自動車の代表格、元祖と思いがちだが、決してそうではないのだ。
スーパーハイト系軽自動車の元祖、そのジャンルを確立させたのは、いち早く2003年にデビューしたダイハツ タントであり、ホンダN BOXはそれから8年後の2011年、スズキ スペーシア、日産 デイズルークス(当時のモデル名)はそれからさらに2年後の2013年に登場しているのだ。
初代タントのホイールベース2440mm、室内長2000mm、全高1725mmは、当時の軽自動車として最大であり、まだリヤヒンジ式ドアではあったものの、室内空間の広さに誰もが驚いたものだった。
2007年、つまりホンダN-BOXがまだ登場するずっと以前に発売された2代目では、ついに軽自動車初となる助手席スライドドア、それもセンターピラーレスのミラクルオープンドアを採用。子育て世代に大きくアピールできたのである。
そして2019年には4代目へと進化。ロッキーにも使われるダイハツ最新のプラットフォームDNGAを贅沢にも用い、使い勝手、走行性能の飛躍的な向上を果たしているのである。
特に助手席380mmのスライド機構に加え、運転席540mmのスライドを実現させ、ミラクルオープンドア側から運転席へ室内ウォークスルーが可能。
例えば、母親が後席に子どもを乗せたあと、車外に出る。あるいは車道側回り込むことなく、運転席に移動できるようになったのだ。
雨の日、交通量の多い道での便利さ、安全性が飛躍的に向上していると言ってよく、合わせてクルマに戻った際、スライドドアが自動でオープンする、軽自動車初のウエルカムオープン機能(要予約操作)も日常使いの中で便利なのである。
2021年の一部改良以降、全車速追従機能付きACC(アダプティブクルーズコントロール)、ターボモデルの電子パーキングブレーキ&オートブレーキホールド機能、コーナリングトレースアシストの追加など、上級車さながらの高機能装備を用意し、自慢の先進運転支援機能のスマアシとともに、タントの先進性、商品性を大きくアップしているところだ。
が、そんなスーパーハイト系軽自動車の元祖であるダイハツ タントが今、苦戦している。軽自動車販売ランキングを見てみると、2022年3月は1位N-BOX、2位ルークス、3位スペーシア、4位タント。4月は1位N-BOX、2位スペーシア、3位ルークス。
直近の5月は1位がスペーシアに入れ替わり、2位N-BOX、(3位ムーヴ)、4位ルークス。タントはなんと9位に沈んでいる。その販売台数は後発のスペーシア、N BOXの半分にも満たない。どうした、タント!!
■タント売れないワケはイメージにあり!? 乗れば申し分ないのに……
好き嫌いが別れるタントのセンターピラーレスのミラクルオープンドア(写真は2013年登場の3代目)。ピラーの役割をドアフレームに持たせて強度を保ったまま開口部を広くし開放感を高めた
筆者が独断で考える理由はまず、軽自動車のスーパーハイト系が、上記の使い勝手や居住性の良さから、上級車からのダウンサイジングとして好まれている事実があると思う。となると、より多くの人にアピールできるのは、子育てカーとしてのイメージが強いタント以外になりがちなのではないか。
子育て世代ではないユーザーにとっては、タント=子育て世代御用達軽自動車というイメージが引っ掛かる、のかも知れない(カスタムだとかなり精悍になるが、タントの主流ではない)。
N-BOXはもはや定番であり、2021年12月の一部改良で待望の電子パーキングブレーキ、およびオートブレーキホールド機能を追加。その結果、ACC(アダプティブクルーズコントロール)はN-BOXとして初の渋滞追従型となり、その魅力、機能が一段と高まっている。
スペーシアには時流に乗ったSUVテイストあるギヤがある。ルークスに至っては、デイズ同様にプロパイロットやSOSコールなどの先進的切り札がある。
そしてもうひとつは、2代目以降のタントの売りである、センターピラーレスのミラクルオープンドアの好き嫌いだろう。
先代ホンダ ステップワゴンが便利すぎるテールゲートにわくわくゲートのサブドアを採用し、第五のドアとして、テールゲート側から人や犬が乗降でき、車体後方にスペースのない場所でも荷物の出し入れが可能になるなど、楽しさと便利さがあった。
だが、ほかにないテールゲートの左右非対称デザインなどによって一部ユーザーから不評を買い、販売が低迷。新しい6代目ステップワゴンではそのわくわくゲートを諦めた……という経緯が示すように、ミラクルオープンドアの便利さが、スライドドア部分の特殊性の好き嫌いに負けた、と言えるかもしれない。
「センターピラーレスの大開口は便利そうだけど、柱が(ピラー)がないのはちょっと不安」と感じる人もいるはずである。もちろん、ピラーの機能はドア側に持たせているため、ほぼ余計な心配なのだが……。
ちなみにタントの名誉のために言っておくと、2021年9月の一部改良以降のターボモデルに試乗した印象では、ボディ剛性、走行性能に関して、目に見えない熟成、進化が見られたことも報告しておきたい。
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みんなのコメント
その分、運転席側がパワースライドドア標準装備でないので、すごく使い勝手が悪い。