今年のF1グリッドに新たなチームが誕生した。ダニエル・リカルドと角田裕毅が所属するのはスクーデリア・アルファタウリではなく、ビザ・キャッシュアップRB F1チーム。今季チームが投入するマシンの名は、頭文字を取ったVCARB 01だ。
メディアはチームをフルネームでビザ・キャッシュアップRB F1チームとそのまま呼ぶことになるが、チームスタッフのメールアドレスに見られるように、チームの背後にある会社の正式名称はレーシング・ブルズだ。
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ファンやメディアは年々チーム名が変わっていくことに慣れていると言える。レッドブルがかつてスチュワートやジャガーと呼ばれたこと、メルセデスがティレルのエントリーを使用してBARとして誕生したこと、アストンマーティンがそれまでのミッドランド、スパイカー、フォースインディア、レーシングポイントと呼ばれる前はジョーダンだったことは忘れられがちだ。
同様に、イタリア・ファエンツァでミナルディとして発足したチームも、レッドブルによる買収後にスクーデリア・トロロッソ、スクーデリア・アルファタウリと姿を変えた後、現在のビザ・キャッシュアップRBに至った。
ただ今回の名称変更ほど、ファンやメディアから反発を受けたことはこれまでなかったに等しい。
ファエンツァにあるチームの体制変更は、過去4シーズンに渡りチーム名に冠されてきたレッドブル傘下のアパレルブランド“アルファタウリ”からのスポンサーシップを終了するというレッドブル社内の決定に端を発している。そこにはレッドブル総帥ディートリッヒ・マテシッツ死去による、マネジメント陣の変更も関係している。
チームでCEOを務めるピーター・バイエルは、チームがパートナーの名前にとらわれることを望まず、時代の流れに合わせてスポンサーが付けられるようなジェネリックなチーム名称を望んでいると強調していた。
そのため、セバスチャン・ベッテルやマックス・フェルスタッペン、カルロス・サインツJr.、そして紆余曲折あり現在もチームでドライブするリカルドらを輩出してきたトロロッソという名称に戻るという考えには至らなかった。その代わりに、レーシングブルズという名前が代替案として浮上した。
一方でチームのマーケティング担当は、レッドブルの組織全体からの協力も得て、アメリカを拠点とする金融業界の2大パートナーを獲得した。
ビザとキャッシュアップの代表は昨年のラスベガスGPで顔合わせを行ない、どのようにチームに協力し、どう共同スポンサーシップを活用していくかを話し合った。
そしてレーシングブルズという名前はいつの間にか影を潜め、代わりにスポンサーの名前を前面に押し出したRBという略称が採用された。頭文字を取ったVCARBは代替的な呼称として生まれ、マシン名称に取り入れられることとなった。
チーム名にスポンサー名が入れられるのは一般的なことで、レッドブルに付くオラクル、ハースに付くマネーグラム、メルセデスに付くペトロナス、アストンマーティンに付くアラムコなどがその例だ。しかしマシン名称も日常的にファンやメディアの目に触れる。
過去5シーズンに渡りアルファロメオとしてF1に参戦してきたチーム母体のザウバーという名前は今年、正式にF1のチームリストに復活。チームはタイトルスポンサーであるステークを使うことを望んでいるが、ザウバーという名前がチーム名称に入れられ、マシン命名規則も従来通りのため、無理してステークと呼ぶ必要がないのだ。
一方で、記号的なチーム名を用いてふたつの新スポンサーを強調する手法をとったRBに対して行き過ぎたマーケティング戦略だとみなす一部のファンやメディアもいる。皮肉なことに、新しいアイデンティティを生み出そうとする中で、VCARB 01のカラーリングはトロロッソ時代の後期マシンから多くを引き継いでいるのだが……。
「チームのリブランディングに関しては、多くの関係者を巻き込んだ複雑な作業だったと思う」バイエルCEOはそう語った。
「でも最終的にはとても満足している。ビザとキャッシュアップを抱えるという素晴らしい問題があり、レッドブルが我々をサポートし、このチームを次なるレベルへ引き上げたいと言ってくれたんだからね。この旅路に彼らは参加してくれているんだ」
「それが名前の理由でもある。少し長くて言いにくいけど、同時にこれはそのままを映している。ビザであり、キャッシュアップであり、我々をサポートするレッドブルであり、イタリアにあるレーシングブルズという会社でもある」
「確かにファンの間では混乱があったのを知っているが、彼らはすぐに慣れてくれた。多くの人々、特に若い人たちは、我々のことをビザ・キャッシュアップRBと呼んでいる。とても簡単なことだ」
「その他にもVCARB(という呼び名)があり、我々の会社はレーシングブルズだ。今はマシンに集中しているし、最終的に呼ばれ方がどうなるか様子を見るよ」
仮にレーシングブルズがチーム名として正式に採用されていれば、ファンやメディアにもすんなりと受け入れられた可能性が高い。ではなぜこの選択肢は消えてしまったのだろうか?
「歴史を遡れば、レーシングブルズという名前は、実際、レッドブルのフィロソフィーに沿っているのかもしれない」とバイエルCEOは言う。
「レッドブルには、マテシッツ氏が所有していた飛行機を集めたフライングブルズがある。だから論理的な帰結のように思える」
「そしてレーシングブルズはイタリアにある我々の会社名だ。我々は様々な選択肢について議論したが、少し長くて言いにくいと感じたんだ。ビザ・キャッシュアップ・レーシングブルズF1チームとなることを想像したら、君たち(メディア)は記事を書き終える頃には疲れてしまうだろう!」
「レーシングブルズをRBと略すというアイデアはそこから生まれた。それでRBとなり、仮にパートナーシップに変化があったとしても、我々が受け継いできたある種の歴史的な要素として、単純にシャシー名として残していく」
そしてバイエルCEOは次のように続けた。
「子どもがいる方は、その子の名前を決めなければいけない。そして『なんてこった。どうやったらその名前が思いつくんだ』という人もいれば、『素晴らしい名前だ!』という人もいる」
チームが名称をレーシングブルズではなくRBとしたのは、人々の感心をスポンサーに集めるための努力の一環だとしても、それがどれだけ成功するかは未知数だ。
ステーク/ザウバーと同様、チームの呼び方をめぐっては、メディアとチームとの間で表記の違いが続いていくことになりそうだ。
「これは我々が挑戦だと受け入れようとしていることだ」とバイエルCEOは言う。
「現実的に考えて、メディアがビザ・キャッシュアップRBと呼び続けることは予想できないと思う。しかしこれはチームとして、これらのパートナーに加わってもらうひとつの方法でもあった」
「そして特に、サーキット上のマシンを見た時、カラーリングを見た時、(ロゴなどの)露出を見た時に、パッケージが生まれる。これを実現するためにはスポンサーが必要だ。それが現実なのだ」
「株主からの支援やF1からの配当金もあるが、(予算)上限に到達するには十分ではない。では、その差を埋めるためにはどうすればいいのか? そう、手持ちのモノを売るしかない」
「それが悪いことだとは思っていない。RBよりもフェラーリ風になる方が簡単なのは明らかだから、賛否両論あるかもしれないが、中期的にはRBやレーシングブルズの要素はビジネスパートナーとの統合に対応できるほど強力だと考えている」
過去を振り返ると、チームはこれまで大型スポンサーの獲得に苦戦しており、アルファタウリ時代には他から大きなブランドを呼び込む機会があまりなかった。そして今、そのチャンスが巡ってきた。
そしてRBは名前だけではなく、もっと大きな展開を描いている。ザウバーがミュージシャンやインフルエンサーとの繋がりを作ろうとしているのと同様に、RBは新しいイメージを打ち出し、若い層にアピールしようとしている。今年のニューマシン発表会は、チームの望むカタチを完璧に示していた。
これまでのトロロッソ/アルファタウリの発表会では、最初のテストが始まる1時間前にマシンがピットレーンに押し出され、元チーム代表のフランツ・トストがカメラにちょっとしたスピーチを行なうのが基本だった。
しかし今回は、スーパーボウル開催を控えたアメリカ・ラスベガスで2500人が参加。従来のモータースポーツメディアのニーズはほとんど考慮されない、華やかで巨大なイベントが開催された。会場には豪華ゲストが訪れ、ケンドリック・ラマーやベイビー・キームら有名ラッパーによるパフォーマンスも行なわれた。
「パートナーとの主な話し合いのひとつは、パドックには小さなニッチがあると信じているということだった」とバイエルCEOは言う。
「全く新しい層を狙っていて、我々はソーシャルメディアを通じて若い層にアプローチしている」
「レッドブルの精神をチーム内で強化し、音楽を少し加えることで若い層にアプローチができると考えている。新車発表会を見てみると、このチームの物語がどのようになるのか分かると思う」
「もちろん、重要なのはレースだ。レースに対して我々はとても真剣だし、集中したい。しかし同時に、我々はこのチームにエンタメ性を持たせたいと考えている。パートナーシップを通じてサーキットへ来られないファンを招き、スポーツの普及を図りたい。(チケットが)高すぎたり、売り切れてしまっていたりするからね」
「例えばアメリカ戦では、都市でのイベントを追加して、ビッグな音楽アーティストを再び呼ぶアイデアがいくつかある。コース上でのパフォーマンスとコース外でのエンターテインメント、そしてレッドブルの精神の組み合わせこそが我々がファンに届けたいモノなんだ」
F1人気の高まりや、リカルドという人気ドライバーの存在もあり、チームはこのような新しい方向性を打ち出すことができた。要するに、タイトルスポンサーがいないよりは、その偏在性に不満を持つ人がいた方がマシということだ。
「これは素晴らしい問題だ」とチーム代表のローレン・メキーズは語る。
「数年前なら、ビザやキャッシュアップがこのスポーツに参入することを夢見るだけだった。我々は、このスポーツが投資に適したプラットフォームだと考えてくれる、この種のグローバル企業をどうしても見つけたいと思っていた」
「そして彼らはF1にやってきて、我々を選んだ。F1に来たことで、既に多くのチェックボックスを満たしている」
「これはとても良い問題だ。我々は多くの責任を負うことになる。それに全体をどうまとめるかという課題もある。でもこんな良いポジションにいられるなんてね!」
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