正式な価格発が発表される2023年9月20日を前に、BYDの国内導入モデル第二弾となるコンパクトBEV「ドルフィン」の試乗会が開催された。ごく短時間の試乗ではあったが、小さなクルマと電動化技術の相性の良さを、改めて実感することができた。
伸びやかなホイールベースが躍動感あふれるシルエットを演出
2022年から本格的な日本参入を果たしたBYD。第一弾モデルとなるATTO 3(アットスリー)は、通なクルマ好きの間でもかなり高い評価を受けている。とくに注目すべきは、価格まで含めたトータルバランスにとても優れているところだろう。
●【くるま問答】ガソリンの給油口は、なぜクルマによって右だったり左だったりするのか
ほどよく個性的な内外装デザインは年齢性別を問わず受け入れられやすく、安全装備をはじめとする機能の充実ぶりも満足感が高い。操縦性は極めて素直で乗り味も穏やか。突出した「凄さ」ではなく、長く付き合いたくなる「味」がある。
今回、試乗会が開かれたドルフィンは、そんなアットスリーの弟分に当たる。ボディサイズは、ひとまわり以上小ぶりな全長4290×全幅1770×全高1550mmで、アットスリーより165mm短く105mm幅が抑えられ、65mm低い。欧州勢のコンパクトBEVとしては、フォルクスワーゲンID.3に近い。
にもかかわらずホイールベースは2700mmと、アットスリー比で20mmほど短いだけ。そのためか、総じてシルエットは伸びやかかつ引き締まった印象を受ける。海洋生物が持つ自然に醸し出された美しさをモチーフとする「オーシャンエステティックデザイン」は、躍動感と親しみやすさのバランスが絶妙だ。
ホイールベースの長さは居住空間のゆとりにもしっかりつながっていて、特に後席の足元空間の広さは実車を見てもそうとうなインパクトがあった。荷室自体は驚くほどの広さはないものの、後席背もたれを倒すことで生まれるフラットなカーゴスペースは、使い勝手もよさそうだ。
ちなみに1550mmという全高は、日本市場向けに設定された数値。グローバルモデルより20mm車高が下げられている。その理由は、都市部のマンションなどに多い機械式駐車場にフィットさせるためだという。
日本向けのローカライズとしてはほかにも、右ウインカー化、CHAdeMO式充電器への対応、音声認識の日本語対応など、多岐に渡っている。ペダル踏み間違いによる誤発進を抑制するシステムまで日本市場向けに開発している。
タイヤについても、然り。本国では中国メーカーの専用チューニングタイプが採用されるようだが、国内向けはブリヂストン ECOPIA EP150を採用する。日本市場でコンパクトカーに求められるニーズを、しっかり研究していることがわかるだろう。V2H/V2Lにもしっかり対応、いざという時に頼りになることは間違いない。
機能性に富むインターフェイス。デザインは意外なほど上級志向
日本市場に導入されるドルフィンは2タイプで、差別化の中心はパワートレーンにある。ベーシックな「BYD DOLPHIN」はバッテリー容量が44.9kWh/モーター最高出力70kW(95ps)/最大トルク180Nm(18.4kgm)で、一充電の走行距離はWLTC値(自社調べ)で400kmを実現している。
より上級の「BYD DOLPHIN Long Range」では、それぞれ58.56kWh/150kW(204ps)/310Nm(31.6kgm)/476km。航続距離こそ9kmほど及ばないものの、パワートルクは兄貴分のアットスリーと同等だ。今回はまず、そちらのLong Rangeを中心に試乗することができた。
コクピットに乗り込んでまず驚いたのは、キュート系のルックスとは裏腹に、ほどよくスポーティな雰囲気が漂っていることだった。リズミカルな波のうねりをイメージさせるインストルメントパネルは、中層部分にトレイ上の張り出しを設けるなどデザインが立体的で機能性にも富む。
ピアノブラックの加飾も含めて各部の素材はクオリティ感が高く、エントリークラスとしての安っぽさはまったく感じさせない。ちなみに試乗車はスキーホワイト+アーバングレーのツートンで、内装色はシックなブラック+グレーだったが、他のボディカラーではピンクやブルーなど、華やか系コーディネイトも楽しめる。
ステアリングはベーシックカーにありがちな華奢な円形ではなく、握りごたえがしっかりしたD字型を採用する。コラム上に配された小ぶりなTFT LCDマルチメーターとあいまって、欧州コンパクトモデルのスポーティグレードに共通するような上質感さえ漂わせている
ヘッドレスト一体型のシートもまた、スポーティかつ上質なドライブ体験を演出してくれるアイテムのひとつ。運転席/助手席ともに電動アジャスト機能が標準装備される(それぞれ6/4ウェイ)ところもポイントが高い。
高い機能性をわかりやすく実感させてくれるのは、インパネセンター上部に配された12.8インチインテリジェント回転式タッチスクリーンだろう。いわゆるタブレットタイプのマルチタスクなインターフェイスで、脱着こそできないものの、横位置と縦位置を必要に応じて選ぶことができる。
駐車場などで全方位カメラの映像を確認しながらクルマを動かすときや、停車中などに動画コンテンツを楽しむ場合はもちろん横位置が最適。一方で、経路案内中のカーナビゲーション画面は、縦位置で見るのがおススメだ。
センターコンソール部に設定された円筒状スイッチの操作は、シンプルにわかりやすいワンタッチ切り替え式が採用されている。一番右側がD/N/Rレンジを切り替えるタイプでNに入れる時だけ少しコツがいる。それでも、すぐに独特の操作性にも慣れることができた。
使いこなすのが楽しくなる、スマートなパワーフィール
見た目やコクピットの印象と同様に、ドルフィンの走りはとても親しみやすいものだった。運転していてストレスを感じさせない。さまざまな意味で「フィット感」に富む。
走りはじめからハンドルの操舵感はナチュラルで、スピードを上げていくにつれてほどよい手ごたえとともに適正な接地感を伝えてくれる。ECOPIA EP150は専用チューニングでこそないものの、不快な振動成分やノイズを巧みに抑えた乗り味を実現している。
街中でのコーナリングや交差点を曲がる時など、日常的に挙動の素直さが実感されるのも平均的なドライバーにとってはセールスポイントになりうるだろう。
床下に駆動用バッテリーを配することによる低重心化による姿勢のフラット感はもちろんだが、前後方向の重量バランスにも優れているように思えた。2WDなので複雑な駆動力制御などは介入していないはずだが、回頭感は極めてスムーズで落ち着いている。もしかするとBYDが「8 in 1」と呼ぶ、統合型電動アクスルによる恩恵があるのかもしれない。
腕に覚えがあるドライバーにとっては、アクセルペダルの踏み込みにリニアに反応する、軽快なダッシュ力が魅力だろう。コンパクトなボディと200ps超の電気モーターとの組み合わせは、十二分に力強い。走行モードはNORMAL/ECO/SPORTと切り替えることができるが、NORMALでもゆとりを持って流れをリードすることができる。
興味深いのは、トルクの立ち上がりや速度の伸びが全域できわめて自然でスムーズなところ。減速時の回生も驚くほどよどみなく、ブレーキング時の違和感を覚えることはほとんどなかった。
すべてが、街乗りでの扱いやすさにつながっている。もしももうちょっと刺激が欲しいかな・・・と感じたなら、SPORTモードを試してみるといい。アクセルコントロールに対するダイレクト感が明らかに変わる。
ほんのさわり程度しか乗れなかったけれど、70kW仕様(車重は160kgも軽い)でも動力性能的に不満を感じることはなかったことをお伝えしておこう。昨今、BEVの世界でもハイパワーぶりを強調するモデルは少なくないけれど、得てして持て余し気味。ドルフィンなら、その持てるポテンシャルをしっかり使い切った気分になれそうだ。
もちろんそれは、走りの楽しさに限ったことではない。無駄を廃したサイズ感、ちょうど良い+アルファの広さなど、普段使いも含めてクルマが持つ才能を「もれなく使いこなす」のはきっとこの上なく楽しい。
幼児置き去り検知システムを採用。安心感も全方位でサポート
最後に、できれば「もれなく使いこなす」ことがないほうが良いけれど、やはりついていると心安らかになれる安全支援システムの充実ぶりをお伝えしておこう。
カメラはADAS専用マルチカメラ1基に全方位ビュー兼用を含めた合計5基を装備。さらにミリ波レーダーが5つ、超音波センサーが8つ配され、全方位を監視する。各種制御に関しては欧州サプライヤーのシステムを採用しているそうだ。
アダプティブクルーズコントロール(ACC)は、速度0~120km/hの間でレーンキープアシスト機能(LKA)を組み合わせるとともに、緊急時にハンドル操作をアシストする緊急時レーンキープアシスト機能も備えている。ちなみに通常時のLKAは介入が穏やかな印象で、あまりでしゃばってこないところが個人的には気に入った。
ADASとは別建てのサポート機能となるが、日本市場においても実にタイムリーな新しい支援システムが幼児置き去り検知システム(CPD)だ。これは、車内のルーフ部前後2カ所に設置されたミリ波レーダーが、車内に残った生体を検知した時、ライトの点滅とホーンによって車外に通報してくれるもの。一定時間、対応がない場合には、自動的にエアコンを作動させるというから、まさに至れり尽くせりと言えるだろう。
正式な価格発表は2023年9月20日。さまざまな意味でコストパフォーマンスが優れたBEVというと日本には日産サクラ&三菱eKクロス EVがあるけれど、BYDドルフィンはコンパクトカークラスにおける「新たなBEVスタンダード」として、多くのユーザーに受け入れられることになりそうだ。(写真:伊藤嘉啓)
■BYD ドルフィン Long Range 主要諸元【】内はスタンダード
全長×全幅×全高:4290×1770×1550mm
ホイールベース:2700mm
車両重量:1680【1520】kg
パワートレーン:フロント1モーター
最高出力:150kW(204ps)/5000-9000rpm【70kW(95ps)/3714-14000rpm】
最大トルク:310Nm(31.6kgm)/0-4433rpm【180Nm(18.4kgm)/0-3714rpm】
最小回転半径:5.2m
駆動方式:FWD
一充電走行距離(WLTCモード):476【400】km
バッテリー種類:リン酸鉄リチウムイオンバッテリー
総電力量:58.56【44.9】kWh
CHAdeMO 対応:85【65】kW
タイヤサイズ:205/55R16
車両価格:2023年9月20日発表予定
[ アルバム : BYD ドルフィン試乗 はオリジナルサイトでご覧ください ]
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めちゃくちゃ安いな