レクサスの新しい「LC500」に設定された特別仕様車「“EDGE”」の走りは凄かった! 山本シンヤがリポートする。
従来とは一線を画す作り込み
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2011年、アメリカ・カリフォルニア州のペブルビーチで3代目「GS」が発表されたが、北米のジャーナリストからは「レクサス(のデザイン)はつまらない」と、評価された。それを受けて手掛けたデザインコンセプトが「LF-LC」だ。2012年のデトロイトショーで披露したところ称賛の声が多数寄せられたため、豊田章男社長(当時)は市販化にゴーサインを出した。そのチーフエンジニアとして任命されたのが、現社長の佐藤恒治だ。
早速自身でレイアウト図を作成したものの「あのデザインとトヨタが持つリソースを組み合わせたところ、法規を満たさないどころかクルマにならなかった」と、言う。佐藤は豊田に「せっかくチーフエンジニア任命いただきましたが、このクルマはできません」と、伝えた。すると豊田は「今のトヨタだとできないのは分かっているからこそやるんだよ。それが挑戦だよね。そのためには、まず自分を変えることからじゃないの?」と、返されたという。
そこで佐藤はプラットフォームを含む主要構成部品を新規開発し、2017年に「LC」を市販化した。LCの意味はズバリ“Lexus challenge”である。
正式発売後も、できる改良は必ず織り込み、商品の進化を追求する“Always On”という考え方のもと、進化し続けてきた。その集大成ともいうべき1台が、2023年の大幅改良時に60台限定で発売された特別仕様車の“EDGE”(エッジ)である。
開発コンセプトはLCが追求してきた“切れ味”、“鋭さ”をより高みに引き上げること。そのために、従来とは異なる方法に挑戦したのだ。大量生産が得意なトヨタが苦手とする“少量生産”かつ“手間のかかるアイテム”の投入である。
エクステリアでは、フロントに世界初の樹脂成型技術が採用されたバンパー一体型のカナード、リヤは航空機の空力技術を応用した形状の固定式(CFRP製)ウイングを装備。さらに専用ボディカラー「マッドホワイト(HAKUGIN)」と、スプリット5本スポークの鍛造アルミホイールなどにより差別化を図る。インテリアはデザインの変更こそないものの、「KACHIIRO」と呼ぶブルーを使う。
肝心の走行性能面では、マニアックな変更が多数おこなわれている。最大のポイントはアルミ中空構造のリヤサスペンションメンバーの採用だ。重量は通常品(スチール板金製)とほぼおなじだが剛性は約2倍。しかも単なる材料置換ではなく入力が大きい部分は環状構造に変更。取り付け方法もノーマルとチギ、ブッシュを介さずに直接ボディと接合(余計な動きがない)する。
もちろん、これだけでは“リヤ勝ち”になってしまうため、フロントにコンバーチブル用の床下ブレースを追加し、前後バランスを整えているそうだ。これにあわせてサスペンションは専用チューニングがほどこされた。
違いに衝撃試乗すると、車両重量が1930kgとノーマルとおなじにも関わらず、LCよりひとまわり小さな「RC F パフォーマンスパッケージ」(車両重量1720kg)よりも小さく、軽いクルマに乗っている感覚だったことに驚く。最新のスポーツモデルは車両重量を感じさせない身のこなしに感心する機会が多く、“EDGE”もおなじだ。
コーナリング時の動きは、開発陣こそ「切れ味と鋭さを目指した」と、言うが、筆者はより素直かつよりスッキリとした印象を受けた。タイヤのグリップ力で無理やりクルマを曲げるのではなくクルマ全体で素直に曲がる感覚である。
さらに足まわりの動きは軽快。恐らく、セッティング自体はノーマルよりもややハードな方向と思うが、一般道で乗るとむしろノーマルよりもソフトに感じたほどさ。明らかにバネ下が軽い! と、感じる抵抗感のない足の動きで、入力をスッと抑えるショックの吸収性から、バネ上のフラット感を含めた快適性はノーマルよりも間違いなく高い。
歴代LCの弱点のひとつだった直進安定性も激変。たとえば高速道路で「Lexus Safety System」のLTAを使うと、ノーマル以上にステアリングに軽く手を添えるだけで外乱に影響せずビシーッと真っすぐ走るのだ。アルミ中空構造のリヤサスペンションメンバー採用によるリヤの安定性アップと、空力アイテムによる空力操安向上の相乗効果によるのだろう。
ちなみにパワートレイン/ドライブトレインにもひと手間くわえられている。“EDGE”はV8-5.0Lのみの設定となるが、ムービングパーツの質量合わせやシリンダー径のミクロン単位の作り込みを実施。さらにリヤデファレンシャルは熟練技術者が手作業でバックラッシュ再調整をおこなう。スペックの変更こそないが、フィーリングを高める高精度チューニングが施されているのだ。
その印象はフットワークほど劇的ではないものの、実用域では微細なアクセルコントロールにも反応する、扱いやすさが印象的だった。中~高回転力域はまわせばまわすほど滑らかになっていくフィーリングとサウンドにより、今まで以上に洗練されたユニットに仕上がっていた。
“EDGE”の走りは、大幅改良の域を超えた進化だった。そんな“EDGE”で採用されたアイテムの一部を既販車用としてパッケージ化したオプション「LEXUS LC Performance Upgrade Package」としてKINTO FACTORYが設定する。筆者はパッケージ装着モデルにも試乗済みだが、“EDGE”の8割程度は“再現”されていた。
価格は部品と作業工賃含む200万円(トヨタ自動車元町工場でトヨタ自動車の整備士が実施)。仮にノーマルのLC500(1400万円)に施工した場合1600万円だから、“EDGE”(1760万円)よりも安くおさまる。想像以上に走りが変わるのだから、興味のある人は是非トライすべし。
文・山本シンヤ 写真・レクサス 編集・稲垣邦康(GQ)
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