ホンダはフルラインナップメーカーとして、NSXから軽トラックまで多種多様なラインナップを誇るホンダ。
しかし最近はどうにもN-BOX以外の車種の元気がない。ホンダはこのままでは軽自動車一辺倒になってしまうのではないだろうか?
価格は700万円台?? ミドシップ化は60年前からの悲願?? 新型コルベットの温故知新
販売台数の格差が大きすぎるのはホンダにとってもマイナスだし、ユーザーにとってもいいクルマが生み出されないという結末が待っている。
なぜこのような販売台数格差が出てきてしまうのだろうか。渡辺陽一郎氏に聞きました。
文:渡辺陽一郎/写真:編集部
■レジェンドはN-BOX比で0.2%しか売れていない現実
どこのメーカーでも、販売の好調な車種と不人気車は台数格差が大きいが、ホンダは特に顕著だ。
2019年上半期(1~6月)の国内販売台数を見ると、N-BOXは以前と同様、国内販売の総合1位を独走する。
N-BOXの完成度、そして人気の高さは自他ともに認めるところだろう。しかしフルラインナップメーカーとして全体の3割以上を1車種が担うというのは、今後を考えればかなりいびつな情勢だ
2019年上半期の届け出台数は13万1233台で、1カ月平均が2万2000台近くに達した。2019年上半期の総合2位はスペーシアの8万9750台だから、N-BOXは半年で4万台以上の差を付けた。超絶的な人気車だ。
そうなるとホンダの国内販売におけるN-BOXの比率も高まる。2019年上半期に国内で売られたホンダ車の内、33%がN-BOXであった。
このほかの売れ筋車種は、N-BOXに比べると販売台数が一気に下がるものの、フリード(2019年上半期の登録台数は4万5548台)、フィット(4万5089台)、ヴェゼル(3万3445台)、ステップワゴン(2万9295台)になる。
これら1位のN-BOXから5位のステップワゴンまでを合計すると、28万4610台で、国内で売られたホンダ車の70%に達する。
逆に売れ行きが伸び悩む車種は、例えばレジェンドが6カ月間で250台程度にとどまる。N-BOXの0.2%だ。
レジェンドはN-BOX比でたったの0.2%しか売れていない。もちろん高額車であり、需要の少ない大型セダンとはいえやや厳しい現状だ
プラグインハイブリッドのPHEVを加えたクラリティは、1カ月に多い時で20台程度だから、半年でもわずか100台前後になる。
またインサイトは、売れ筋ハイブリッド車の印象があるが、2019年上半期は5867台であった。
1カ月平均が1000台を少し下まわり、N-BOXの約4%だ。シビックはインサイトよりも少し多く、2019年上半期は6743台であった。オデッセイは7887台、CR-Vは9590台で、1カ月平均にすると1000~1500台のグループを構成している。
そしてこのグループよりも売れ行きの少し多い中間層はほとんどなく、シャトルの月販2300台くらいだ。
つまり今のホンダ車の売れ行きは台数格差が激しく、前述したN-BOXからステップワゴンまでの上位5車グループが筆頭に立つ。
そしてCR-Vやシビックといった月販平均1000~1500台の中堅グループ、さらにレジェンド、アコード、グレイス(最近は売れ行きが下降)、ジェイド、クラリティといった月販台数が500台を下まわる下位グループに大別される。
ジェイドは走りもいいのだがいかんせんコンセプトが日本市場からは受け入れがたく、今や「知る人ぞ知る名車」になりつつある
ホンダの国内販売格差が広がった理由は複数あるが、まずはホンダ車全体の70%を占めるトップ5車で、生産と販売が飽和状態に達していることだ。
ホンダカーズ(ホンダの販売店)に尋ねると「N-BOX、フリード、フィットなどの販売で、今はそれなりに忙しい。
そしてアコードやレジェンドなどのセダンは、積極的に売れ行きを伸ばせるクルマではないから、希望するお客様に販売している。主に歴代モデルに乗っているお客様が購入されている」という。
またインサイト、シビック、CR-Vについては販売現場の悩みもあるようだ。
「かつて販売を一度終了したことが、今の売れ行きに影響を与えた。生産や販売を終えると、他メーカーのライバル車に乗り替えてしまうお客様も多い。
数年後に販売を再開しても、お客様が戻るとは限らず、乗り替え需要は期待しにくい。新規投入車種と同じような売り方になる」とコメントがあった。
■所得変わらずクルマは値上げ!! 小さなクルマが売れるのは当然の結果
ホンダの国内販売を支える上位5車種の内、トップ4車のN-BOX、フリード、フィット、ヴェゼルは、軽自動車と全長が4400mmを下まわるコンパクトな車種だ。
フリードは2列シートも選べるミニバンで、フィットはベーシックなコンパクトカー、ヴェゼルはSUVだから、ひと通りのカテゴリーがコンパクトなサイズでそろう。
小さなクルマに乗り替えるダウンサイジングの流れに沿って、これらのコンパクトなホンダ車が売れ行きを伸ばし、今の台数格差に繋がった。
この背景には、最近のクルマの値上げもある。安全装備や環境性能が充実して価格が高まったから、ユーザーが購入するクルマのサイズを小さくしているわけだ。
ヴェゼルなどのコンパクトSUVの販売が堅調なのもかつてのラージミニバンからの乗り換え層が多いようだ
例えば今から7年前の2012年に販売されていた先代ステップワゴンスパーダSは、価格が249万8000円だった(消費税は5%)。
現行ステップワゴンスパーダ・ホンダセンシングは285万2280円だから、安全装備の充実は歓迎されるものの、価格は約35万円高い。
一方、フリードに1.5Lのノーマルエンジンを搭載するGホンダセンシングは210万円だ。サイド&カーテンエアバッグやLEDヘッドランプなどをオプション装着しても233万円くらいだから、先代ステップワゴンスパーダSよりも若干安い。
つまり7年前に先代ステップワゴンを購入したユーザーが、新たにホンダのミニバンに乗り替えようとした場合、現行ステップワゴンでは予算が超過する。ピッタリなのがフリードになるわけだ。
一般的にファミリーユーザーがクルマを買おうとした場合、2000年頃までは価格の上限は200万円前後といわれていた。
従って1990年代の中盤に発売されたステップワゴンやCR-Vの初代モデルは、売れ筋の買い得グレードを180~200万円に設定していた。
それがフルモデルチェンジを繰り返す度に、安全装備の充実などによって価格を高め、近年ではファミリーユーザーの上限価格が250万円とされている。
7年前に売られていた先代ステップワゴンスパーダSは、ちょうどこの価格帯に収まった。カーナビや諸費用を加えても、多少の値引きがあれば、300万円以下で購入できた。
ところが現行ステップワゴンスパーダ・ホンダセンシングのように車両価格が280万円を超えると、予算も300万円を上まわってしまう。
これでは予算オーバーだから、必然的にダウンサイジングすることになり、フリード、ヴェゼル、フィットなどが売れ筋になった。
フィットはホンダのコンパクトの救世主となった過去もあるが、グローバルモデルとして堅実な開発を続けてきた。販売の推移は堅調だ
平均所得の伸び悩みもある。平均所得は1990年代の後半まで伸び続けたが、そこから下降に転じた。
最も平均所得が低かったのは、リーマンショック直後の2009年で、そこからは徐々に伸び始めたが今でも20年前の水準には戻っていない。所得が減ってクルマの価格が高まったのでは、売れ筋が小さなクルマに移るのは当然だ。
悲観的な話にも聞こえるが、ホンダが国内販売を維持する上で、今のラインナップは巧みな戦略であった。
仮にフリードやヴェゼルが用意されていなければ、ホンダ車のユーザーが他メーカーに流出したことも考えられたからだ。
N-BOXの好調で国内で売られるホンダ車の50%が軽自動車になったが、前述の小型車も好調だから、ホンダの国内販売順位はトヨタに次ぐ2位になっている(以下3位はスズキ、4位はダイハツ、5位は日産)。
■販売店統合で薄れてしまったホンダの個性
このほかホンダ車に販売格差が生じた理由として、2000年代の中盤以降に行われた販売系列の撤廃もある。
以前はクリオ/ベルノ/プリモに分かれ、レジェンドやアコードはクリオ店、シビックはプリモ店が専売車種として大切に販売していた。この系列が撤廃されて、全店が全車を扱うようになり、売れ筋車種が低価格化している。
系列化の時代は、軽自動車を扱うのはプリモ店だけで、ベルノ店はインテグラ、プレリュード、NSXなどスポーツモデルの販売に専念した。
やはりホンダの復権は次期フィットが大きなカギになるのか??(画像はベストカー予想CG)
それが全店併売になると、一斉に販売しやすいN-BOXを数多く売るようになってしまう。系列化の時代には、わずか1車種の軽自動車がホンダ車販売の30%以上を占めるとは、予想もしなかった。
軽自動車が販売比率を高めると(新型車のN-WGNも好調に売れる)、軽自動車の増税話が持ち上がる。
すでに軽乗用車の軽自動車税は、年額7200円から1万800円に値上げされた。公共の交通機関が未発達な地域では、高齢のユーザーが、軽自動車を使って通院や買い物をしている現実がある。
これ以上の軽自動車増税は、ライフラインを直撃するから絶対に避けねばならない。
そうなるとホンダを含む自動車業界にとって大切なことは、魅力的な小型/普通車を開発して売れ行きを伸ばすことだ。
2019年10月25日から一般公開される東京モーターショーでは、ホンダが次期フィットを披露する。
軽自動車をたくさん売るなら、それ以上に日本国内で好調に売れる小型/普通車を開発する必要がある。
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