トヨタは全チャネル併売を開始し、車種整理に余念がない。しかし、併売前の4チャネル体制時には、兄弟車も含め、数多くの新型車を世に送り出してきた。販売実績が芳しくなく、一代限りで消えていったクルマも多いが、ユーザーや販売店の記憶に残るクルマは多くある。
今回は、元トヨタディーラー営業マンの筆者が、販売記録は残さなかったものの、人々の記憶に残り、販売現場で話題に上がったクルマを紹介していく。
文/佐々木亘 写真/TOYOTA、編集部
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■iQ
IQ/全長×全幅×全高:2985×1680×1500mm、エンジン:直3、996cc(68ps/9.2kgm)、価格:154万2857円(100G)
全長2985mmと軽自動車より40cmほど短く、セカンドカーとして検討されることが多かったiQ。乗車定員は4名だが、リアシートに大人が乗るのは、かなり厳しいクルマだった。
軽自動車では何だか不安だからと、奥様や大学生の子どものためにiQを求めに来る。興味関心をそそるクルマなのだが、実際にiQと対峙すると、「これなら軽でもいいか」か「ヴィッツを買うか」のどちらかに転がり、iQは買われないことが多かった。
エクステリアデザインは評判がよく、中古車展示場にiQがあると、必ずと言っていいほど、「このクルマ見せてください」と声がかかる。しかし、ドアを開けて乗り込みエンジンをかけたところで、途端に購入熱が冷めていくのがわかってしまう。
日本ではなじみの薄いマイクロカーとしての存在が、乗り手を選ぶクルマだったようにも思える。ガソリンエンジンではなく、電気自動車でデビューしていたら、評価が大きく変わっていたかもしれない。
■SAI
SAI/全長×全幅×全高:4695×1770×1485mm、パワーユニット:2.4Lハイブリッド(システム出力190ps)、価格:304万6909円(S Cパッケージ)
2009年に、プリウスに次いでハイブリット専用車として販売されたSAI。
トヨタ全チャネルで取り扱い、各チャネルにおける、セダンの泣き所をしっかりと埋めてくれる存在だった。クラウンの下、カムリの少し上のような立ち位置が、特に高級セダンを専売車として持たない、カローラ店やネッツ店で好意的に受け入れられる。
しかし、トヨタには、各チャネルに代表的なセダンがあり(トヨタ店・クラウン、トヨペット店・マークX、カローラ店・カローラ)、知名度が伸びなかった。
全高が高く、室内の居住性が高いセダンであったが、それゆえにワンモーションフォルムのエクステリアとなる。綺麗な3ボックスセダンとは言い難く、上級セダンとしての格式を持てなかったように思う。
販売側にとっては、提案できる客層が広く、使い勝手のいいクルマであった。デビュー当初は人気も高く、ユーザーの反応も悪くないクルマだったが、最終的には名とおったセダンに競り負ける。
SAIは、性能が足りないわけではなく、ネームバリューで負けてしまい、契約につながらなかったクルマのひとつだ。フルモデルチェンジは一度もなく、マイナーチェンジ1回限りで2017年にドロップアウトした。
■アベンシス
アベンシス/全長×全幅×全高:4780×1810×1480mm、エンジン:直4、1986cc(152ps/20.0kgm)、価格:250万円(Xi)
1998年、欧州専売車種として初代アベンシスが登場する。2代目からは日本市場にも導入された。イギリスで生産されたクルマが、日本に送られてくるという、ちょっと変わったトヨタ車である。
どっしりとしたボディと、硬めのサスペンションチューニングが、欧州輸入車のような雰囲気を醸し出し、話題性の高いクルマであった。
話題性はあったものの、実際に取り扱うと、他のトヨタ車とは違う部分に、売り手側が戸惑うことになる。
イギリス製造のため、リードタイムが長くなり、新車の納期が遅い。また、ブレーキパットがあっという間になくなってしまい(高摩擦ブレーキパットのため)、トヨタ車に慣れたオーナーが購入すると、納車後に不満を言われることもあった。
話題にはなるものの、セールス側としては、積極的に販売しようという気にならず、結果として販売台数が伸びなかったクルマだ。2018年に国内での販売を終了し、イギリスでの生産も同年終了する。
■ステーションワゴン(クラウンエステート、マークXジオ等)
マークXジオ/全長×全幅×全高:4715×1785×1550mm、エンジン:直4、2362cc(163ps/22.6kgm)、価格:277万円(G)
最後は、特定のクルマに絞れることができない。商談やオーナーとの会話の中で、よく話題のぼるが、実際に販売が奮わなかったトヨタ車は「ステーションワゴン」の大半が該当する。
クラウンエステート、マークXジオ(マークIIブリッド)、ビスタアルデオ、カムリグラシアのような、セダンから派生したステーションワゴンの名前は、生産が終了して10年以上の年月が経過しても、販売現場でよく耳にする。また、マイナーなクルマではあるが、オーパの名前が挙がることもある。
もちろん、すべて絶版車であり、新車を契約することはできない。中古車で探すにしても、年式が古く、トヨタ認定中古車の基準を満たすものが少ないため、実際に、筆者が販売したのも数台だけだ。
しかし、上記車種にカルディナを加えた、トヨタのステーションワゴンは、よくSUVやミニバンの商談中に名前が挙がる。その話の多くは、「またあんなクルマを作ってくれないかなぁ」と、ステーションワゴンを熱望する声である。
現在、新車で購入できるトヨタのステーションワゴンは、カローラツーリングだけだ。もう少し選択肢が増えることを、筆者も切に願う。
* * *
人気があり支持を受けるのは売れるクルマであるが、好かれるクルマには直結しない。どんなに不格好でも、機能的に劣っていても、人々の心の隙間にピタリとはまるクルマたち。そういうクルマが好かれるクルマなのかなと筆者は思う。
メーカーとしては販売台数を競い、利益を上げるなかで、不要なお荷物となったクルマもあるかもしれない。それでも人々の記憶に残り、いつまでも話題にあがるクルマたち。彼らに愛おしさを感じてしまうのは、私だけだろうか。
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