先日開催された、新型クラウンクロスオーバーの公道試乗会の際、同乗していた編集の方のひとりが、ひどいクルマ酔いをする、という出来事があった。
クルマに同乗していたのは筆者とカメラマン、編集者2名の計4名、一般道と高速道路の片道40kmの道のりを、前後列を途中で入れ替えての試乗であった。様子がおかしいのに気が付いたのは、撮影取材を終えて集合場所に戻ってきたあと。酔いを感じたひとり以外は何の症状もなかった。
なぜかクルマ酔い? 新型クラウンクロスオーバー試乗会で起きたことを分析してみた
クラウンクロスオーバー側に原因があったのか、その他の要因があったのか、クルマ酔いのメカニズムと共に、考えられる原因について、深堀してみようと思う。
文/吉川賢一
写真/TOYOYA、Adobe Stock、池之平昌信
クルマの性質のほか、体質や体調、運転操作によっても引き起こされる
睡眠不足による体調不良や空腹の状態のほか、体感情報と視覚情報にズレが生じるとクルマ酔いを引き起こしてしまう(metamorwork – stock.adobe.com)
クルマ酔いをした編集さんに、試乗会当日の様子について、いくつかインタビューした。試乗会当日、集合時間は早い時間だったが、朝食はいつも通りに取っていたそうで、寝不足もなく、体調は万全のつもりだったとのこと。ただし久々の試乗会の現場で、かなり緊張していたそうだ。
また、普段は軽自動車を運転するとのことで、クラウンクロスオーバーは前席、後席ともに柔軟性のあるシートに感じ、絶えず浮遊感があったそう。そして、助手席に座っていた往路よりも、後席に座った復路の方が辛かった、とのことだった。ただ、復路で後席に乗ったもうひとりは、クルマ酔いの症状は一切なかったという。
クルマ酔いは、体質によるところも大きいのだが、考えうる要因はいくつかある。体調がよくなかったり、食べすぎや空腹の状態でクルマに乗っていた、直前に柑橘系のドリンクを飲んだ(みかんやオレンジといった柑橘類は胃酸の分泌を促すため)などだ。また、走行中のクルマの中で本やスマホを見ていると、体感情報と視覚情報にズレが生じ、自律神経のバランスが崩れることで、クルマ酔いの状態となってしまう。逆に、進行方向を見て、クルマの動きが予測できると、酔いにくくなる。
また、お子さんに多いのが、「クルマの臭い」によるクルマ酔いだ。子供は大人よりも臭いに敏感。嗅覚は、脳を直接刺激し、その刺激が自律神経を刺激することで、クルマ酔いを引き起こしてしまう。
クルマ側で考えられる原因としては、シートクッションが柔らかくてフワフワしていたり、サスのバネやダンパーの効きが極端に弱く、上下の揺れが大きいと、場合によってはクルマ酔いの原因になる可能性はある。逆に、バネやダンパー特性が硬めだと、路面段差からの衝撃がダイレクトに人体へかかる場合も同様だ。
また、ドライバーの運転操作によっても、クルマ酔いになってしまうことがある。「急」がつく操作、具体的には、急ブレーキ・急発進・急ハンドルなどは、同乗者の頭が前後左右に振られやすく、平衡感覚が狂うことでクルマ酔いしやすくなる。特に、スピードを出しがちな運転だと酔いやすい。普段は60km/hで走っているコーナーを、20%ほど速い72km/hにしただけで、身体が受ける左右加速度は1.45倍にもなり、酔いやすくなる。
上下のボディモーションはやや大きめながら、サス設定に特段酔いやすくなる原因は見当たらない
新型クラウンクロスオーバー Gアドバンスレザーパッケージの内装
試乗した新型クラウンクロスオーバーは、2.5Lハイブリッド「Gアドバンスレザーパッケージ」(税込570万円)、21インチのミシュランeプライマシー(225/45R21)を装着した、内装「フロマージュ」カラーの本革シートのモデルだ。「DRS(後輪操舵)」は全グレード標準装備であるため、特に、交差点などでの低速小回りはかなり機敏だ。電制ショック「AVS」は含まれていない(上級グレードRSのみ標準設定)。
新型クラウンクロスオーバーの乗り心地は、先代のダンピングが効いた欧州車のような乗り味とは違い、ソフトな印象。21インチタイヤの突起ショックをいなすためか、圧縮側の減衰が緩めに設定されており、それに伴って、伸長側も減衰が低くなっている様子がある。
そのため、路面に大きめのうねりがあると、上下に動くボディモーションはやや大きめに現れる。ちょっと昔のクラウンロイヤルの乗り味に近い印象だ。ただし、これくらいの乗り心地の設定は、大きめのSUVやミニバンでもよくある特徴であり、クラウンクロスオーバーだけが特別、「緩いサス」ということではない。
また一般的に、開発の段階で、酔いやすい周波数を避けるよう、上下バネ定数やロール方向周波数を、おおよその相場の範囲に入るように考慮されており、クラウンクロスオーバーもその範囲にあるように思う。
●柔らかいシートには問題はなさそう、あるとすると後席からの前方視界??
また、前後席シートは共に、尻下のクッションの厚みを充分に確保しているので座り心地がソフトだが、ソファのように、上下にボヨボヨと跳ねることはなく、体重をかけるとすっと沈み込むような印象だ。ショルダー部分には大きなサポートもあり、左右への身体の振れは少なく、後席シート自体には要因はないように思う。
ただし、前席シートの背もたれが大きく、後席からの前方視界は、あまりよくない。トヨタのエンジニアによると、後席から前席をのぞき込むようなスタジアム感をなくし、後席乗員へ包まれ感を与えたかったそう。クルマ酔いをした編集さんは後席に乗っていた時のほうが辛かった、ということなので、この前方視界がよくなかったことが原因となっている可能性はあるかもしれない。
サス特性と運転操作、そこへ緊張が重なって引き起こされたか? それとも?
また、運転操作にも問題があった可能性はある。乗り心地を確かめながら走った往路では、レーンチェンジも最低限に、ゆったりと流すイメージで走行していた。だがクルマに慣れてきた往路では、試乗会の集合時間が迫っていたことや、勝手を知る地域の高速道路ということもあって、コーナーもやや飛ばし気味で、往路よりもスピードレンジは高かった(もちろん制限速度の範囲内で)。
総括すると、今回のクルマ酔いは、上下左右のボディモーションが大きめに出るサス特性に加えて、クルマ酔いを引き起こした編集さんが後席に乗った復路では、往路よりも少し速度レンジが高かったために余計にボディモーションが出てしまっていたため、酔いやすい状態であった。加えて、当事者が当日緊張していたという心理的要因も重なり、クルマ酔いを引き起こしてしまったのではないか、と考えられる。また、後席からの前方視界がよくなかったことも関係している可能性はあるかもしれない。
同じタイミングで後席に乗っていたもうひとりが何ともなかったことを考えれば、当事者の緊張がやはり一番大きな要因であったのだろう。新型クラウンは、個人的には、さらにソフトなサス設定であってもよいと思うが、これらを考えると、できれば、上下のボディモーションを抑制する電制ショック(AVS)は、ベースグレードでも必要かもしれない(AVSは上級グレードRSのみ)。
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