ベントレー4台でスイスを目指すはずが
text:text:Steve Cropley(スティーブ・クロップリー)
translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)
プランはシンプルだった。英国からベントレー4台を連ねて、2020年のジュネーブモーターショーを目指す。ボディタイプは、サルーンとSUV、コンバーチブルにクーペと個性豊か。
英国のケント州からスイスのジュネーブまで、8名のジャーナリストが交代でドライブし、2020年のモーターショー・シーズンの幕開けを記念する旅。2名1組のペアを組み、クルー製の最新モデルを優雅に味わう機会でもある。
ラインナップは、SUVのベンテイガ・スピード、4ドアサルーンのフライング・スパー、グランドツアラーのコンチネンタルGT V8クーペ、コンチネンタルGTコンバーチブル。素晴らしい内容としか思えない。
出発地は、英国南西部のケント州に建つ中世の古城、リーズ城。集合は金曜日の夕方。ここからスイスまでは、1200kmほど。ジュネーブ・モーターショーは火曜日の開幕予定だから、スケジュールには余裕があった。
土曜日はフランスの邸宅で一泊し、日曜日にはアルプスの湖畔に面したホテルへ滞在。月曜日のプレ・オープニング・イベントへは、完璧なタイミングで到着する計画だった。本来は。
AUTOCAR英国編集部からは、編集長のスティーブ・クロップリーが参加した。夕食を楽しみながら、他のメンバーとの交流を深める時間も用意されていた。
しかし、ご存知の通り新型コロナウイルスの影響でモーターショーは中止。4台のフライングBは、プランBの実行へと移された。1340kmに及ぶ、当初のプランと同等のビッグツアーが急遽組まれた。
忙しなさが増すジュネーブ・モーターショー
数年前まで、ジュネーブ・モーターショーはライターにとって、ゆったり楽しめるイベントだった。クルマで会場へ向かい、1週間を通じて取材をし、記事にまとめる。難しいことはなかった。
ところが近年は、ネタ探しで忙しい。ビデオクルーはあちこちにいて、イザコザも絶えない。即時的に情報をリリースする競争は、加熱する一方。ライバルより10分早くニュースをサイトにアップできれば、大勝利といえる。
インクに汚れた手で記事を書いてきた古株にとって、そんなインフルエンサーの競争に巻き込まれないようにすることは、1つの挑戦でもある。自分らしさは変えたくない。
もしかすると、スイスへの豪華な3泊の旅行は、少々過ぎた内容だったかもしれない。丸2日間も、ベントレーに浸ることができるのだから。
ベントレーはスタイリッシュな振る舞いが大好きだ。上等なお肉の前には、しっかり食欲を高めたいと考えている。豊かなライフスタイルをメディアを通じて表現し、ベントレーを理解してもらうためのグランドツアーが組まれていた。
ジュネーブ・モーターショーは開かれなかった。新型コロナウイルスの流行は止まらず、ショーの中止が決定したのは、開幕のわずか3日前だ。
すでに4台のベントレーには、ジャーナリストの荷物が積まれていた。メンバーの中の6名は、海外からの参加者だ。通常の自動車メーカーなら、とても悔いながら、旅の中止を決断しただろう。事実を受け入れ、8名を家へ戻したはず。
急遽決まった1340kmの英国縦断旅行
だがベントレーは違った。イベントを率いるのは、マイク・セイヤーという人物。彼はいつも光を灯し、正しい方向へ導いてくれる。すべての試乗車が整い、同行するクルーも準備ができていた。
参加メンバーの8名はプランBの実施を喜んだ。ベントレーとのライフスタイルを体験するというアイデアは、まだ生きている。
ウイルスが蔓延する前の英国を、ジュネーブまでと同等の距離走る。途中、何か所かで休みながら、英国中部、クルーにあるベントレー本社を目指す旅。プランBも負けずに魅力的だ。
クルーでは、デザイン・ディレクターのシュテファン・ジーラフとともに、極めて少量生産されるバカラルのコンセプトモデルを鑑賞する予定。ベントレーのボスと、意見を交わす機会もある。
8名全員が、クルーを目指すことに賛同した。金曜日の夜は、1119年までさかのぼるリーズ城内部を巡り、ディナーをいただいた。とても優しく、味わい深いものだった。
ベントレーがジュネーブまで手配していたトラックは、進路をクルーへと変えた。われわれが到着する前に、大切な荷物を届けるために。
プランBは当初、ジュネーブの頭文字のGにちなんで、英国北部のグレンイーグルスへ立ち寄ることが考えられた。ところが、ホテルは空いていなかったようだ。
翌日、朝食の中で計画の修正が練られた。エディンバラまで向かい、スコットランドを西に横断し、南のクルーを目指すルートに決まった。総距離は1340kmになる。
滑走路を封鎖して250km/h以上を体験
土曜日の朝、ケント州を出発した一行は、グレートブリテン島を南北につなぐ高速道路、A1を北上。さらにA69とA68を進み、エジンバラを目指した。滞在するのは格式あるホテル・バモラル。素晴らしいディナーと、ウイスキーのテイスティングが待っていた。
翌日の日曜日は、少し離れたグレンキンチー蒸留所へと立ち寄った。香り豊かな、甘い琥珀色が楽しめる。そこから高速道路のA7を南下し、カーライルへ伸びる走りがいのある道、A74とM6へと入る。
当初、ジュネーブまでの旅程では、ドイツのアウトバーンでフライングBを飛ばす計画だった。その楽しみを奪われた8名へ急遽用意されたのは、カーライル空港。
空港の管理者は、短時間ながら、ベントレーのために長さ1.8kmの滑走路を閉鎖してくれた。午後のフライトまでの間、われわれは速度制限の厳しい英国にいながら、250km/h以上を体験することが許された。
ベントレー側の努力と、空港側の素晴らしい善意による結果だ。翼を解かれた4台のベントレーは、待っていましたとばかりに、堂々と滑走路を疾走した。
超高速域を楽しんだわれわれは、さらに南下。その晩は、国立公園の中に位置する街、グラスミアのフォレストサイド・ホテルで心身を休めた。
2回目の夜が明けた月曜日は、西のコッカーマスへ向かった。素晴らしい活躍を見せるレースカー、ベントレーGT3を生み出した、Mスポーツ社を訪れるために。
この続きは後編にて。
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