■日産のフラッグシップとして誕生した「インフィニティQ45」を振り返る
1980年代の終わりに、日本は好景気に湧いていました。後にバブル景気と呼ばれ、当時は国民の中流意識が高まり、自動車市場では高額なモデルが続々と誕生した時期でもあります。
そのバブル景気のピークだった1989年に、日産はアメリカで高級車ブランドの「インフィニティ」を立ち上げ、ホンダの「アキュラ」、トヨタの「レクサス」と覇権を争うことになります。
そして同年、インフィニティのフラッグシップモデルとして「Q45」を発売し、日本でも1988年発売の初代「シーマ」よりもさらに上級のプレステージセダン、日産「インフィニティQ45」がデビュー。
この、まさにバブルの申し子といえるインフィニティQ45について、振り返ります。
※ ※ ※
インフィニティQ45は「ジャパンオリジナル」をコンセプトに開発され、従来の高級車像にとらわれない世界に通用する日本独自の価値を追及したセダンです。
グリルレスとした独創的なフロントフェイスや、七宝焼きのエンブレムなど、日本の伝統工芸も採用されました。
ボディサイズは全長5090mm×全幅1825mm×全高1435mmと、初代シーマの全長4890mm×全幅1770mm×全高1380mmより、ひとまわり大きく、特徴的なフロントフェイスと相まってワイド感が強調されています。
全体のフォルムは2880mmのロングホイールベースにより、伸びやかで重厚感のあるサイドビューを演出。6ライトウインドウのキャビンを小さく見せることで、よりボディが大きく見えました。
また、高級感を演出するために樹脂製が一般的だったドアハンドルをダイキャスト製とするなど、見た目だけでなく触れた時の印象にもこだわっています。
搭載されたエンジンは新開発の4.5リッターV型8気筒DOHCで、最高出力は自主規制上限の280馬力を発揮。トランスミッションは4速ATのみで、駆動方式はFRの2WDです。
足まわりには4輪ともマルチリンクが採用され、路面追従性に優れ、当然ながらスポーティさよりも乗り心地の良さを追求したセッティングとなっていました。
さらに、市販車としては世界で初めて、油圧アクティブサスペンションをグレード別で設定。路面状況や速度、走行シーンに応じてアクティブにサスペンションのバネレートや減衰力を制御することで、高い走行安定性と乗り心地の良さを両立するなど、先進技術が搭載されています。
内装ではシート生地にウールやレザーの素材が用意され、欧州の高級車のようなウッドパネルは使われることなく、あくまでも和にこだわった漆塗りのインパネをラインナップ。
スイッチ類はしっとりとした操作感となっており、車載工具の品質にまでこだわるなど、フラッグシップにふさわしく入念につくりこまれています。
そして、まさにバブルを象徴するようなオプションとして、52万円の18金製キーや、最高286万円のダイヤ入りキーが設定されるなど、贅の極みといえるクルマです。
なお、1989年当時の新車価格(消費税含まず)は520万円から630万円と、シーマよりも平均150万円ほど高く設定されていました。
■大きなテコ入れがありながら終焉を迎える
インフィニティQ45は、大きな変更が一度だけおこなわれています。それが1993年のマイナーチェンジで、フロントにメッキで加飾された小ぶりなグリルを装着。
当初、個性的な高級車を目指して採用したグリルレスのフロントフェイスでしたが、日本で高級車を購入できるユーザーは比較的保守的とあって、インフィニティQ45のデザインには賛否両論ありました。
そのため、フロントグリルが追加され、より高級車らしいデザインへと一新したということです。
また、インフィニティQ45をベースとした派生車として、1990年に3代目「プレジデント」が登場。ホイールベースを150mm延長したロングホイールベース仕様も設定されました。
外観ではインフィニティQ45に先駆けて荘厳なイメージのフロントグリルが装着され、内装もシルクウールのシートを標準装備。コノリーレザーのシートがオプションで設定され、室内の静粛性も向上するなど、生粋のショーファードリブンカーへと変貌しています。
インフィニティQ45はほかにも装備の充実が図られるなどの改良がおこなわれましたが、一方で七宝焼のエンブレムの廃止といったコスト削減も図られるなど、この時から終焉に向けてのカウントダウンが始まったといえます。
その後、バブル崩壊の余波もあって販売が低迷したため、インフィニティQ45は1997年に生産を終了。3代目シーマに統合されるかたちで、国内では一代限りで消滅してしまいました。
※ ※ ※
シーマは高額な高級車でありながらも想定外にヒットしたことから、「シーマ現象」なる言葉が生まれ、後世でも語り継がれていますが、インフィニティQ45はそうした足跡を残すことなく消えてしまいました。
日産は現在までインフィニティブランドを日本で展開していませんが、バブル崩壊がなければ、インフィニティQ45に続くモデルがあったかもしれません。
しかし、インフィニティブランド成功の礎になったことは確かで、インフィニティQ45の存在は不可欠だったといえるでしょう。
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みんなのコメント
その点、プレジデントはうまくまとまっててカッコ良かった。
どちらも個性があって素晴らしいクルマだったが、Q45の和的なデザインに成熟したクルマ文化を感じた。日本が作り出したクルマだった。
グリルレスの風貌は、神社仏閣を感じられて好きだった。