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トヨタが開発に力を注ぐ“水素エンジン”とは?

掲載 更新 16
トヨタが開発に力を注ぐ“水素エンジン”とは?

トヨタは、水素を燃焼させることで動力を発生させる「水素エンジン」を開発し、レースに投入した。あまり知られていない水素エンジンの仕組みや、トヨタが開発を急ぐ理由などを世良耕太が解説する。

EV化への危惧

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トヨタ自動車は、5月22日~23日に富士スピードウェイで行われたスーパー耐久シリーズ2021の第3戦「NAPAC 富士SUPER TEC 24時間レース」(以下、富士24時間)に、水素エンジンを搭載した車両を投入した。

“水素エンジンでレースに出よう”と発案したのは豊田章男社長であり、自身がチームオーナーを務めるROOKIE RacingではMORIZO名でドライバーを務めた。富士24時間では自ら体を張って水素エンジン搭載車のステアリング・ホイールを握った。

豊田社長にはMORIZOの他にも“顔”があり、日本自動車工業会会長もそのひとつだ。その自工会会長として昨年末から訴えていることがある。「カーボンニュートラルへの道はひとつではない」、と。菅義偉内閣総理大臣は2020年10月26日、臨時国会の所信表明演説で「2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」と宣言した。2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにするという意味だ。

その切り札が電気自動車(EV)とされている点に、トヨタ自動車の社長として、あるいは自工会会長として豊田章男氏は危惧を抱いているのだ。日本には自動車関連企業で働く人たちが550万人いるが、世の中すべてのクルマがEVになったら「100万人が職を失う」と。

エンジンを残しながらカーボンニュートラルに向かう道があってもいいのではないか……。そのひとつの方策が水素エンジン車というわけだ。水素エンジンは燃焼に際して、温室効果ガスの代表的な成分である二酸化炭素(CO2)を排出しない。排出するのは大部分が水蒸気だ。

モータースポーツにいきなり水素エンジンを持ち込んだのは、スピード感をもって技術を鍛えられるからだ。社長が「やろう」と言い出したのは2020年11月。そこからほんの数カ月でエンジンを仕立て、車両を作り込んだ。4月22日には「水素エンジンでレースに出る」と、公式発表をおこなったが、その時点ではまだ、エンジンの耐久テストは終わっていなかったという。

外見はカローラ・スポーツ、中身はGRヤリス

井口卓人、佐々木雅弘、MORIZO、松井孝充、石浦宏明、小林可夢偉が交代でドライブしたORC ROOKIE Corolla H2 Conceptはその車名が示すとおり、現行の「カローラ・スポーツ」がベースだ。第2戦まではGRヤリスで参戦していたのに、なぜカローラ・スポーツに変更したのか? といえば、この活動が世界に発信されることを予測し、トヨタの伝統あるモデルを選んだというのが表向きの理由。

本当のところは、高圧水素タンクの搭載スペースを確保するためだろう。水素カローラはGRヤリスよりも広い後席スペースに、燃料電池車のトヨタMIRAIが搭載する高圧水素タンクを4本積む。水素を気体の状態で70MPa(大気圧の約690倍)の圧力で圧縮し、蓄えておく。MIRAIは大(64L)、中(52L)、小(25L)3本の高圧水素タンクを積むのに対し、水素カローラは中を2本、中をベースに短くしたタンクを2本積む。総容積は180Lだ。

水素カローラの有効搭載量は未公表であるが、MIRAIが総容積140Lで約5.6kgの搭載量だと公表されているので、水素カローラは計算上、満タンで約7.1kgの水素を搭載出来る。MIRAIは水素と空気中の酸素を化学反応させて発電し、モーターを駆動して走る。一方、水素カローラは水素をガソリンのかわりに燃焼させて走る。富士24時間では、全長4.563kmの富士スピードウェイをワンタンクで12周前後走った。一給水素あたりの走行可能距離はガソリンエンジンを搭載する車両よりも格段に短く、水素搭載量を増やすこと、燃費を向上させること、給水素時間を短縮することは今後の課題だ。

エンジンはGRヤリスとおなじG16E-GTS型の、1.6リッター直列3気筒直噴ターボを搭載する。駆動方式は4WDで、「GR-FOUR」と呼ぶ電子制御4WDシステムを搭載する。電磁クラッチで発生させる多板クラッチの押し付け力によってリアへのトルク配分を制御する仕組みで、いってみればGRヤリスが搭載するシステムとおなじだ。水素カローラはカローラ・スポーツのナリをしているが、パワーユニットはGRヤリスそのものである。

メリットとデメリット

決定的に異なるのは、ガソリンではなく水素を燃料とする点だ。液体のガソリンではなく気体の水素を噴射するため手をくわえたというが、インジェクターはガソリン用を転用。水素はガソリンに比べて燃えやすく、燃焼スピードが速いのが特徴だ。これらの特徴を生かせば希薄燃焼のポテンシャルが開けるし、熱効率を向上させ、パワーと燃費を両立することができる。

一方で、異常燃焼の一種である「プレイグニッション」が壁となって立ちはだかる。燃えやすい性質が裏目に出て、点火プラグで火花を飛ばす前に、火がついてしまうのだ。散発的に発生するなら大事に至らないが、“暴走”が始まるとエンジンを壊してしまう。富士24時間では筒内圧センサーで計測したデータをもとに燃焼の様子を監視し、プレイグニッションが発生したら迷いなくピットに入れる態勢を整えて走行を見守った。

水素エンジンとは直接関係のないトラブルで長時間をガレージで過ごす場面も見られたが、水素カローラは24時間レースを無事完走。周回数は358周で、総走行距離は1634km。給水素は35回おこなった。ベストラップは2分4秒台で、ガソリン・エンジン搭載のGRヤリスの11秒落ちである。水素カローラのエンジンは発展途上であり、水素タンクや計測機器の搭載で約200kg重くなっている点を差し引いて考える必要がある。

水素はピットレーンの外側に仮設のステーションを設けて充填した。街なかにある燃料電池車向けの移動式水素ステーションを運び込んだ格好である。福島県浪江町にある「福島水素エネルギーフィールド」で製造(太陽光発電で水を電気分解。ゆえに、CO2は排出しない)した水素をトレーラー4台分運び込んだ。

トヨタ自動車とROOKIE Racingはスーパー耐久シリーズの残りのレースにも水素カローラを投入する予定にしており、富士24時間で得られた知見を生かす考えだ。

肝心のエンジンについては、できるだけ早い段階でGRヤリスが積むガソリンエンジン並みの出力(200kW、272ps)を発生させ、水素エンジンのポテンシャルを証明するのが当面の目標とのこと。

改善の余地はあるが、水素エンジンに未来があるのは間違いないなさそうだ。今後の進展に注目したい。

文・世良耕太

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みんなのコメント

16件
  • 「二酸化炭素排出量を減らす」のが自動車メーカーに課されている命題で有り「電気自動車を作れ」とは言われていない。
    課題へのアプローチは様々あって良く、コレしか正解はないと言うものでも無いだろう。
    水素エンジンがどの様な場面でどの様な用途の車に相応しいのかはこれからの研究次第。
    個人的にはモーター駆動一辺倒の電力自動車には生産資源のリスクが付き纏うと思う。
    何より排気音が良いと思う。
  • まだまだ課題はあるけど、それでもBMWやマツダの頃に比べれば滅茶苦茶進化した。
    カワサキも水素バイクを作るのでどんな性能か楽しみ。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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