ここ10年ほどで、日本車のデザインレベルは目に見えて上がっている。筆者は2002年から2014年までベストカーにて、元日産チーフデザイナーの前澤義雄氏とデザインに関する対談を延々行っていたが、連載開始当初、まだ日本車のデザインレベルは高くなく、多くの駄作の中に稀にキラリと光る逸品がある程度。
平均レベルは欧州車に比べ大幅に低かった。振り返れば、戦後の自動車黎明期から、ずっとそういう傾向が続いていた。
ちょっとだけS2000を彷彿!? 新型シビック 6MT車は最後のホンダらしい「純エンジン&MT」かもしれない!!!
ところが近年は明らかな失敗作がほとんど消え、平均レベルが劇的に向上。しかも、失敗を恐れない挑戦的な姿勢が顕著になり、ユーザー側も挑戦的なデザインにほとんど拒絶反応を示さないという、正のスパイラルになっている。
あまりにも挑戦的なデザインに、保守的なクルマ好きが拒絶反応を示すケースも少なくないが、万人受けする無難なデザインからの脱却が、日本車のデザインを大きく飛躍させたのは確かだ。
ただ、傑作中の傑作デザインを抽出すると、昭和の日本車も光り輝いていた。デザインは半世紀ほどたつと、単に古いだけでステキに見えてしまう部分があるので、「懐かしの国産名車」は、どれもこれも光り輝いて見える。当時と比べると飛躍的にレベルアップしたはずの現代日本車デザインもたじたじだ。
そこで今回は、昭和のデザイン名車と平成以降のデザイン名車を対決させてみた。果たして勝敗はいずれに?
なお、エントリーモデルは独断により決定いたしております。あくまで私的な脳内バトルですので、気軽に読み飛ばしていただければ幸いです~。
文/清水草一
写真/トヨタ、日産、ホンダ、スバル、マツダ、三菱、スズキ、ダイハツ
【画像ギャラリー】昭和vs平成令和 多くのファンを魅了したカーデザインを徹底比較!!
■スポーツカー部門デザイン対決その1
●昭和代表/初代フェアレディZ(S30)
●平成以降代表/4代目フェアレディZ(Z32)
ロングノーズ・ショートデッキスタイルが際立つ初代フェアレディZ(Z30型)
1989年登場のZ32型フェアレディZ。歴代Zのなかでは異彩を放つデザインをもつ
昭和の日本車を代表する名車として、まず初代フェアレディZを選出。それにぶつけるにふさわしい平成のスポーツカーは、やっぱり平成のフェアレディZだろう……と思いましたが、結局平成元年登場のZ 32になってしまいました。
すでに発表済みの新型フェアレディZでもよかったんだけど、あれは初代のオマージュ作。元祖とオマージュを戦わせても、オマージュに勝ち目はない。Z33,Z34はまったく役不足なので、自然、前澤義雄氏がチーフデザイナーを務めたZ32になった次第です。
初代フェアレディZのデザインは、ジャガーEタイプをモチーフにしていると言われるが、確かにそのロングノーズ・ショートデッキスタイルは、コンパクトでありながら実に雄大でカッコイイ。
なかでもノーズの左右をスプーンですくったようにえぐった丸目のヘッドライトは、ジャガーEタイプの大衆車的解釈とでも言おうか。Zに独特のエレガンスを与えている。日本車史上、最もカッコいいクルマは、いまだ初代フェアレディZではないだろうか!?
対する4代目のZ32型は、それまでのZのデザインを大きく変え、ミッドシップ的なキャブフォワードにルックに。全幅を思い切って拡大したことで、それまでのZにはなかったグラマラスなフォルムを実現した。登場した時はそりゃもう、その迫力に震えが来て、迷わず買ってしまいました。
この2台を今比較すると、Z32が歳月の荒波に揉まれて微妙に色褪せ、パネル面の緊張感不足(たるみ)が目に付くのに対して、初代はその傑作ぶりがますます輝きを放っている。S30Z、昭和の圧勝だ。
■スポーツカー部門デザイン対決その2
●昭和代表/初代セリカ
●平成以降代表/現行スープラ
シンプルかつ美しい造形の初代セリカ。リアフェンダーの流線型の曲線はジェット機をモチーフにしたもの
現行型スープラ、初代と比べるとずいぶん筋肉質になった気がする
初代セリカは「ダルマ」と呼ばれた昭和の名作。それにぶつけるべきは、リボーンしたスープラだろうということで、選出させていただきました。
ダルマセリカは、当時の国産車としては珍しかった曲線的なフォルムから命名されたが、今見てもシンプルで美しい。イメージは、「大空を飛ぶジェット機」だったという。リアフェンダーのふくらみは、ジェット機の翼が発生させる空気の流れのイメージなのですね。
対する現行スープラは、筋肉が付きすぎて女子から嫌われるボディビルダーっぽくはないだろうか。すべての造形が溶けて流れ落ちそうで、それが豊かさを連想させない。マッチョすぎて速さも強さも感じさせない……。
ということで、初代セリカの圧勝。現行スープラを出した時点で失敗でした。ごめんなさい。
■セダン部門デザイン対決
●昭和代表/ブルーバード510型
●平成以降代表/プリメーラP10型
初代510型ブルーバードの高性能モデル「SSS(スリーエス)」
1989年10月にデビューした初代P10型プリメーラ。設計開発を手がけたのはR35型GT-R開発責任者の水野和敏氏
昭和のセダン代表が510ブルという選出に対しては、大いに異論もあるでしょう。対抗馬はハコスカでしょうか? でもね、510とハコスカを見比べるほど、510のスッキリしたさわやかな味わいが心に沁みるんですよ。
昭和はセダンの全盛期だったから、他にもあるんじゃないかと思ったけど、一番シンプルにカッコいいのは510でした(私見です)。
対する平成の国産セダンは……。これがもうぜんぜん思い浮かばない! もちろんいいデザインもたくさんあったけど、「これ!」というのがない。
個人的には8代目アコードや5代目インスパイアは、シンプルでバランスがよくてスポーティだと思うのですが、あまりにも世間的なインパクトがなく、ほとんどの人が形を思い浮べられない。
そこで、地味ながら世紀の佳作と言われた初代プリメーラにさせていただきました。これも平成初頭の作品ですが。
で、510対P10。P10もいいんだけど、やっぱり佳作なんだよね。一方510のフォルムは、今でもリバイバルさせたいシンプルな力強さに満ちている。日産IDx、商品化してほしかったなぁ。
ということで510の勝ち! なんと昭和の3連勝。大丈夫か平成。
■ハッチバック部門デザイン対決
●昭和代表/3代目シビック(ワンダーシビック)
●平成以降代表/現行マツダ3ファストバック
ホンダがF1に復帰する1983年に登場した3代目ワンダーシビック。メカスペースを最小限に、居住空間を最大限に確保する「M・M思想」を体現した1台だ
鼓動デザインに磨きをかけたマツダ3ファストバック。色気すら漂うデザインにワンダーシビックもかなわない!?
現代の日本車デザインの最高峰のひとつが、マツダ3ファストバック。対する昭和代表はワンダーシビック! どちらもシンプルな美を極めた作品だ。勝つのはどっちだ!?
コンセプト的には、シビックの勝利だ。マン・マキシマム、メカ・ミニマムを体現した砲弾型デザインは、まさに機能と美の両立!
対するマツダ3も、シンプルな美を極めているが、かなりデザイン優先で、居住性が割を食っていたりする。
しかしそれでも、マツダ3のパネル面の美しさは凄い。どこにも余計なラインやエッジがない。まさに彫刻! ここまで気合を入れてデザインしてくれたら、マツダ3を応援したくなる。マツダ3ファストバック、平成以降の勝ち……でいいですか? ようやく1勝。
■軽自動車部門デザイン対決
●昭和代表/スバル360
●平成以降代表/初代ワゴンR
てんとう虫のような小型でかわいらしいデザインのスバル360
今も大人気の軽ハイトワゴン、初代ワゴンRこそがブームの火付け役だ。究極の箱型デザインに伊デザイナーのマルチェロ・ガンディーニもホレボレ!!
スバル360は、日本の大衆車の草分け。その設計コンセプトはあまりにも独創的であり、デザイン的にも真の傑作だ。あんなにちっちゃいのに、室内は広々してるんだから本当にスゲエ。
対するは、現代のトール/ハイトワゴン時代を切り開いた軽の革命児・初代ワゴンRだ。これはスバル360とは真逆の、究極の箱型デザイン。超絶シンプルな箱型が、なぜこんなに人の心を奪うのか!? なぜ? どうして!? と言わずにはいられない超絶傑作である。かのマルチェロ・ガンディーニ氏も「世界最高の自動車デザイン」と絶賛したという。
この勝負、ガンディーニ氏のお墨付きもあって初代ワゴンRの勝ち! 確かに軽トール/ハイトワゴンは、日本独自のデザイン世界であり、世界に誇る奇観です。平成の連勝だ。
■SUV部門デザイン対決
●昭和代表/初代パジェロ
●平成以降代表/現行ジムニー
素朴でゴリ押し感のないデザイン。パジェロは初代が一番だ
歴代のデザインコンセプトを継承しつつ、20年ぶりに刷新したジムニー。2018年グッドデザイン金賞(経済産業大臣賞)に選出された
今をときめくSUV。昔はSUVなんて言葉なかったけど、クロカン4WD系のボディタイプということで、十把一絡げにさせてください。
その昭和代表は、言わずと知れた初代パジェロだ。ジープをちょっと都会的に仕上げてみました、という三菱の無欲が大勝利を生んだのですね。改めて見ると、実にシンプルな箱型で、これがなんともカッコいい。パジェロは初代が一番カッコいい!
対する平成以降代表は新型ハリアー……ではなくジムニーです。誰も異論はないでしょう。まさに究極のミニマルデザイン。デザインレスなんだけど極限のデザイン。
あまりにもシンプルであるがゆえに、突っ込みどころがどこにもない。ある意味完璧な自動車デザインだ。初代パジェロもシンプルだけど、現行ジムニーにはやっぱり負ける。現行ジムニーの勝ち!
なんと平成以降が3連勝で同点に追いつきました!
最後の決着はミニバン部門! と思ったけど、国産ミニバンが生まれたのは平成になってから。昭和にもあったけどプレーリーとかしかないので勝負にならない。じゃ最終決戦は何部門!?
■最も美しいクルマ部門デザイン対決
●昭和代表/トヨタ2000GT
●平成以降代表/現行ロードスター
最も美しいクルマ部門、昭和代表の大将として送り出されたトヨタ2000GT。全高1160mmという極めて低いボディが形づくる流線フォルムはカーデザインのお手本だ
デザインも走りも究極に磨かれたND型マツダロードスター。テールがキュッと張り出しており、全体的なバランスの良さでは2000GTを上回る
これぞ頂上決戦! もう何も言うまい。どっちが上なんだ!? どっちなんだ!? ロードスターの勝ち!
腐るほど異論はあるでしょう。そりゃあ2000GTは美しいです。斜め前から見ればフロントフェンダーの峰はたおやかに盛り上がり、それが波のように後ろへと流れている。サイドビューはロングノーズ・ショートデッキのお手本。さすが国産唯一のボンドカーだ。
が、ロードスターも負けてはいない。基本的なフォルムは同じ! 2000GTほどじゃないけれどロングノーズ・ショートデッキで、フロントフェンダーの峰は美しく盛り上がり、波のように後ろへと流れている。
これがFRスポーツカーの基本中の基本形、不動の文法なのである。その文法のなかで、ロードスターの美しさはアストンマーティンDB11にも匹敵する!
ロードスターが2000GTに勝るのはリアビューである。ロードスターのヒップは、美しくキュッとアップしているじゃないか! まるでいい女の後ろ姿。抜き去って行くロードスターは、このお尻から排気を噴射するそぶりを見せながら、軽やかに去っていく。
一方の2000GTは、お尻が小さすぎて、明らかにフロント部に負けている。スポーツカーは後姿が命! そこが惜しい!
ということでロードスターの勝ち! 4勝3敗の大逆転で平成以降の勝利となりました。
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みんなのコメント
前澤氏の生み出したZ32の美しさは言うまでも無いハイレベルのものでしたが、整備士さんに聞くとボンネットが低すぎるデザインのためメカがボンネット内にギュウギュウで整備性最悪、大変な代物との評判ですね。
私は記事の最後にある頂上決戦、2000GT対NDロードスターというのも理解は出来ますし、どちらも好きですが、自分が乗っていた思い入れも含めてR32スカイラインやFD型RX-7なども傑出したデザインと思います。あと初代NSX。
デザインは好みが出ます。昔はプレスラインを複雑には出来なかったようですので、直線的なデザインばかりでしたが、今は豊かな曲線がいくらでも描けます。確かにレベルアップしていますが、車自体の高価格化はなんとかして欲しいものです。買えませんからねぇ・・