もう40年近くも前になるが、まだ10代だった私のバイト先であるガソリンスタンドに2代目「フェアレディZ」でやってくる常連客がいた。当時は、いわゆる“スペシャリティ・カー”であれば日本メーカーからも数多く発売されていたものの、フェレディZのように車高が低く、いかにも走りがよさそうな本格的スポーツカーは極めて珍しい存在だった。
だから、件の常連客が訪れるたびに、ガソリンスタンド内をちょっとだけでも運転したいと期待していたが、いつもその役まわりは先輩によって奪われ、私はフェレディZの美しい姿態を、ただ指をくわえて眺めているしかなかった。
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2代目フェアレディZは1978年~1983年に生産・販売された。そんなフェアレディZが誕生50周年を迎えた。今回、誕生50周年を記念した特別仕様車が、2020年3月末までの期間限定で販売されるという。
私にしてみれば、昔懐かしい恋人とふたたび巡り会うようなもの。いや、自分ではついに所有できなかったのだから「密かに思いを寄せていた片思いの同級生」というべきか。そんなフェアレディZに短時間ながら試乗することができた。
【主要諸元】全長×全幅×全高:4260mm×1845mm×1315mm、ホイールベース:2550mm、車両重量:1500kg、乗車定員:2名、エンジン:3696ccV型6気筒DOHC(336ps/7000rpm、365Nm/5200rpm)、トランスミッション:6MT、駆動方式:FR、タイヤサイズ:フロント245/40R19、リア275/35R19、価格:458万8920円(OP含まず)。メーカー側の説明によれば、記念モデルといってもエンジンや足まわりを特別にチューンアップしたわけではない。専用カラーリングを施し、記念バッジを装着、かつインテリアの素材を部分的に見直し、いくつかの専用装備を盛り込んだだけのようだ。
ちなみに、現行フェアレディZは2008年のデビュー。つまり誕生からすでに10年以上が経過しているわけで、乗り味の点では多くは期待できないと予想していた。
リアは、50周年記念バッヂ付き。10年以上前のクルマとは思えぬ魅力ところが、実際に試乗してみると、嬉しい驚きが待っていた。
サスペンションは硬めであるが、ダンパーの作動が適切なうえにボディ剛性が高く、ゴツゴツした路面を通過してもいやな衝撃は伝わってこない。「自分はこれからスポーツカーに乗るんだ」という覚悟さえ持って乗れば、むしろ拍子抜けするくらい快適な乗り心地である。
サスペンションはフロントがダブルウィッシュボーン式、リアがマルチリンク式。搭載するエンジンは3696ccV型6気筒DOHC(336ps/7000rpm、365Nm/5200rpm)。しかもボディはしっかりとフラットに保たれているので長距離走行でも不満は感じなさそう。洗練されているといってもいいだろう。
テアリング操作量が少ない範囲では、クルマ自らがステアリングを中立状態に戻そうとする力(反力)がしっかりとくわわるので、高速道路をまっすぐ走るのは実に容易だった。
本革巻きステアリング・ホイールは、オーディオおよびナビゲーション用スウィッチ付き。タイヤサイズはフロントが245/40R19、リアが275/35R19。アルミホイールはレイズ社製の50周年記念モデル専用デザイン。ステアリング・レスポンスそのものも悪くないが、これだけ高速直進性が優れているのならグランド・ツアラーとしても使えそうだ。
いや、むしろそちらのほうが向いているというべきか。ただし、大舵角では反力が弱くなるのでドライバーが自分でステアリングを戻さなければいけなくなる。些細な話であるが、軽く年代を感じさせるポイントではある。
グランド・ツアラー型のエンジンフロントに搭載されるVQ37VHRエンジンは、もはや最新世代とは言いがたい3.7リッターV型6気筒自然吸気エンジンであるが、1500~4000rpmでしっかりとしたトルクを生み出してくれるうえ、静かでスムーズ。
反対に、6000rpmを越えると、まわり方が息苦しくなってバイブレーションも増え始める。したがって、ここでも低中回転域でゆるゆると走らせるのが得意のグランド・ツアラー型といえる。
現行フェアレディZは2008年に登場。かつてのフェアレディZと異なり2シーターのみの設定。トランスミッションは6MTのほか、マニュアルモード付き7ATも選べる。シフトノブフィニッシャーは50周年記念バッチ付き。試乗車のギアボックスは6速マニュアル。操作力は微妙に重めであるが、シフト・ストロークが短めなうえ、ゲートも明確で小気味いいギアチェンジが楽しめる。しかも、スウィッチひとつでシフトダウン時、自動的にエンジン回転数をあわせてくれるブリッピング機能もついているので、かつて懸命に練習したヒール&トーをいまさら思い出す必要もない。
クラッチは、感触が平板なため最初はつながるタイミングがわかりにくいかもしれないが、踏力自体は重くないので多少の渋滞路であれば苦にならない。「久しぶりにMTに乗ってみるか!」という向きにはうってつけかもしれない。
メーターパネルはアナログタイプ。平均燃費や航続可能距離などを表示するマルチインフォメーション・ディスプレイはモノクロ表示。インパネ上部に設置された3眼サブメーター(デジタル時計、電圧計、油温計)。駆動方式はFRのみ。JC08モード燃費は9.1km/L。古くたっていいじゃないかただし、インターフェイス系は明確に古い。ナビのディスプレイは小さく、スイッチ類のデザインや操作方法もなんとなく古くさい。だからといって実用性が不足しているわけではないが、最新の操作系になれきっている若い担当編集者はこれだけでクルマ自体が少々古いと思ってしまったそうだ。
でも、これはこれでいいじゃないかと思う。乗り心地は悪くなく、直進性は良好で、エンジンも低回転域であれば十分に力強くてスムーズ。つまりロング・クルーザーとしての資質は十分に備えているわけで、引退した団塊世代が長年連れ添った奥様と一緒に小旅行に出かけるという用途にはぴったりのような気がする。タイトな2シーターのキャビンも、ぜいたくなクルマに乗っているという感慨を覚えさせてくれるはずだ。
スウィッチ類の多いインテリア。純正ナビゲーション・システムはオプション。50周年記念ロゴ入りの電動調整式シート。シート表皮は本革×スウェード調ファブリックのコンビタイプ。ラゲッジルーム容量は235リッター。さて、冒頭のエピソードに話を戻すと、あるとき、件のフェアレディZを洗車機に入れる仕事が私のもとに転がり込んできた。
まさに千載一遇のチャンスである。私は喜び勇んで、でもそのことが誰にもばれないように注意しながら運転席に腰掛け、Zを発進させた。
2代目フェアレディZは、2.0リッターのL20型直列6気筒エンジンのほか、2.8リッターのL28型直列6気筒エンジンも選べた。しかし、微低速でステアリングを切ろうとしてもビクともしない。当時の私はそれなりにノンパワーアシストのクルマに乗り慣れていたが、それにしてもフェアレディZの操舵力はケタ違いに重かった。巨大さゆえに堅牢なことで知られたL20型直列6気筒エンジンの重さを、私はそのとき間接的に思い知ったような気がした。
いまから40年ほども昔の話である。
文・大谷達也 写真・安井宏充(Weekend.)
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