運営元:旧車王
著者 :林哲也
スーパーアメリカンフェスティバル2023レポート【後編:~70'sホットロッド・ピックアップ等】
東京モーターショー改め、Japan Mobility Show 2023(以下、JMS2023)。
10月末から11月頭にかけて東京ビッグサイトで開催され、111万人の来場者を集めました。
テーマは「盛りたい未来を、探しに行こう!」。
強い意気込みを感じるイベントだったと思います。
コロナ禍を経て、4年ぶりに帰ってきた日本最大の自動車ショー。
きっとこの記事を読まれている旧車ファンの方々からも、多くの関心を向けられたことでしょう。
取材して感じたことを、1人の若者・1人の旧車ファンなりに綴ってみようと思います。
■序章:モーターショーって、なんだか縁遠いものだと思っていた私(ライター・林)は21歳の大学生。
世間的には“若者”として括られる年齢ではありますが、旧車が大好きです。
たくさんの先進機能が付いたイマドキのクルマよりも、よりプリミティブ(根源的・素朴)な旧車を運転した方が楽しいと、常日頃から考えてしまいます。
モーターショーの主役は、当然ながら大抵が最新のコンセプトカーたち。
奇抜で先鋭的なデザインに、何がどうなっているのか見当がつかないような最新メカニズム。
これらに圧倒されるのです。
旧車王ヒストリアの読者のなかには、きっと同じように考える方も多いはず。
そういう訳で、懐古主義の私にとって、モーターショーはいささか難解な場所。
「Japan Mobility Show」って、名前からしてすごく未来チックで付いていけ?かしら…とか思っていました。
しかしそれは杞憂、JMS2023では、多くの収穫を得られたように感じます。
■JMS2023で気になったクルマたち●BMW VISION NEUE KLASSE「ヴィジョン・ノイエ・クラッセ」というこのクルマ、古典的な佇まいと未来感が融合していて、洗練された雰囲気が魅力的でした。
ベロア生地の黄色いシートも非常にキュート。
シンプルなデザインながら、張りのある面構成で存在感はバッチリです。
ヘッドライトとグリルが繋がるフロントフェイスからは、1961年に発売されたBMWのセダン、ノイエ・クラッセへのオマージュがうかがえます。
典型的な3ボックスのフォルムや横長のテールランプは、往年の3シリーズ(E21型・初代)を彷彿とさせるもの。
BMWのデザイン史からの引用が自然で、どこか懐かしさを感じる気がするのです。
●HONDA SUSTAINA-C Conceptなんといっても、古のホンダ シティを思い出す外装デザインが魅力的。
タイヤを四隅に置き、踏ん張り感をヒシヒシと感じるところがシティにそっくりです。
ソリッドな面構成に鮮やかな赤いボディカラー、そして愛嬌のある丸目ヘッドライト…見れば見るほど懐かしい、そんなイマドキのコンセプトカーに親しみやすさを感じた方は少なくないはず。
隣に並んで展示されていたのは「Pocket Concept」という二輪モビリティ。
こちらはモトコンポやスカッシュといった、昭和のホンダ製原付バイクを意識していることがはっきりとうかがえます。
どこかフューチャーレトロな雰囲気に、無条件に惹かれてしまいます。
●MAZDA ICONIC SPJMS2023の会場内で、最も人だかりができていたクルマといっても過言ではないでしょう。
深紅の塗色が眩しいクーペ・スタイルのボディデザインはあまりにも妖艶で、会場を訪れた多くの人を虜にしていたように感じます。
もちろん私もそのひとり。
このクルマがアンヴェールされたとき、ひと目で「FD(RX-7)の再来だ」と感じました。
大きくラウンドしたリアウィンドゥに、ルーフから継ぎ目なく繋がるBピラー、そして最大の特徴ともいえるリトラクタブル・ヘッドライトなど、デザイン要素の節々からRX-7の面影を感じます。
真新しくありつつも、クラシカルな佇まいを固持した1台です。
■私たちと未来のクルマを繋げる、旧車のエッセンスご紹介した3台に共通している特徴は、なんといっても、デザインの随所に旧車から得たインスピレーションの痕跡が見られる点でしょう。
先鋭的なコンセプトカーには眩暈がしてしまう私にとっても非常に親しみやすい、真新しくもどこか懐かしいコンセプトカー。
モーターショーって、思ったよりも難解なものではなかったのかもしれません。
私が生まれる以前から連綿と進化を続けてきたクルマは、まさに今、大きな転換点を迎えています。
今までのクルマづくりにおいて大前提とされてきた内燃機関を“諦め”、多くの制約のなかで、環境保全のための新たなる動力源を模索しているのでしょう。
そんななかで、コンセプトカーは“きわめて先鋭的”であるべきものではなくなってきていると感じます。
コンセプトカーって、もっとヘッドライトが細くて吊り上がっていて、見たこともないようなドアの開き方をするべきものだと思っていました。
もちろん、超未来的なコンセプトカーもJMS2023の会場内では見られたのですが、より“現実的な親しみやすさ”を感じさせるコンセプトカーが増えてきたことは、旧車好きにとっては非常に喜ばしいことです。
その一方で、個人的に親しみ(≒旧車とのつながり)を感じた3台は、決して保守的なコンセプトカーというわけではありません。
VISION NEUE KLASSEとSUSTAINA-C Conceptは、ともに資源の循環利用を通じた、サステナブルな自動車の在り方を提案しています。
ICONIC SPは、カーボンニュートラル燃料で発電する2ローター・ロータリーEVシステムを搭載しているとのこと。
3台とも電気自動車であることは言わずもがな。
まさにイマドキの先鋭さを有したコンセプトカーに他なりません。
恥ずかしながら私は、二次原材料を採用することがどれだけスゴイことなのか、そしてロータリーEVシステムという機構がいかにして成り立っているのか、最新技術の殆どを理解することができていません。
イマドキのテクノロジーはあまりにも難解。
文系大学生にはとても咀嚼できるものではありません。
それでも、これらのコンセプトカーに懐かしさや親近感を覚え、少しでも知ろうと、理解しようと試みることができた理由は、彼らのデザインに“既知のクルマとの繋がり”を感じられたからだといえましょう。
JMS2023の会場で、私と未来のクルマを繋げてくれたものは、旧車のエッセンスを感じる自動車デザインだったのです。
難しくて忌避されがちな新しいテクノロジーと歩み寄るきっかけづくりとして、古の自動車デザインが再解釈されていることは、1人の旧車ファンとして、非常に喜ばしいことだと感じます。
■終わりに:見え隠れした未来の“モビリティ像”ここまでご紹介したのは、JMS2023の“モーターショー的な”部分。
このような自動車の展示は、従来のモーターショーでも行なわれていたもの。
これだけであれば、わざわざ“モビリティショー”と改題した意義を見出すことはできないでしょう。
JMS2023で、最大の目玉であったと個人的に感じるものが、主催者プログラムとして用意された「TOKYO FUTURE TOUR」の寸劇展示。
(クルマの形をしていない)モビリティが、今よりもはるかに人間の生活と融合した形で活躍している未来の東京の姿を見て、結構な衝撃を受けました。
モビリティってこんなに人間に寄り添えるんだ、という新鮮な驚きを覚えたのです。
モビリティの可能性を目の当たりにした気がします。
人間が多角的にモビリティを活用してより良い生活を築く未来は、もっと遥か先のことがと思っていました。
しかし展示を見ていると、意外とすぐに実現してしまいそうなリアリティを感じたのです。
このような“モビリティの在り方”の提案を通じて人々へ認知が広がれば、いずれきっと諸々の法制度の適切な検討・見直しにも繋がるはず。
そうすれば、私たちの生活はより便利で豊かなものになるのでしょう。
Japan Mobility Show第1回目は、非常に多くの学びを得ることができました。
新しいテクノロジーに触れることは、やはり大きな刺激になります。
その一方で、JMSというイベントが発達途上にあると感じたのも事実です。
次世代モビリティのまったく新しい在り方を提案したい主催者と、クルマというひとつの“様式”を前提として、より良い未来のクルマを提案する自動車メーカー。
この二者間にギャップを感じざるを得ませんでした。
今を生きる私たちとクルマの関係性は、まさに過渡期にあるのでしょう。
将来的に、クルマと次世代モビリティがより高度に融合した社会で、私たちはいったいどのようにクルマと付き合っていくのでしょうか。
楽しみでもあり、少し恐れも感じつつ…。
JMS2023、確かに「モビリティショー」と銘打つに相応しい展示だったと思えます。
[ライター・画像 / 林哲也]
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