アウディ傘下への転身から始まった近代ランボルギーニへの軌跡
1975年、週刊少年ジャンプで連載が始まった『サーキットの狼』。主人公である“風吹裕矢”が駆るロータス ヨーロッパと激しいバトルを繰り広げるスーパーカーに子供たちは一喜一憂した。その熱狂は大きな反響を呼び「スーパーカーブーム」という社会現象を巻き起こしたのである。
池沢早人師が愛したクルマたち『サーキットの狼II』とその後【第27回:新時代のランボルギーニ】
絶大な人気を博した自動車漫画のパイオニアは、現在の日本の自動車産業を支える開発者、デザイナー、レーサー、自動車評論家、そしてクルマファンなど自動車に関係する多くの人々に大きな影響を与え、『サーキットの狼』の洗礼を受けた元祖スーパーカー小僧たちによって現在の自動車産業界が支えられていると言っても過言ではない。
そんな名作を手掛けた池沢早人師先生はスーパーカー界の第一人者としても知られ、80台にも迫る愛車遍歴を築き上げてきた。また、自動車評論家としても活躍し、取材や試乗を通して数多くのスーパーカーのステアリングを握っている。そこで今回は、池沢先生のスーパーカー人生の中で記憶に残った2台のランボルギーニについてお話を伺いたい。
Lamborghini Murcielago
荒れ狂う猛牛がスマートさを身に付けた「ムルシエラゴ」
ボクにとってランボルギーニというクルマは特別な存在だ。『サーキットの狼』を描くきっかけとなったクルマの一台がランボルギーニ ミウラであり、流れるような美しいフォルムとV型12気筒エンジンの咆哮に大きな衝撃を受けた。当時の日本は自動車産業の黎明期であり、高性能モデルでも100ps程度と脆弱だった。それに比べ300psオーバーのミウラは本当に別次元の存在だった。
ボクは1979年にランボルギーニ カウンタック LP400Sを手に入れたのだが、戦闘機のような挑戦的なフォルムと跳ね上げ式のシザーズドアに圧倒された。ミウラとカウンタック、この2台に出逢っていなければボクの漫画家としての成功は無かったかもしれない。それほどまでにランボルギーニというクルマはボクにとって大切な存在であり、その気持ちは半世紀を経た今も変わっていない。
ただし、当時のランボルギーニはクセの強さも強烈で、乗り手を選ぶことは当たり前。さらには個体差が大きく、後に手に入れるディアブロまでそのDNAは受け継がれていた。ランボルギーニはマスプロダクトのクルマではないから仕方がないとは思うが、本当に当たり外れが大きい自動車メーカーだった。
ランボルギーニの血脈を継承したV12エンジン
そんな印象が強かったランボルギーニだが、2001年に出逢った「ムルシエラゴ」からイメージが変わり始めたように思う。それまではイタリア車として許されていたアバウトさが、アウディ傘下となりゲルマンの血が入ったことにより完成度を向上させていった。ただしそれは先代モデルのディアブロに比べての話。まだまだドイツ的な生産管理は徹底されてはいなかったが、確実に近代ランボルギーニへの進化は始まっていた。
ムルシエラゴのデザインはカウンタックのアニバーサリーに比べると洗練されたものとなるが、インパクトが薄れたと感じたのはボクだけではないはずだ。しかし、デザイン重視ではなくしっかりと空力を考えた“まとまり感“は悪くない。ボディ両サイドのエアダクトやリヤスポイラーが可動式なのも楽しいギミックだし、全モデルにビスカスカップリングを使った4WDを採用したのも画期的だ。
スタイルが大きく変わった反面、メカニズム的にはディアブロから継承した部分は少なくない。角型の鋼管スペースフレームも継承したものであり、何と言っても搭載される60度のバンク角を持つV型12気筒DOHCエンジンもディアブロから引き継がれている。6.2リッターへと排気量はアップしているものの、カウンタック用に開発されたエンジンだから「カウンタック~ディアブロ~ムルシエラゴ」と3世代に渡って使われたことになる。アウディ傘下になったとは言え、このエンジンの継承が“最後のランボルギーニ”と言われる所以なのかもしれない。
21世紀のランボルギーニは遥かに乗りやすくなった
実際にドライブして強く印象に残ったのはカウンタックやディブロに比べて格段に乗りやすくなったこと。ステアリングは素直でクイック、6速セミATの「Eギア」はパドルシフトが備わり、変速はナチュラルで扱い易い。ランボルギーニの伝統だった大雑把な感覚は少なくなり、日常的に乗れるスーパーカーになったのは大いに評価したい。でも、個人的には面白さが薄れた気がしないでもない・・・。
エンジン自体はランボルギーニの豪快さを残しつつフルタイム4WDがしっかりと路面を捉えてくれるので安心してアクセルを踏み込むことができる。特にグリップ力が落ちるレインコンディションでは大パワーを前後に振り分けてくれる4WDの恩恵は大きな武器になるはずだ。580psの最高出力はパワフルではあるものの決して粗暴なイメージではない。唯一気になったのはディアブロに比べて全長が10cmほど長くなったことで、取りまわし時などにボディサイズを大きく感じてしまうことだろう。
古き良き時代のランボルギーニの匂いを残しながらも近代スーパーカーとしてのスマートさを身に付けたムルシエラゴ。それを残念と感じるか、歓迎するのかはオーナーの年齢にもよると思う。ボクのようにミウラやカウンタックに洗脳されてしまった世代が、アウディ傘下となりスマートになっていく猛牛にノスタルジーを感じてしまうのは罪なことなのかも知れない。
Lamborghini Gallardo Spyder
食わず嫌いを思い知らされた「ガヤルド スパイダー」
硬派な印象が強いランボルギーニだけに、ボクは“スモールランボ”として話題を呼んだ「ガヤルド」に興味が湧かなかった。現在、フェラーリではV型8気筒を搭載した“スモールフェラーリ”が主流になっているが、ランボルギーニがアウディ製のV10エンジンを手に入れたことで同じ路線を選択してしまったことに違和感を覚えたのだ。
まぁ、ルーツを辿ればウラッコやシルエット、ジャルパなどの“ベビーランボ”と呼ばれたモデルは存在したのだが、ミウラやカウンタックを超えることは決して無かった。ガヤルドの後継モデルとなるウラカンからV10シリーズはV12を積んだフラッグシップモデルと同等の扱いを受け始めたのも、拒否反応の原因なのかもしれない。
F1GPでもV型10気筒エンジンが大きく活躍した昨今、決してV10エンジンを否定する気はない。当初は「12気筒の豪快さが無く、8気筒よりも重い」というネガティブな印象が大きかったが、逆を言えば「12気筒よりも軽く、8気筒よりも豪快」と受け止めることもできる。ガヤルドに搭載されるV10エンジンはアウディ傘下となった証とも言え、多くのパーツをアウディ R8と共用しているが、実際に運転してみると低回転域でのトルク感も強く、500ps(初期モデル)というパワーは申し分ない。
カウンタック LP400に通ずるプレーンなデザインを纏う
この頃になるとドイツ流の製品管理が徹底されたのか、ランボルギーニのお約束であった“個体差”がなくなったことも大きな魅力になったと聞く。ボディはアウディ製のアルミ素材を使ったスペースフレームが採用され、高い剛性感と軽量さを誇る。資料ではボディ単体の重量は250kg(クーペモデル)となり、車両重量は1.5トンほどだから優秀だ。
ガヤルドのデザインはスマートでシンプル。個人的な感想としては初期のカウンタック LP400が持っていたプレーンな印象があり悪くない。手掛けたのはムルシエラゴと同じルク・ドンカーヴォルケだというから納得だ。ただし、残念なことに空へと跳ね上がるシザーズドアは封印され、オーソドックスな開閉方式が採用されている。
剛性感あふれるボディで爽快なオープンエアを楽しめる
スモールランボに興味がなかったボクだが、2005年に某編集部から「ガヤルド スパイダーに乗りませんか?」とお誘いを頂き、贅沢な物言いだがスパイダーなら乗ってもいいか・・・と思い快諾。あまり期待していなかったのだが、取材現場に現れたスパイダーは凛として華があったことを今でも鮮明に覚えている。低く構えたボディに20秒程度で開閉できる電動式のソフトトップルーフを備えたスタイルはとても刺激的で、ステアリングを握るのが楽しみになるワクワク感を備えていた。
試乗場所は季節に恵まれた芦ノ湖スカイライン。森の静寂を切り裂いて咆哮を上げるスモールランボは軽快さを武器にボクを驚かせてくれた。気になっていたV10エンジンはスムーズでアクセルペダルを踏む右足の強弱に敏感に反応してくれた。ボクのなかでスタンダードになっていたランボルギーニの「重・硬・猛」のイメージは一瞬にして砕け散り、オープンボディにも関わらず高い剛性感を武器にコーナーを駆け抜けるスモールランボに夢中になった。
“ハイテンション”をもたらす近代ランボルギーニの傑作
ムルシエラゴで感じた近代ランボの印象はガヤルドによってさらに鮮明なものとなり、ランボルギーニが新たな時代へと突入したことを強烈に経験させられた。軽快にして豪快なV10エンジンとオープンボディでありながらも驚異的な剛性感を持つガヤルド スパイダー。その素晴らしさは当時ボクの愛車であったフェラーリ 360スパイダーを遥かに凌ぎ、近代ランボルギーニとしての魅力に満ち溢れた素晴らしい一台として記憶に刻まれた。何と言ってもドライビングすることでハイテンションになるという“オプション”は力強い。
余談にはなるが、同じエンジンを搭載するアウディ R8はどうなのかと聞かれれば、ボクの中では全く異なるクルマだと思っている。V10エンジンこそ共用するパーツが多いものの、その優等生ぶりに面白味を感じることができず“良くできたスポーツカー”という印象が強い。それだけに「ランボルギーニ ガヤルド スパイダー」というクルマの特異性が際立ってしまうのかも。
長きに渡り数多くのスーパーカーと過ごしてきたボクだが、ガヤルド スパイダーに出逢ったことで「食わず嫌いはいけないこと」だと大いに反省させられた。既存のイメージに左右されることなく正しいスタンスでクルマに向き合っていくことをガヤルド スパイダーから学んだ。
一世を風靡した猛牛は本当の意味で跳ね馬に肩を並べた
ボクが描いた『サーキットの狼』。そのストーリーにはミウラやカウンタックが登場し、主人公の“風吹裕矢”と共にバトルを繰り広げる。当時のランボルギーニはフェラーリへの対抗意識が強く、常に後ろから猛追する強力なライバルであった。フェラーリとのバトルでは、カウンタック LP400が最高速度を300km/hと公言し対抗心をむき出しにしていた。しかし、それはあくまでも「猛追」であって決して「比肩」ではない。
ところが、近代ランボルギーニはドイツの自動車哲学をバックボーンに取り入れることで技術力と共に生産性の向上など、自動車メーカーとして飛躍的な進化を遂げた。昔のランボルギーニを愛する一部マニアが「ランボルギーニは終わった・・・」と言うこともあるが、個人的にはそれは違うと思っている。確かに古き良き時代の猪突猛進さを失ったかもしれないが、世界最高峰のスーパーカーメーカーへと成長するための犠牲だったのかもしれない。
草創期から跳ね馬のスリップストリームに入っていた猛牛は、ムルシエラゴやガヤルドを経て現在のアヴェンダドールやウラカンへと進化を遂げた。今やホームストレートエンドで跳ね馬のスリップストリームから抜け出し、その横へと並んだランボルギーニ。近い将来そのインにズバッとノーズを差し込み、スーパーカーの頂点を奪取する可能性さえ予感させる。その意味でもここで紹介したムルシエラゴとガヤルド スパイダーは、近代ランボルギーニの礎を築いた重要なクルマとしてボクの脳裏に焼き付いたのかもしれない。
TEXT/並木政孝(Masataka NAMIKI)
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